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March for Science 体験記

 4月22日土曜日、曇り空の下、米マサチューセッツ州ボストンの中心地にあるボストン・コモン(Boston Common)で「March for Science」が行われた。会場には、科学者の仮装をし、環境問題やアカデミアに対するメッセージ、科学ジョークなどが書き込まれたプラカードを持った人たちが集まった。同様の集会は、東京を含む世界中の500以上の都市で開催されたが、BU Today(https://www.bu.edu/today/)によると、ボストンでは約7万人が参加したということだ。

 当日はアースデイだったこともあり、プラカードは環境問題に関するものが比較的多かったが、その中でも特に目立ったのはMarch for Scienceの標語である「Science not silence」というものだ。この言葉には「科学はいかなる圧力にも屈さずその声をかき消させはしない」というメッセージが含まれている。

「March for Science」には以下の6つの理念が掲げられている。

 このような理念の下、いくつかの具体的な目標が掲げられているが、そのどれもが一貫して「オープンサイエンス」の実現を目指している。

「オープンサイエンス」とは、その名の通り、サイエンスの世界に、異なる分野の専門家や一般市民を巻き込み、より広い知見を集めて科学の進展や普及に役立てようという動きだ。例えば、普段は話し合うことがないような科学的な議論をしたり、研究によって生まれた新たな倫理問題に社会全体を積極的に巻き込んで議論したりすることや、研究における不正などを防止するために社会全体がアセスメントとして参加したりすることなどだ。このような倫理問題の議論や不正の監視以外にも、社会全体を巻き込んで研究を加速する動きや、研究費をクラウドファンディングで募るなどの活動もオープンサイエンスのひとつである。

 こうした運動が活発になったのは、ドナルド・トランプ米大統領の発言や政策が関係している。「地球温暖化は事実ではない」というトランプ大統領の発言や、温暖化対策を撤廃する大統領令への署名、連邦環境保護局(EPA)の予算の削減などに対する反発を示す人が、今回のデモにおいても非常に多く、大統領の発言を科学者として皮肉る”We want peer-reviewed information”「査読済みの情報を求める」といったプラカードも目についた。

 March for Scienceのイベントの中では、MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏やハーバード大学と MITの教授である、ジョージ・チャーチ氏、EPAのジーナ・マッカーシー氏をはじめ、さまざまな人種的背景を持つ研究者などが登壇しスピーチを行なった。なかでも「科学に対する情熱をもっとシェアして仲間を増やしこの状況を打破しよう」という伊藤穰一氏の呼びかけに、会場が一体となって盛り上がった場面は、特に印象深いものだった。また、会場横には子供向けに科学実験ショーや生き物とふれあうブースなども設営されており、家族連れの参加者の姿が非常に多く見られた。

 このようなオープンサイエンスの動きは以前から世界中で起こっているが、この日のように世界規模でデモや、EPAやAAAS(アメリカ科学振興協会)などの非常に大きな組織、さらに、MITやハーバード大学などの教育機関などの支持を受けての活動は、トランプ政権の逆風下でも今後、オープンサイエンスの運動を後押しする大きな力になるだろう。

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ここで、オープンサイエンスの最近の動向を少し、紹介すると、生物学分野においては、先日フェイスブックのCEOマーク・ザッカーバーグ氏とその妻で医師のプリシア・チャン氏が運営する基金CZIから資金提供を受けたbioRxiv.orgは、投稿されたpeer-review(査読)前の論文を公開してアイデアをより早く世の中に発信するためのpreprintサーバーを提供している。この他にもASAPbioや、有名なものではArXivなどがある。

 このように、今世界ではオープンサイエンスの動きが以前にも増して盛んになっている。

日本の科学界がこの動きの中でどのような動きを見せ、自他共にどのような影響を与えていくかが楽しみだ。

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