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【独占インタビュー:Adam Back】 ブロックチェーンが変えてゆく未来(前編)

ビットコインの重要技術である「Proof of Work (以下、PoW)」を発明した、Adam Back氏にブロックチェーン技術の可能性、応用事例、そして課題について語ってもらった。
Adam Back氏は、PoWで使われるアルゴリズム「Hashcash」を1997年に考案し、暗号通貨の発展に大きな貢献をした。現在は、Blockstream社の社長 兼 共同創業者として、ブロックチェーン関連サービスの開発を促進するためのオープンプラットフォーム技術「サイドチェーン」開発をリードしている。
2016年7月の来日時にDG Lab Haus編集部が行った独占インタビューの前編。

【独占インタビュー】ビットコインの重要技術「Proof of Work」の父、Adam Back氏

“ユーザーに利益を、市場にイノベーションを、
研究に最先端技術の発展をもたらす”

DG Lab Haus編集部(以下、DLH):ブロックチェーン技術の可能性、活用の仕方について、どのように考えていますか?

Adam Back氏(以下、Adam):ビットコインは、ブロックチェーンを発展させる力があり、可能性があると思われていますが、ビットコインネットワークは、ビットコインの決済を行うことしかできません。また、ビットコインはアセットが揃えば、スマートコントラクトの領域までカバーすることができますが、スマートコントラクトもその可能性を考えると、まだ全ての可能性を発揮しているとは言えません。そこで私たちは、ブロックチェーンを株やポイントサービスなどの金融決済手段、そして小口決済に活用できると大いに期待しています。

DLH:消費者の目線から見て、ブロックチェーンは人々の生活をどのように変えると思っていますか?

Adam:はい、ビットコインの一部としてスマートコントラクトを紹介しました。ブロックチェーンを使えば、もっと柔軟なスマートコントラクトや、スマートコントラクトを使った金融商品の可能性なども考えられます。ブロックチェーンを使って、年金制度やマーケットの一部として、金融商品を買うことが一般的となってくるでしょう。例えば、ストラクチャードプロダクト*1デリバティブ*2、そしてポートフォリオのプロファイルリストを作るために様々な金融商品を買っている金融アドバイザーによって管理されている年金制度を、金融商品としてブロックチェーンを用いて購入することになるかもしれません。

現在はこのような金融商品は、国など第三者の認可を受けた機関が作っていますが、ブロックチェーンを使えば、金融商品を扱っている契約行為や金融商品自体、そして一定の有効期間を持つ金融商品を作ることができます。スマートコントラクトは、取引履行リスクを置換することができます。

スマートコントラクトでは、消費者は金融商品そのものを信用することができます。なぜならブロックチェーンによって、金融商品自体が自ら取引を行い、また行われるからです。消費者は、見えない資産の管理者やスマートコントラクトの妥当性、安全性について考えることになりますが、契約の発行者自体を信頼する必要はありません。

これによって、過去の取引履歴が少なく、歴史の浅い中小企業でも市場に参入し、より革新的でコストの低い金融商品を提供することができるため、新たな競争が生まれ、イノベーションのスピードも速くなります。結果的に、ユーザーには利益がもたらされます。多くの関係者を介することなく、少ない信用力で取引が行えるため、未払いや二重払いなどの金融機関によるリスクも少なくなります。

ブロックチェーンでは、当事者間の取引の信頼性が保証されており、エンドユーザーや金融機関同士の取引を保証するリアルタイム監査の仕組みがあるので、現在の金融システムを維持するコストが下がったとしても、またブロックチェーンにシステム上のリスクがあったとしても、最終的にはブロックチェーンベースの金融インフラが増えるでしょう。このようなことが鮮明に見えていない現在、そして今後数年は、監査法人は信用の基準を厳しくしなければならず、金融機関によるリスクが伝染したり、それに伴うシステミックリスク*3の影響を受けたりして、結果的にその負担は、ユーザーに跳ね返ってきます。このようなリスクは、透明性を持ち、スマートコントラクトによって解決されるべきであると考えています。

*1 ストラクチャードプロダクト…株式や債券などの伝統的な資金調達手段にとどまらず、取引上の仕組み(Structure)を工夫することで組成される新たな金融商品
*2 デリバティブ…債券・株式など本来の金融商品から派生した金融商品。先物取引やオプション取引、スワップ取引などがある。*3 一つの金融機関の支払不能や決済不履行等や、特定のマーケット(市場)または決済システム等の機能不全が、他の金融機関、他の市場、または金融システム全体に連鎖的に波及すること

Profile

Adam Back

Blockstream Corp. 社長 兼 共同創業者

アダム・バック氏は1995年以来、電子決済プロトコルの先進的暗号作成に携わっており、ビットコインに用いられる「hashcash proof-of-work」及び「分散型マイニング方式」の発明者でもある。また、Credlibを実装した開発者であり、ノキア社、クレデンティカ社(後にマイクロソフトが買収)の電子決済顧問を経験している。
また、同氏はゼロノレッジシステム社にてTorの前身であるフリーダムネットワークの開発を行ったアーキテクト、暗号研究者でもある。加えてoneID社、Vmware社、QWcap社など大手セキュリティー会社の技術顧問を経験しており、最近ではPicorp社を共同創業、顧客管理部門DechoのCSOを務め、EMCによって買収された。
エグゼター大学分散システムとコンピューターサイエンス博士課程を修了。

関連リンク

Blockstream
Twitter: Adam Back

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