ロボット研究の原点とは
「もともと絵描きになりたかった」
石黒教授は自分のバックグラウンドについてそう切り出した。
絵描きは自分の内面をキャンバスに映し出すが、現在の自分はそれをロボットに見出しており、根本は同じことをやっているのだという。アンドロイドの研究に興味を持った理由についても、普通に考えればそうなるはずだとあくまで冷静だ。つまり、コンピューターをやると人工知能に興味をもつはずで、そうすれば普通にロボット、アンドロイドに興味を持つのが自然な流れなのだという。
アンドロイド制作について
アンドロイドの制作過程について、まずはスキャニング、型取りなどで、モデルとなる人物のデータを取った上、骨格や皮膚などのハードウェアのパーツを作っていく。そこまでで5、6ヶ月ほどかかる。その後、制御プログラムなどソフトウェアを組み込んでいく。アンドロイドは、自律的に動くようにできているが、特殊な動きなどについては外部から制御できるようになっており、そのためのソフトウェアの改善は終わりなき戦いだという。
ハードウェアの制作は、造形を担当する会社やカツラを専門の会社など分業によって成り立っており、制御プログラムなどソフトウェアは石黒研究室が担当している。アンドロイドを1体造るのに、1500万円から3500万円ほどかかるという。細かい手の動きなど細部にこだわればこだわるほど金額もかさんでいくという。
人間らしいアンドロイドを造る上で、重要な要素は意外にも「呼吸」だという。胸や肩を呼吸しているかのように、動かすと動かさないとでは人間らしさが大きく変わるという。
人間を理解するためにアンドロイドを造る
なぜそこまで細部にこだわってまで精巧なアンドロイドを造るのだろうか。
石黒教授は人間を理解する上で、そこまでの精巧さが必要になってくるのだという。人間を理解するためには引き算の考え方が必要であって、例えば目の動きが、人間らしさにどの程度重要かを考えるときには、目以外の他の要素が影響しないようにしなければならない。そのためにどの要素も限りなく人間と同じであることが求められるのだという。
この研究は、根底には「人間とは何か?」という課題があり、人間そっくりのアンドロイドを造ることで、その理解を深めていくという手法をとっている。さらに石黒教授は、アンドロイドに意図や欲求を入れることがより人間らしさを生むのではと考えており、それが次の課題だと捉えている。その先に意識をつくるということが出てくるのではないかという。
最後に、石黒教授に「人間とは何か?」という質問を投げかけたところ、それは人類の永遠の課題であるが、少なくとも人間としての権利(人権)は時代とともに変わってきたと答えた。
石黒教授は、そういった課題を追求するための研究者を引き続き募集している。ロボット、アンドロイドなど人と対話したり、人と関係性を構築できたりする新しいメディアを作ることができる人を募集している。興味がある方は石黒教授に連絡してみてはいかがだろう。
DG Lab Tokyoで行われた石黒教授の講演はこちらから
石黒 浩
大阪大学教授/ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)
1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)。工学博士。社会で活動できる知的システムを持ったロボットの実現を目指し、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。2011年大阪文化賞(大阪府・大阪市)受賞。2015年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞受賞。最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。
■知能ロボット学研究室(石黒研究室)
http://www.irl.sys.es.osaka-u.ac.jp/
■石黒浩特別研究所
http://www.geminoid.jp/ja/