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【JOI ITOブログ特集①】「人工肉」でサステイナブルな社会を実現する!NEW HARVESTの挑戦

非営利組織NEW HARVEST代表のIsha Datar氏(左)と対談するJoi

非営利組織NEW HARVEST代表のIsha Datar氏(左)と対談するJoi

MIT Media Lab所長の伊藤穰一氏(以下:Joi)のブログでは、絶えず更新される自身の考えを公開したり、様々な分野の第一人者とディスカッションしたりする様子がアップされている。本特集ではテーマが多岐にわたるブログの中でDG Lab Haus独自の視点で今後注目されると思われるテーマを取り上げ解説していく。

最初のテーマは「人工肉」。テクノロジーに明るい読者やFoodTechに興味を持っている読者なら一度は聞いたことがある言葉だと思う。2013年に人工肉をパテに使ったハンバーガーがお披露目されたが、製造にかかったコストが$330,000と高いため一般には普及していない。しかし、半導体業界においてムーアの法則に従い劇的にコストダウンが起ったように、本技術においても指数関数的にコストが下がり、普通の肉と同じ価格で提供される日もそう遠くないかもしれない。

2016年9月、Joiが「人工肉」「人工卵」「人工ミルク」の製造を研究している非営利組織NEW HARVEST代表のIsha Datar氏(以下:Isha)と対談を行った。対談は英語で行われ、その様子は動画で一般公開されているが、本記事ではDG Lab Hausが対談の要点を日本語でまとめた。

2人が知り合ったきっかけ

Joi:今日が会ったのは初めてだけど、Shuttleworth基金でフェローを行った時にIshaのことは知っていた。Ishaは僕が関わっているとは知らなかったでしょ?

Isha:知らなかった。Joiのツイートで知った。だから今こうやってディスカッションできることにとてもわくわくしている。

NEW HARVESTが行っていること

Isha:寄付によって設立された団体で、動物由来(家畜)ではなく細胞培養により食物を作る研究をしている。なぜなら物理的な農場の限界があるから(世界の人口増加に供給が追いつかなくなるという意味)。

HPより転載:http://www.new-harvest.org/

具体的には、酵母菌を用いて人工ミルクを製造したり、卵のタンパク質を人工的に製造したり、筋肉細胞を集め細胞培養することで人工肉を製造したりするプロジェクトを行っている。

Joi:あるアーティストと話した時、この人工肉のプロジェクトは馬鹿げていると言っていた。ごく少量の筋肉細胞を集めるのに、何頭もの牛が必要だから。この技術はスケールすると思う?

Isha:細胞培養によるハンバーガーが作れたのはまずは技術的実証ができた段階であり、まだ革新的な新技術には至っていない。ゴールはこの技術で大量培養を可能にすること。今行っている研究で興味深いのは、ターキー(七面鳥)を用いたもの。

 

 

Joi:これは何を原料に作っているの?ゴールは?

Isha:これはまだ動物由来でターキーの筋肉細胞を培養している。ゴールは生きている動物から食物を作るよりも環境負荷が低い方法で作り出すこと。また、環境負荷の側面に加え、食品の病原菌問題や抗生物質への耐性などの解決にも寄与すると思っている。

人工肉の目指す未来は?

Joi:人工肉はビーガンではないし、動物の肉でもない微妙な立ち位置だと思う。それらをどう呼べばいいの?

Isha:私たちは”cell culture meat(細胞培養肉)”と呼んでいる。なぜならそれらは細胞培養で作られるから。

Joi:細胞培養肉を作るために多くの家畜を殺さなければいけない(家畜から筋肉細胞を抽出するために必要である)のは目指すところではないと思うけれど、どういったアプローチで解決出来ると思う?植物から作り出せるようになる?

Isha:植物から作れるようになると思う。それは今後研究していく。組織細胞のプロセスにはいくつかのレイヤーがあり、細胞はもっとも根底にあるレイヤー、その次に培養を効率的に行うレイヤーがある。

Joi:肉は味も大事だと思っているけれど、それらを合成して面白い味や特定の料理にあった味を作り出すことはできる?

Isha:最初にバイオテクノロジー技術を使った食品は発酵食品。ミルクを臭くて粘り気があるものにしたくはなかったけれども、現代ではバイオテクノロジー技術によりチーズとして製造されている。そのため、私たちが行っている普通とは異なった食品の製造が実現すると、経験したことがない世界になるに違いない。味は最近のトレンドでは化学を用いた方法(食品添加物など)で調整されてきた。我々はそれを生物学で作っていくので、より自然であると言える。

コミュニティ作りを第一に考えるNEW HARVEST

HPより転載:http://www.new-harvest.org/grants

Joi:技術や研究内容はとても素晴らしいと思う。加えて確認したいのは、団体の目的は特許を取得して大金を稼ぐようなことではなく、コミュニティ作りを行っているということ。

Isha:今私たちの研究段階はとても初期のため、新しい業界の根底にあるすべてのシステムを作れるところにいると思う。仮に私が現状の食品業界を一から作れるとしたら、すべてをオープンにしてシステムを作っていく。誰もが食品を必要としてそれはかけがえのない地球で作られるため、平等であるべきだから。

私たちが研究している細胞はツールのようなもので、オープンにして多くの人々に使ってもらうことで多様性ができると思っている。世界の4社が肉業界の90%を牛耳っているような世界にはしない。

Joi:NEW HARVESTは非営利団体だが、団体の構造はどうなっている?

