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MITのHacking文化とMIT Media Labの関係性

 MITメディアラボで研究を行っている学生たちの中には、研究所内で正式な身分を持たずに研究を行っている者がいる。いわゆる「忍び込み」の研究者たちだ。研究をするのに「正式な身分」が必要というのもおかしな気がするが、ここでいう「身分を持つ者」とは、学部生に研究の機会を与えるプログラム(UROP)の一環で研究をしている学生や、インターンとして研究している人たちのことを指す。このようなプログラムがあるのにもかかわらず、一部の者たちはそれを利用せずに研究を進めており、それが当たり前のように許容されている。そんなMITの雰囲気、文化が生まれてきた背景には、Hackと呼ばれるイタズラの伝統文化がある。

 代表的なHackとしては、MIT のランドマークであるドームの上に パトカーや消防車を設置するといったものや、グラウンドに風船を仕掛けて同校のアメフトの試合を妨害するといったものがある。Hackは同校の建築物に対するものが多く、ビルの空き部屋を改造したり、屋上や地下トンネルに侵入してHackをしたり、「スターウォーズ」や「ドクター・フー」のような人気SF作品の公開時期などには、それらの作品にまつわるHackが行われたりする。こういったHackは、主に学生たちによって行われており、同校の警備をくぐり抜け、さまざまなHackを仕掛けている。MITの公式資料によると、この文化は1960年頃からあるそうだ。

 日本でも、京都大学には似たような文化が存在しており、その他いくつかの大学でもこのようないたずら文化は散見される。しかし、MIT Media LabにおけるHackは単なるいたずら以上の価値が認められている。

 同ラボでは、前述した忍び込みの研究者の多くがHackに深く関わりを持っており、常に何か新しいHackに挑戦し続けている。近年、実行された例では、Bitcoin決済のみの自動販売機が突然設置され、それがそのまま定着した例がある。

 筆者が学生たちから聞いた限りでは、多くはこういった文化を楽しみ、誇りにしている。また、同ラボにはそんな学生たちを支持し、サポートする教員(中には元Hackerや、教員でありながら自らも積極的にHackに参加している)も数多く存在する。

 このような文化が定着した同校、同ラボでは自らが学びたい学問がある場合は、直接ラボを訪れそのまま仲間になれれば即研究がスタートでき、論文を出すこともできる。このようにアメリカなど諸外国では、学部生や大学院生でなくても、自ら積極的に学ぶ意思のある者たちには研究の機会を与える文化が広がりつつあり、上記であえて「忍び込み」と表現した状況も少しずつ増えている。

 このような例は日本にもあり、筆者も高校時代にはさまざまな研究室へアプローチし、研究を行っていた。しかし、Hackと同様、そういった例は日本ではまだ一般的とは言えない。今後はその身分や属性に関わらず広く研究者を受け入れる仕組み、また、それを背後から支えるHackを楽しんで受け入れてしまえるような文化や寛容さも合わせて定着させる必要があると感じている。

片野晃輔 Written by

Wild Scientist
DG Lab 海外特派員
MIT Media Lab Research Affiliate

中学生時代、家族や友人の病気をきっかけに、免疫学分野で主にIgE抗体とクラススイッチング、エピジェネティクス分野でDNAメチル化中心に生物学を学び始める。
高校生時代には、研究費と試薬を集め、株式会社リバネスのラボや京都大学のラボを始め、様々な機関のラボで設備を借りながらDNAメチル化に関する研究を行った。高校卒業後は、フリーの研究者として研究を継続し、現在は主に生命を理解するための研究を行っている。

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