Open Innovation Platform

三重県でビットコインと出会う タデウス・ドライジャ氏インタビュー(前編)

ビットコイン開発者の第一人者のタデウス・ドライジャ氏のインタビューの前編をお届けする。大学ではコンピュータサイエンスを専攻していた同氏が、どのようにしてビットコインに出会ったのか。ビットコインの開発者はどういった日常生活を送っているのかなどを語ってくれた。聞き手はMITメディアラボ研究員および金融暗号分野の所長リエゾンである松尾真一郎氏。

松尾真一郎氏(以下、松尾):こんにちは。

タデウス・ドライジャ氏(以下、タデウス):こんにちは。

松尾:まず、タッジ(タデウスの愛称)の自己紹介をお願いします。

タデウス:タデウス・ドライジャと申します。現在、MITのDCI(Digital Currency Initiative)で働いています。デジタルガレージが主催するBC²(2017年2月3日〜5日に行われた「Blockchain Core Camp」)のインストラクターです。

松尾:タッジが最初にビットコインの開発やビットコインに触れたのはいつ頃で、何が面白いと思ったのかを教えてください。

タデウス:2011年に三重大学で働いていた時です。そこでビットコインの短い論文を、昼休みにちょっと読んで、これは面白いと思いました。それまでも分散型のシステムとか、GnutellaとかBitTorrentとかそういったシステム、ネットワークには興味ありました。暗号学は、そんなに詳しくなかったけど、それも興味がありました。

その同じ日に家に戻って、マイニングのソフトをダウンロードして、自分の家のパソコンでちょっとマイニングしました。そのとき1日0.5ビットコインぐらいマイニングしました(笑)。

松尾:そのときすでにマイニングに成功してお金をもらったんですね?

タデウス:ちょっとだけ。東日本大震災の少し前までに8ビットコインをマイニングしました。そのあと、みんな節電するようになったので、マイニングはやめました(笑)。

松尾:タッジのバックグラウンドはコンピュータサイエンス?

タデウス:大学はカーネギーメロン大学で、コンピュータエンジニア。集積回路とか、Digital Signal Processingとかで、ソフトを書きはするけど、特に暗号学は詳しくありませんでした。ビットコインに興味を持ってから、暗号学を勉強しました。

松尾:もう5年ぐらいやっているけど、ビットコインとブロックチェーンって、いま何が一番面白いですか?

タデウス:難しい質問ですね(笑)。なにが面白いかと言えば、もちろんシステム自体、暗号学とかProof of Workとかも面白いですけど、それは4年前とあまり変わらないですね。いま面白いと感じるのは、人が作ったシステムなのに、あまり人がコントロールできないところですね。みんながビットコインを関わりたいけど、関われない。そういう「人間が作ったけど、人間がなにもかもできない」って感じが面白いです。

松尾:ビットコインのエンジニアとはどういうものかをタッジに聞いてみたいのですが、おそらく今後ビットコインとかブロックチェーンのエンジニアは、日本でも増えてくると思います。普通のソフトウェアエンジニアにとっては、ビットコインとかブロックチェーンをやっているエンジニアっていうのが、どういう人なのかがあまり想像できないのではないかと。そこで、ビットコインの開発をやっている人って、どんな生活をしているのかというのをちょっと教えてもらえますか。

タデウス:本当にいろんな人がいます。ちょっと変わっている人もいるし、もちろん普通の人もいる。オーストラリアの田舎でBitcoin Coreのコーディングをしている人がいるかと思えば、ウォールストリートで成功したお金持ちでありながら、開発者としてやっている人もいます。開発者は世界中にいますが、確かに日本とか中国、韓国にはあまりいません。ヨーロッパやアメリカのほうが多いですが他の地域でも今後、増やしていきたいです。

松尾   ビットコインのエンジニアって普段どんな暮らしぶりなのかなと。

タデウス:いろいろですね。会社勤めの人もいますし、個人のパソコンで開発している人もいます。実はパソコンだけあれば十分なのです。いろんなサーバとかは必要なく、普通のRaspberry PiでもBitcoin Coreの開発をすることができます。私の場合は、朝の10時ぐらいにMITに来て、オフィスにある普通のパソコンで作業し、午後6時か7時ぐらいに帰ります。家でもプログラムします。

仕事場ではみんなで質問するなど、会話がありますが、家ではそれがないので、プログラミングはしやすいです。

松尾:普通のソフトエンジニアリングと、ビットコインとかブロックチェーンのソフトエンジニアリングって違いとかは何かありますか?

タデウス:そうですね。違いは管理者がいないことです。ビットコインは会社じゃなくてプロジェクトなのですが、リーダーがいません。ですから自分が作りたいものを作って、みんなに「これを作りましたよ、どうですか」と問いかけ、みんなが同意したら参加できるということになります。

松尾:それは普通のオープンソースのコミュニティとはまたちょっと違うのですか?