Isha:私たちは約420人のドナーから成り立っている。一人に所有されているわけでも、一つのグループになっているわけでもない。今は興味深い研究を行っている研究者に対して助成金を出している。NEW HARVESTは触媒みたいな立ち位置。しかし、お金を集めて助成金を出すだけではなく、コミュニティ内での連携を意識しており、誰かが培養に適した細胞作りに成功したら、それを使って他の研究者が違うものを作ることができる。それらに加え、自分たちの研究所も持っており成果はソフトウェアでいうオープンソースのような形で公開している(プロセスを広く一般に公開し、誰でも自由に活用できるという意味)。

NEW HARVET の研究所

Joi:何人で活動しているの?

Isha:チーム内にフルタイムのメンバーは3人しかいない。それらに加え、今ある3つのプロジェクト(人工肉、人工卵、人工ミルク)それぞれに数人の研究員がいる。私たちに唯一限られている要素はお金だけ。なぜなら慈善事業で行っているから。

Joi:競合はいる?たぶん、営利団体になると思うけど。

Isha:同じことをしている人たちは競合というより友達。私たちのステージがまだ初期で、小さすぎるから。

Jess(左)とMarie(右)とバイオリアクター装置

Isha:これは私たちが細胞培養しているバイオリアクター(*1)。装置を大きくすることで一度に大量の細胞を培養出来るようにしている。

(*1)バイオリアクター:生体触媒を用いて生化学反応を行う装置の総称。

ターキーの次に目指すもの

Joi:ターキーのバイオリアクターはできたと思うけれど、次は何に賭けるの?

Isha:無血清培地は大きな可能性がある。なぜなら数多くの独自に作られたものはあるけれど、それはどのようなアイデアでできているかわからないし、含有物もわからないし、動物由来でないかどうかもわからない。

Joi:他に何か話したいことある?

Isha:非営利組織で高価なラボを用意して研究することは簡単ではないと思われるかもしれないけれど、多くの人が私たちに寄付をしてくれている。そうすることでコミュニティができて研究者同士のコミュニケーションも活発になる。興味がある人は私にメールしてください。新しい仲間を募集中です!

編集部あとがき

人工肉は科学的、文化的に超えなければいけない壁がまだ高いと思われる。2013年8月に実施された試食会では$330,000をかけて140グラムのパテを作成した。そのコスト高の大きな原因となっているのは細胞培養だ。具体的には培養液の製造コストと培養プロセスの2点になる。現行の培養液は基礎培地+牛胎児血清(FBS)+成長因子の3つで成り立っており、細胞100g分の培養液は約300万円かかるという(出典:Shojinmeat Project 純肉(培養肉) : 細胞培養による食糧生産へ)。これは今まで細胞培養は実験内のみで使われる技術で少量の培養でも結果を得るには十分であったことから量産化・効率化の技術がまだ確立されていないためである。コストを大幅に下げるには既存手法を大幅に刷新するような新しいアプローチが必要なのかもしれない。培養プロセスは動画内でIshaも言っていたが、現状の皿の底にできる一層のものから細胞足場を用いて3次元培養の技術を開発することで効率化・低コスト化が期待できる。

文化的な側面で言えば、動物愛護、宗教、食の安全などが論点になると思われる。動物愛護団体は人工肉を推奨する動きをしており、過去にはPeople for the Ethical Treatment of Animals という動物愛護団体が$1,000,000の賞金を出し研究を促進していた時期もあった(2014年に中止)。宗教や思想の理由で肉を食べない人にとってこの人工肉はどうとらえられるのだろうか。また、今までとは全く違った in vitro(*2)で作られた食物の安全性はどう保証していくのだろうか。倫理の問題や法整備も含め議論される必要がある。

(*2)in vitro :“試験管内で(の)”という意味で、試験管や培養器などの中でヒトや動物の組織を用いて、体内と同様の環境を人工的に作り、薬物の反応を検出する試験のこと。

一方、世界中でスタートアップやNPOを中心に、研究開発が猛スピードで行なわれている。テーマは国を超えた世界規模のものであり、またIshaが言っていた通りまだ研究も初期段階のため世界中の関係者が協力することでスピーディーに実現されることを願いたい。

(参考)人工肉を研究しているスタートアップ

MEMPHIS MEATS

2016年3月にシードラウンドでSOSVやIndiebioなどから合計$2.75M調達。


Super Meat

2016年、INDIEGOGOで当初の目標額$100Kに対して$200K以上集まり目標達成。今は、目標額$500Kに対してサポーター募集中。


SHOJINMEAT Project

日本をベースに研究活動を行っている団体。本部は東京の文京区だが日本各地に協力者がいる。研究員も募集中。


対談の様子(英語)


JOI ITOブログ(英語)

Conversation with Isha Datar from New Harvest

宇佐美克明 Written by
DG LabでBiotech分野を担当。東京工業大学 生命理工学部卒。学生時代は、生態系に与える影響を最小限にし、かつ経済的効率性を向上させるグリーンケミストリーの研究を行う。卒業後は、研究者の道ではなくビジネスの世界に入り、インターネット広告業界で経験を積む。2011年にインドネシアに渡り、2015年 インドネシア法人を売却。2016年より東京に戻り Biotech分野にてテクノロジー×ビジネスの取り組みに従事。
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