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「雨ニモマケズ」働くロボット芝刈機はただいま実証実験

雨の日も風の日も、もくもくと働くロボット芝刈機

雨の日も風の日も、もくもくと働くロボット芝刈機

オートモアを持つハスクバーナ・ゼノア長澤勇人氏(左)と西武緑化管理杉山太郎氏(右)

オートモアを持つハスクバーナ・ゼノア長澤勇人氏(左)と西武緑化管理杉山太郎氏(右)

 福島県南相馬市の「福島ロボットテストフィールド」は、陸・海・空のフィールドロボットの一大研究開発・実験拠点だ。その片隅の緑地で、雨の日も風の日もせっせと芝を刈っているモノがある。芝の生育状況を判断し、24時間景観を管理し続けるロボット芝刈機だ。西武造園株式会社(東京都豊島区)、西武緑化管理株式会社(東京都小平市)、ハスクバーナ・ゼノア株式会社(埼玉県川越市)の3社は、日本初の「遠隔操作によるロボット芝刈機での草地管理」の実証実験(2018年10月15日~2019年3月31日)を行なっている。

 自動車や船舶から農業用トラクターまで、近年さまざまなものの「自動運転」が注目を集めているが、芝刈り機を自動運転するメリットは何か。この実証実験についてロボット芝刈機「オートモア(Automower)」を開発したハスクバーナ社(本社スウェーデン)の日本法人ハスクバーナ・ゼノアの長澤勇人氏と西武緑化管理の杉山太郎氏にお話を伺った。

* * *

「まず、従来行われてきた人手による緑地管理には、たいへんな手間と費用がかかり、加えて深刻な人手不足という背景があります」(杉山氏)

刈った草の処理が大きな課題だったと語る西武緑化管理杉山氏

刈った草の処理が大きな課題だったと語る西武緑化管理杉山氏

 また、杉山氏によると芝草は「生きもの」であり、夏には草刈りをして2~3週間程度でまた作業前の草丈に戻ってしまう。刈るのも大変だが、問題は刈り取った膨大な量の「刈草ゴミ」だ。「これまでの『草が伸びてから人手で刈る』という手法では、景観がすぐ悪くなってしまう上、刈った草の運搬と処理に大きな手間とコストがかかっていました」(杉山氏)たとえば芝は導入コストが安いので屋上緑化などによく利用されるが、その管理にこそ大きなコストがかかることは盲点であるという。

 そこでロボット芝刈機は「草が伸びる前に刈る」。

「弊社のオートモアは芝が伸びる前に刈っていき、少し伸びたらそれを察知してまた刈っていきますので、作業のたびに微少な切りカスしか出ません」(長澤氏)

切りカスを自然に土に還していくので、草を運んで処理する手間がないという。

 杉山氏、長澤氏によると、人手による芝刈りには事故のリスクも多く、飛び石などでケガをする可能性がある。また、炎天下の作業では熱中症の危険もある。ロボット芝刈機を使えば、作業中の人身事故や熱中症の心配はまずない。

まず「働き場所」を学習させる 

ロボット芝刈機の設置イメージ

ロボット芝刈機の設置イメージ

 草刈りの手順はこうだ。まずロボット芝刈機(オートモア)で管理したいエリアにワイヤーを敷設して囲み、チャージ(充電)ステーションを設置する。ワイヤーには微弱な電波が流れていて、オートモアは駆動中にその電波を感知して境界を認識し、その外には出ない。オートモア430Xでは一台で3200㎡の緑地を管理できるとのことだ。芝の「刈り高」を設定(5㎜単位で調整可能とのこと)し、オートモアに作業を始めさせる。

 はじめて管理する緑地では、2週間から1ヶ月の間、オートモアは芝刈り作業をしながら24時間タイマー設定に従ってランダムに走行し、走行軌跡を記憶して経験値を積む。芝の高さは、芝を刈るときにブレード(マシン下部の回転刃。ここに微弱な電波が流れている)にかかる圧により感知する。こうして「自分がどの場所でどれだけ芝を刈ったか」を記憶し、自身の中にマップを作成していく(ここはハスクバーナ社の特許)。そして、「どのあたりの芝をそろそろ刈るべきか」と判断し、刈り残しがないようにせっせと稼働する。そして電源が少なくなると自分でチャージ(充電)ステーションに戻ってくる。オートモアは全天候型で、酷暑の季節も雨風の強い日も24時間稼働する。ただし、浸水があって深い水たまりができたときと積雪のときは無理だ。

ロボット芝刈機の課題は止まった場合の対処

 しかし、従来オートモアにも課題があった。ロボット掃除機が部屋のどこかで引っかかって動かなくなるように、オートモアも、段差で落ちて脱輪したり、第三者の手で機体をいたずらされたりして止まってしまう可能性があるため、常時監視が必要だった。停止を知らずに1週間ほど放置していれば、その間に草があっという間に伸びてしまいかねない。

 そこで今回の実証実験では、遠隔地からスマホアプリで稼働状況を把握し、遠隔操作も行えるようにした。オートモア本体にSIMを内蔵し、3G通信でスマホと交信する(3Gで問題ないらしい)。実際、長澤氏のスマホから、福島ロボットテストフィールドで稼働しているオートモアの状況が示された。もし止まった場合はアラームで通知される。芝の「刈り高」の調整も現地に行かなくてよい。これまで盗難の事例はないそうだが、その場合もスマホにアラームが飛んでくる。

福島ロボットテストフィールドのロボット芝刈機の様子をアプリで示す長澤氏

福島ロボットテストフィールドのロボット芝刈機の様子をアプリで示す長澤氏

 遠隔操作が可能になれば、現地に人が貼り付く必要はなくなる。たとえば西武緑化管理の事業所から、多くのロボット芝刈機を一斉に動かしたり止めたり、また芝の刈り高を同時に変更したりすることも可能になる。これまでは、稼働させるときに本体パネルを操作する必要があったが、今後はそのパネルもとりはずし、スマホアプリによる操作に限定する商品を開発中という。

ロボット芝刈機を生かす緑地設計の提案をしていきたい

 このようなロボット芝刈機が普及すると、緑化管理の業務そのものが変わるのではないか?

「人手でやっていた面倒な作業が軽減される部分、よりクオリティの高い緑地管理の作業が行えます。また、今後はロボット芝刈機を生かす緑地設計の提案をしていきたいですね。導入段階ではコストがかかっても、ロボット芝刈機による管理でランニングコストが大幅に削減できますので、緑地管理者にとっては魅力でしょう」(杉山氏)

 西武緑化管理の試算では、年間30万円程度の芝刈り管理費用であれば、3年で初期コストの回収が可能とのことだ。近い将来、夏の炎天下の公園でもくもくと働くロボット芝刈機のけなげな姿を見かけるようになるかもしれない。

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。