タデウス:オープンソースのコミュニティと結構似ていると思います。ただUnixなどと同じようにセキュリティーを重視します。Linuxのカーネルに新たにコードをアップするとなると、それは厳しい目で見られますよね。Linuxにバグがあったら、本当にいろんな問題が起きてしまいます。ビットコインもお金に関わることなので、もしバグがあったらお金が消えて無くなるかもしれない。

「私もビットコインのコード作りたいです」と作ってみて、アップして、それがみんなダメだったら、「失礼しました!」では済みません。デベロッパーはみんな厳格で、すべてのコードを厳しく確認しています。

松尾:そういうところは、日本のエンジニアにとってはいいニュースで、精密に作るのが日本人は得意だから、日本人が入っていくと歓迎されるのではないかという気がするのですが。

タデウス:そうだと思います。ただ、ビットコインのメーリングリストは全部英語で、だから言語の問題がありますが、英語がネイティブじゃない人もたくさんいます。ビットコインエンジニアにとっての問題は、お金になるかどうか。ほとんどの人が趣味でやっているので。私も三重県に住んでいた頃、ビットコインに関しては、自宅でプログラミングしました。当時はそういった人が大半です。最近では会社員になってからビットコインを学ぶ人もいますが、(ビットコイン草創期の)2010〜2012年ごろはそれが全くありませんでした。

松尾:日本はシリコンバレーほどスタートアップが盛んではないから、エンジニアリングをすぐに仕事として始めるのは難しいですね。その辺りは今後、日本でも頑張らなきゃいけないところですね。

タデウス:そうですね。今後は大学の研究室がビットコインのエンジニアリングをするとか。あるいは企業でもDG Labとかがやっていますが、アメリカに比べるとまだまだ少ないですね。

松尾:ビットコインのデベロッパーの中で本当にわかっている人は世界に20人ぐらいしかいないと言われていますが……。

タデウス:もうちょっと多いかも。100人くらいはいるのかな(笑)。

松尾:100人じゃ足りないですよね。

タデウス:足りないですね。学会や国際会議でミラノや香港にいっても、いつも同じ人たちに会います。大半は私の知っている人たちです。本当に小さなコミュニティで、もっと広がればと思っています。

松尾:増やすにはどうすればいいでしょうか。

タデウス:ドキュメントを整えるとか教育などが重要だと思います。今後、私もMITで大学生を教えます。それによって次の時代のエンジニアがビットコインに詳しくなることを期待しています。

松尾:MITではNeha Narulaさんやタッジが、大学生に教えています。今回のBC²もとってもいい機会だと思います。タッジがBC²で何を教えているのかというのをちょっと説明してもらえますか。

タデウス:まず、暗号学の基礎を30分ぐらい教えました。午後からLightning Network。私が研究している、あるいは私が作っているソフトを説明し、そのあと、デモンストレーション。みんなLightningのノードを作ってtest networkでチャネルを繋げたりします。そのソフトは工事中みたいな感じなので、バグがいっぱいあります(笑)。今回は100人ぐらい使うから、いっぱいバグが見つかるでしょう(笑)。

松尾:それはFail Fast(編集部注:早めにたくさん失敗して経験を積み重ねること)。つまり、アメリカでは普通のやり方だからいいですね。今回BC²で教えてみてどんな印象を持ちましたか?

タデウス:本当に100人が参加するとは思わなかったので(笑)。単なる発表会じゃなくて、本当に自分のパソコンでプログラミングするところが面白いですね。そういう方が学ぶことが多いと思います。

松尾:MITでもこうしたブートキャンプがありますね。西海岸ではブロックチェーンユニバーシティーがあったりしますが、アメリカのそういったところと、今回日本で開催されたBC²はどういうところが違うのですか。

タデウス:アメリカでは、各大学やMITが実施するのは大学生や研究者のためです。こちらは、企業からの参加も多かったですね。アメリカの会社では、あまりそういうことはありません。

松尾:今回のBC²は、タッジ自身はエンジョイできましたか?

タデウス:楽しいかったですよ。いろんな人と話すことができて。特に楽しかったのは、実際にビットコイン作っているときは、答えられない質問もたくさんあります。でも今回は、みんなの質問にすぐ答えることができました。よかった(笑)。

松尾:タッジが日本語を話せるっていうのは結構大きいですね。参加者にとってはとても話しやすくて。

タデウス:三重に住んでいたのは3年前だから、今ちょっとrusty(錆びついた)ですね。ちょっと練習しないといけないと思います(笑)。

インタビューの続き(後編)はこちら

【お知らせ】2017年7⽉31⽇~8月2⽇に、東京で「Blockchain Core Camp [BC²] Season 2」を開催されます。参加方法などはこちらをご覧ください

THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2017 TOKYO 7/25:バイオテック 7/26:ブロックチェーン@虎ノ門ヒルズフォーラム/ホスト:伊藤穰一
松尾真一郎 Written by

MITメディアラボ研究員 所長リエゾン
BSafe.network共同設立者
DG Lab アドバイザー

シリコンバレーを拠点に活動する、暗号技術と情報セキュリティ分野の研究者。ブロックチェーンをアカデミアの視点から成熟させる活動をしている。

MITメディアラボでは研究員および金融暗号分野の所長リエゾンとして活動するとともに、東京大学生産技術研究所・海外研究員、MagicCube Inc.のチーフセキュリティサイエンティストを務める。

世界初のブロックチェーン専門学術誌LEDGERのエディタであり、IEEE, ACM, W3Cなどのブロックチェーンカンファレンスのプログラム委員を務める。Pindar Wong氏ともに、ブロックチェーンの学術研究を行う大学による国際研究ネットワークBSafe.networkの構築を行っている。

Follow