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触れると熱く、香しい!? VRゲームは体感+α 東京ゲームショウ2017 

嗅覚ディバイスを体験する

嗅覚ディバイスを体験する

 世界最大級のゲームの展示会「東京ゲームショウ2017」が9月21日から24日までの4日間、千葉市の幕張メッセで開催された。世界36ヶ国・地域から609の企業・団体が出展し、このうち国内企業の出展は292社と過去最多となった。総来場者数は25万4311人にのぼり、過去最多だった昨年の27万1224人には及ばなかったものの、2013年から続く25万人越えという高い水準を保った格好だ。

 「VR元年」をうたった昨年とは異なり、今年は対戦型ゲームを「スポーツ競技」とみなした「eスポーツ」を前面に押し出していた。とはいうものの、VR/AR(仮想現実/拡張現実)に関する展示は今年も充実しており、関連の出展の大半は別棟の9~11ホールにまとめられていた。インディーズゲームの展示も隣接しており、VR/AR技術と新規ゲーム開発との相性の良さを意識させる会場構成となっている印象を受けた。

 家庭用ゲーム機に初めてVRを持ち込んだ「PlayStation VR (以下PSVR)」が昨年10月に発売して以降、今回が初めてのゲームショウの開催になる。登場から1年近くが経過しているせいか、「PSVR」に関する展示はハード面を強調するものではなく、新規ソフトタイトルに関わるものが大半だった。開発元のソニーはゲームショウ開催直前の19日に、「PSVR」(カメラ同梱版)の税別価格を現行の4万9980円から4万4980円へと、5000円の値下げを発表した。だが、ハードウェアは国内の流通不足の問題を依然抱えており、そのためか新規タイトルに対する会場の反応もやや盛り上がりに欠ける印象を受けた。値下げは歓迎したいが、ハードの生産量を増やすことが目下の急務だろう。

 とはいえ、「PSVR」の登場により、VRの普及に拍車がかかったことも確かだ。仮想空間でゲームを楽しむだけでは「PSVR」と差別化ができなくなってしまったためか、会場の最新VRの展示は、仮想現実の世界をよりリアルにするため、人の感覚(触覚や嗅覚など)に訴える工夫が目立った。

「VAQSO VR」の手前側の様子。匂いを出す噴出口が3つ付いている

「VAQSO VR」の手前側の様子。匂いを出す噴出口が3つ付いている

 中でも注目を集めていたのが、VAQSO社が開発中の「VAQSO VR」だ。「VAQSO VR」はヘッドマウントディスプレイと連動して匂いを出すデバイスだ。黒いスティック状の筐体がヘッドマウントディスプレイの下に両面テープでとめられており、手前に匂いを出す穴が3つ付いている。それぞれの穴には匂いの元となる香料が入ったカートリッジが内蔵されており、それが放出されることで匂いが感じられる仕組みとなっている。展示の内容に応じて、匂いの元であるカートリッジの種類は変えられるようになっているという。「VAQSO VR」とヘッドマウントディスプレイとの接続はMicroUSB接続になっており、ヘッドマウントディスプレイの機種を選ばないのも特徴だ。

 匂いつきのゲームの展示はいくつかあり、既に出ているタイトルのものだと、ILLUSIONから発売中のWindows向けアダルトVRゲーム「VRカノジョ」、スクウェア・エニックスから提供中のスマートフォンゲーム「乖離性ミリオンアーサー」などがあった。

 筆者はこの2作品ともに体験してみたが、どちらも引き金型のボタンが付いたコントローラーを両手に持ってプレイする形になっており、このコントローラーがVR内の両手に相当する。ボタンを引くとVR中では“つかむ”という動作になり、これによって“撫でる”などのアクションも可能になる。

匂い付き「乖離性ミリオンアーサー」のデモの様子。モニターに映し出されているのが妖精ウアサハ

匂い付き「乖離性ミリオンアーサー」のデモの様子。モニターに映し出されているのが妖精ウアサハ

 「VRカノジョ」では夕陽さくらという名前の、黒髪でブレザーの制服姿の女子高生が、「乖離性ミリオンアーサー」では妖精ウアサハという銀髪で赤目の少女が目の前に登場する。キャラクターの造形も、「VRカノジョ」は現実にいそうな高校生をCGで再現しているのに対し、「乖離性ミリオンアーサー」はいかにもキャラクターっぽい作りになっている。しかし、頭を撫でるとバニラやチョコレートのような甘い匂いを発し、キャラクターに顔を近づけると若干柑橘系のような香水の香りがするという点は共通していた。

 解説員によると、現状のデモ機では3種類の匂いしか搭載できないが、将来的には4種類以上にしていきたいとのことだった(ちなみに会場で頒布されていたチラシには5種類と書かれていた)。バッテリーの持続時間は2時間、匂いの持続期間は1ヶ月。発売予定時期は未定だが、2018年春を目指しているという。

横から見た「ThermoReal」。薄いシートの部分だけで温度の表現ができる

横から見た「ThermoReal」。薄いシートの部分だけで温度の表現ができる

 この他、触覚の分野では韓国のTEGwayが開発中の熱感覚デバイス「ThermoReal」が出展されていた。「ThermoReal」はシート状になっており、映像の情報に合わせて温度の変化を生み出すことができる。氷を握ったかのような冷たさと、ライターの火であぶられたかのような熱さを体験できるだけでなく、この2つの刺激を同時に与えることで、「痛み」という感覚も作り出すことができるという。温度の変移に時間がかからないのも特徴で、氷の内部に火が灯って溶け出しているかのように、ほんの数秒で“冷たい”から“熱い”になる不思議な感覚が味わえる。

 このように、今や最新のVRは視覚映像だけでなく、それ以外の感覚を合わせて、臨場感を高めるというのがトレンドになっている。“嗅覚”の「VAQSO VR」は匂いカートリッジをソフト毎に交換する必要があるため、当面は業務用にとどまりそうだが、“触覚”の「ThermoReal」は各種コントローラーに搭載すれば、新感覚ゲームをいち早く一般化できるのではと感じた。これはVRの360度の視界がなくとも楽しい機能である。

 ゲームの歴史は「見る」と「聴く」から始まり、VRの普及と共に嗅覚と触覚を追求するところまできた。この先、味覚まで提供できるようになるかは未知数だが、こうした機能はゲーム以外に観光や産業用など他の分野でも活用される可能性がある。VRに端を発する感覚情報技術の進化が、今後どう応用されていくのか楽しみだ。

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記者・編集者。他媒体では「AERAdot.」「週刊朝日」「AERA」「さくらのナレッジ」「キャリコネニュース」などウェブ・雑誌で執筆。ITのほかコンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、鉄道など幅広いテーマを扱う