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ITとバイオテクノロジーの融合が導く未来

なぜ今バイオテクノロジーが注目されているか

 「バイオテクノロジー」というと白衣を着た研究者が、地道に長時間研究しているイメージをもつかもしれない。また、新薬の開発には、運まかせではないかと思えるくらいの低い確率(数万分の1)でしか成功しないといったイメージがつきまとう。しかし、最近その流れが変わりつつある。まずは下記の動画をみていただきたい。

 

  これは米国シリコンバレーを拠点とするTranscripticという企業が自社のビジネスを紹介しているビデオだ。「Discovery biology on demand」を標榜する同社のサービスを使うと、実験計画をパソコンに入力し、それをオンラインでオーダーするだけで、遠隔地にある実験マシーンが全自動で実験し、データを戻してくれる。これは極端な例かもしれないが、今までのバイオテクノロジーのイメージを覆す研究方法が現実のものになっていることを実感させる 。人工知能の発展で実験計画も人の手を借りずにたてられるようになったら、その先にはどのような未来が待っているだろう。

  こうしたパラダイムシフトにはITの発展が寄与するところが大きい。具体的には次の4点に集約されると考える。

1.コンピュテーション技術の向上

 ムーアの法則のペースでCPUの集積度が上がり、チップの値段が下がった。さらに、ハードウェアのみならずソフトウェア(計算処理するアルゴリズム)も改善したことで、今までは不可能だった計算が身近なコンピュータで、できるようになった。これにより、今までは勘(もしくは、熟練した研究者の経験)を頼りに行なっていたことや、膨大な時間をかけて研究を行っていたことが、コンピュータを用いてシミュレーション可能になり、ウェットな実験(実際に実験室で行う実験)を効率良く行なうことができるようになった。

2.データ保存、処理にかかるコストが安価になった(クラウド化)

 これまで、個人の遺伝子情報などの膨大なデータは専用のセキュアなサーバで管理しなければならなかった。約30億個の塩基対から成り究極の個人情報とも言えるヒトゲノムデータはデータ容量が大きいだけでなく、セキュリティ対策にも膨大な時間と費用がかかった。それが今や、Google Cloud PlatformやAmazon Web Servicesなどのクラウドサービスを使うことで安く、かつ安全にデータを保管できるようになり、利便性が良くなった。

 



Google Cloud PlatformとAmazon Web Servicesのゲノムデータ向けサービス管理画面

3.センサー技術の進歩、爆発的普及

 1.にも関わるが、今はスマートフォンやウェアラブル端末、また生体データのセンシングなど、計測できるデバイス種類とそれによって取得できるデータ量が急速に増えている。今後さらに計測可能なシーンとデータの種類は増える。例えば、寝室の電球につけられたセンサーが眠りの状態を管理したり、トイレで用を足している時に尿から健康状態を把握したりといった具合にさまざまな展開が予想される。

4.バイオテクノロジー研究者における起業家マインドの浸透

 IT分野で数々のスタートアップが生まれ、GoogleやUberなどのように世界を変えうる企業までの短期間で成長した現実を目の当たりにして、バイオテクノロジー研究者も世界を変えようと一歩が踏み出しやすくなっている。さらに、彼らを支えるDIYバイオスペースやバイオインキュベーションセンターなど、サポート体制も生まれてきている。

次々にバイオテクノロジー分野に足を踏み入れるITの巨人たち

 前述のような状況ゆえに、IT分野の巨大企業がバイオテクノロジー分野に足を踏み入れることは容易に想像がつくと思う。そして、そのスピードは想像以上のものだ。

 グーグルでは2009年から本格的にバイオテクノロジーに投資を始め、2016年は8つの企業へ、合計4億3100万ドルを投資した。業種はさまざまで、癌の早期発見に取り組むベンチャー Freenome、農家専用の情報シェアプラットフォームを運営するFarmers Business Network、患者・リハビリ従事者・医療従事者・支払い者をつなぐQuartetなど幅広くカバーしている。グーグルの持ち株会社であるアルファベット(Alphabet)のライフサイエンス部門であるVerilyも、血糖値測定を可能にするスマートコンタクトレンズや、手が震えるパーキンソン病の患者に向けた自動安定機能を備えた食器などを開発している。

出展:CB Insights ”Google Is Ramping Up Pharma Activity”(https://www.cbinsights.com/blog/google-pharma-startup-investments/)

 アップルは2016年にパーソナルヘルスデータのプラットフォームを開発するGliimpseを買収し、2017年は睡眠の質をモニタリングするBedditを買収している。

 こうした状況から予想するに、現在、ITの巨人たちがウェブ上で個人の属性データの取得争いをしているが、近い将来これが、ヘルスケアやバイオテクノロジー分野にも広がり、同様のデータの取得争いが繰り広げられることになるだろう。

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 このように、バイオテクノロジーの発展はIT関連の人や企業、技術トレンドなどと非常に深い関わりがある。2017年7月25日(火)と26日(水)に開催されるDG Lab主催のTHE NEW CONTEXT CONFERENCE2017 TOKYOでは「ITとバイオテクノロジーの融合が導く未来」と題し、IT技術の発展がいかにバイオテクノロジーの発展に影響するかの具体例が語られる予定だ。

 システムズバイオロジーの第一人者である北野宏明氏、ボストンを拠点とするGinkgo Bioworksのパトリック ボイル氏、日本国内で遺伝子診断サービスを提供するジーンクエストの高橋祥子氏などに加え、国内在住ながら普段は滅多に登壇しないスピーカーや初来日のスピーカーも多く登壇する。バイオテクノロジーの未来に興味がある方はぜひ参加していただきたい。

宇佐美克明 Written by
DG LabでBiotech分野を担当。東京工業大学 生命理工学部卒。学生時代は、生態系に与える影響を最小限にし、かつ経済的効率性を向上させるグリーンケミストリーの研究を行う。卒業後は、研究者の道ではなくビジネスの世界に入り、インターネット広告業界で経験を積む。2011年にインドネシアに渡り、2015年 インドネシア法人を売却。2016年より東京に戻り Biotech分野にてテクノロジー×ビジネスの取り組みに従事。
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