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今は本当に作りたかったものが、作れるチャンスかもしれない タデウス・ドライジャ氏インタビュー(後編)

 ビットコイン開発者の第一人者のタデウス・ドライジャ氏のインタビューの後編をお届けする。今回は日本人エンジニアの印象や、同氏の代名詞となっている「Lightning(ライトニング・ネットワーク)」についての解説や、今後の夢や課題についての話題が展開されている。聞き手は前編に続き松尾真一郎氏がつとめる。

松尾:最初の「Scaling Bitcoin」(ビットコインのコア開発者が集まる国際会議)でタッジと出会ったわけですが、Scaling Bitcoinでは、モントリオール、香港、あとこの前ミラノでも日本から発表している人は私だけです。発表する人やコントリビューターは、日本からまだ少ないのですが、その辺どう思いますか。

タデウス:日本はみんな大学卒業から直接会社に入って、会社がメインになりますね。アメリカはそういった感じではなく、3年間で4つの会社で働いたとか(笑)、アメリカでもそれが普通とは言わないけど、そういった働き方でもなんの問題もありません。日本の文化というか、全般的に保守的なのではないかと思います。その上、ビットコインに対するイメージが良くないこともあるのではないでしょうか。ビットコインを日本人が最初に知ったのは、マウントゴックスの事件だったりするので、ちょっと怪しいとか。

松尾:日本の会社で、Scaling Bitcoinにいってきますとか、そこで発表しますとかっていうと、「何それ?」ってなるのかもしれないということですね。そうすると、われわれはイメージを上げなきゃいけない。もっとアドバタイズしなきゃいけなということですね。

松尾:タッジから見た日本人のエンジニアは、どういうクオリティを持っていて、そこにどんな期待が持てると感じますか。

タデウス:もちろん非常にクオリティが高いですね。ただ問題はちょっとガラパゴスって感じです(笑)。例えば、日本で圧縮されたソフトをダウンロードしたら、展開するのにlzhを使うとか、あれは、やっぱり日本だけですね。ほかの国とちょっと違うなあと。アメリカでもNot Invented Here syndrome(編集部注:NIH症候群=自国の発明品以外は利用したくない)というのがありますが、日本はそれが顕著です。オープンソースのコード使いたくない。自分で全部作るといったようなことです。

 でも、ビットコインはそういう考えはでは何もできません。すべての人と協力してソフトを作ります。日本に固有の問題ではないけど、そういう考えがちょっと違うように感じます。

松尾:最後に。タッジは「Lightning」の代名詞になっていますが「Lightning」って、どういうものか、どういうアプリケーションなのかを簡単に説明してもらえますか。

タデウス:「Lightning」を作った当時、ブロックチェーン、特にビットコインの一番の問題はスケーリング(規模の拡大)でした。2倍、もしかしたら10倍にはできるけど、世界のみんなで使える規模にはならない。そこで「Lightning」は送金などの取引をするごとに、ブロックチェーンにそのやり取りの全てを送信しないようにしている。最初はスケーリングのために、この仕組みを作ったのですが、取引の速さなど他にもメリットがあります。送金も10分待つのではなく、1秒以内でお金を送れるようになるので、普通のお店の決済にも使えるかもしれません。さらに将来は、ブロックチェーン同士をつなぐこともできるはずです。

松尾:最初はペイメントチャネルだったけど、もっとフレキシブルなアプリケーションに広げていくことができると思いますがどうですか。

タデウス:ペイメントチャネルはセキュリティーがよくなかった。Transaction Malleabilityで。片道のペイメントチャネは2012年からありましたが、危ないなと感じたので、みんな使わなかった。今後はペイメントチャネルを本当に強くして、そのあとにチャネルのネットワークを作って、ほかのブロックチェーンもつなぐ。それは、まだ完全できてないけど(笑)今から作って行きます。

松尾:もっといろんなアプリケーションにLightning Networkみたいなのが、スケーラビリティを上げるテクニックが使えそうな気がするんですけど。

タデウス:まず、基本はお金を送ること。今はそれだけ考えます。速く安全に使いやすく。そのあとに、もしかしてほかのシステムのことを考えるかもしれません。でも、ペイメントだけでもすごく可能性が広がります。例えば、銀行に口座を持っていなくても、どこにでも1円を送金できるなら、サイト上で5円の少額課金などがクリックひとつでOKです。そういったら仕組みを、今までみんな作りたかったけど、今回本当に作れるチャンスかもしれない。

松尾:タッジは2011年からブロックチェーンとビットコインの研究や開発をやってきましたが。今後の夢とか、さらにやってみたいことはありますか。

タデウス:古い暗号学には別に興味なかったのですが。最近、暗号学の研究をしています。ビットコインのための暗号ができないかと。暗号学の研究者もビットコインに興味を持っているので、今後はシナジー効果が出るかもしれませんね。

松尾:4月に「Financial Crypto」(http://fc17.ifca.ai/)がマルタであって、そういうところに暗号学者集まるから、そういうところで何かインスパイアされると面白いですね。

タデウス:ビットコインの研究は、これまでほとんどインターネット上でやり取りされています。みんなIRC(チャットツール)を使って、ドキュメントもPDFや、多くは普通のテキストファイルです。普通の大学の研究者はみんな、普通の雑誌、研究論文とかを作って、peer review(査読)とかがあって……。そういう2つの世界をちょっと一緒にしましょうとか。

松尾:それはいいですね。僕もビーセーフドットネットワーク(BSafe.network)プロジェクトでアカデミアをつなぐ活動をしていて、一緒にやるとすごく面白いと思います。

 さて、最後の質問ですが、日本でブロックチェーンとかビットコインのエンジニアを目指している人たち。そして次回以降のBC²に参加する人たちのために何かメッセージをお願いします。

タデウス:Yeah。面白い。私も参加したい。

一同 (笑)

タデウス:まずはインターネットでいろいろと必要な資料を読むこと。私も全部、インターネットを使って学びました。特に授業に参加したことはありません。もちろん授業に参加するのもいいのですが。インターネット上ではほとんど英語ですが、IRCとかBitcoin Talk(https://bitcointalk.org)とかで最近は本当の論文が出ます。そして、読んだら参加して、たくさんの質問をしたら、他のみんなも喜ぶと思います。

松尾:タッジはこれから、ビットコインのコミュニティでも中心的に活躍する人なので、MITやDGともいろいろ一緒にやってほしいと思います。ぜひ頑張ってください。

タデウス:頑張ります。教えるのが好きです(笑)。

松尾:ありがとうございました。

タデウス:ありがとうございます。

インタビューの前編はこちら

松尾真一郎 Written by

MITメディアラボ研究員 所長リエゾン
BSafe.network共同設立者
DG Lab アドバイザー

シリコンバレーを拠点に活動する、暗号技術と情報セキュリティ分野の研究者。ブロックチェーンをアカデミアの視点から成熟させる活動をしている。

MITメディアラボでは研究員および金融暗号分野の所長リエゾンとして活動するとともに、東京大学生産技術研究所・海外研究員、MagicCube Inc.のチーフセキュリティサイエンティストを務める。

世界初のブロックチェーン専門学術誌LEDGERのエディタであり、IEEE, ACM, W3Cなどのブロックチェーンカンファレンスのプログラム委員を務める。Pindar Wong氏ともに、ブロックチェーンの学術研究を行う大学による国際研究ネットワークBSafe.networkの構築を行っている。

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