2017年2月27日〜3月3日の1週間、サンフランシスコのモスコーニセンターでゲーム開発者向けの世界的カンファレンス、Game Developers Conference 2017(GDC)が開催された。同会場では、Virtual Reality Developers Conference(VRDC)も同時開催。昨年の11月のVRDCは小規模なものだったが、今回は50以上のセッションが計画され大幅にスケールアップしたほか、GDC展示フロアのブースには、VR関連のプロダクトやデモも多く出展され、期間中は多数の企業からVR/AR関連の新作発表・リリースが行われた。
いくつかのセッションではVR/ARについて2016年の振り返りと、今後の市況やビジネスモデルについてさまざまな調査結果、考察が語られた。以下にセッション「Virtual Reality and the Future of Commerce」の様子を紹介する。
VR/AR市場の変遷、コマースに与える影響
「VR/ARの革新性はゲーム市場を起点にディスラプションを起こしている。近い将来、ブレイクスルーが起き、VR/AR技術が日々のライフスタイルにまで浸透すると、消費者の購買行動やコマースのあり方にも大きな変革がもたらされるだろう。」
「Virtual Reality and the Future of Commerce」と銘打たれたセッションの登壇者、ティム・メレル(Tim Merel)氏は、2つの企業、VRに特化したM&Aとコンサルティングを提供するDigi-Capitalと、VR/AR技術を活用したメッセージングサービスのEYETOUCH Realityの創業者兼CEOである。同氏はVR/AR普及のトレンド、ビジネスモデルの在り方、消費行動の変化などについて語った。
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まず大切なのは、VR/AR市場の現状と未来予測を知ることである。現状はコンソール型・モバイル型VRの普及が先行しているものの、投資はすでにARへと向けられており、2018年以降はモバイル型ARが急激に普及、導入数が一気に拡大し、AR市場のビジネス規模がVRを超えると予測している。
2016年はVR/ARの市場が実際に立ち上がった年であった。VRはHTC VIVE、Oculus Rift、Sony PlayStation VRなど多くのPC及びコンソール型デバイスが発売開始され、ARはポケモンGOの成功が市場に寄与したものの、マスマーケット向けAR市場での成功には、まだまだ多くの挑戦が求められる状況である(各図を参照)。
メレル氏の調査では、2016年中には世界全体で23億ドル(約2600億円)あまりの投資がVR/AR領域に対して行われている。最大の投資は、ARのヘッドマウントディスプレイに対するものであり、次いで各種ソリューション、ビデオ、とこれらの合計で全体の70%近くが構成されている。さらにVRのヘッドマウントディスプレイ、周辺機器、ゲームと続く(図参照)。AR技術向けの投資が特に注目を浴びている。
さらに同氏によると、現在広く使われているスマートフォン端末が、2017年から2018年にかけて、機種変更のタイミングで一斉にAR対応デバイスへと切り替えられるそうだ。その理由としては、スマートフォン向けAR技術への投資開発の進展と、モバイル端末の交換サイクルのタイミングが挙げられている。すでにGoogleの3Dマッピング技術「Tango」搭載機は昨年後半に発売開始されており、Appleも次期iPhone向けにAR機能の強化を進めていると噂されている。その他モバイル関連各社が、AR対応デバイスを2017年から2018年にかけて普及させるべく、各種プロジェクトを推し進めている状況である。なおメレル氏によれば、モバイル型ARの普及傾向はむこう数年間に渡って持続するという予測である。
では、投資や普及に後押しされ、どのようなビジネスモデルがVR/ARで実現するのだろうか。メレル氏はビジネスモデルの多様化を予測している。現状はハードウェアの販売が目立つが、それは先々ビジネスモデルの一角として落ち着き、今後は広告費収入、イーコマース、モバイルデータ通信費収入、アプリ内課金もそれぞれビジネスモデルとして大きなシェアを占めるようになるとの予測である。なお、B2B(エンタープライズ)、定期購入、有料アプリが大きなパイを占めることはないと見られている。また、ビジネスモデル全体の収益についても、2019年以降はARが優位に立つとの予測である。
VR/ARは、今後ビジネスモデルの多様化が予想される。今回のセッションでは、特にコマースの分野でVR/ARがどのような役割を果たしていくか、購買行動がどのように変化していくかについてより深く議論された。
メレル氏によれば、今後、VR/AR技術はコマース領域で導入が拡大し、オンラインでの購買体験をより豊かにする。VR技術はゲーム業界と紐付いて発展が進んでいるため、コマース体験もデジタルコンテンツの購入から拡がりを見せる。AR技術は、前述の通りTangoなどモバイル型AR技術が普及することで、特にロケーションベースの機能が充実するほか、あらゆる購買シーンでこれまでにはなかった没入感が得られるようになり、コマース領域に大きな影響を及ぼすと考えるそうだ。ちなみに、独自のオンラインコマース・金融エコシステムを形成している中国では、このような商業向けVR/AR技術でかなり先進的な取組みをしているとのことである。
メレル氏のこの発言に対して、聴衆から「VR/ARを軸にしたコマースアプリケーションの発展において、地理的・社会的な要因が大きく影響するだろうか、特に中国が優位にあるのだろうか」との質問があった。同氏の答えは、「世界人口の7人に1人が中国の地方に住んでいる事実がある。利便性の低い生活環境下で、モバイルデバイスの存在価値が高まっており、オンラインコマースのビジネス機会が同国で一層膨らんでいる」というものである。
中国発のコマース企業では、ARマーケットプレイスも手掛けるAlibabaが注目されている。中国市場では、特に小規模マーチャントが多いこともあり、信頼できる売買の仕組み作りが重要な課題である。AR技術を導入することで、商品購入前に擬似的な試用ができたり、従来のチャットより親密なコミュニケーションが可能となるため、購買体験を大きく向上させると考えられる。新興市場では新しい概念が受け入れられやすいが、同様のユーズケースは中国以外の市場や、ebayやAmazonなどのコマース企業にも適用できる。VR/ARが生み出す没入感やパーソナライズな感覚を活かすことが大切だと言えるだろう。
別の聴衆からは、「ブランド力があるマーチャントは、VR/ARを駆使するマーケットプレイスとどのように向き合うのが良いだろうか」という質問があった。これに対する同氏の答えは、既に著名なブランドが高額な費用を投じて、VR/AR技術の活用でも認知度を高めているが、引き続きVR/AR関連施策を継続しそのブランド力を高めるべき、というものである。例えばモバイル型ARの普及が進んだ際には顧客へどうリーチするか、それに合わせてスマホサイトではいかに売るか、といった具合に、クロスプラットフォームでブランド主導の取組みを進めて、挑発的な姿勢でマーケットプレイスと向き合いコントロールを効かせていくべきだろう、と説いている。
最後に、メレル氏はVR/ARコマースで何から売れていくかという質問に対して、物販、デジタルグッズ、オンライン体験(サービス)のすべてが同時に売れていくだろう、と回答している。しかしその展開方法はまだまだ未知数である、と付け加えて締め括った。
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