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予想外の成果をもたらすためのMITメディアラボの工夫とは

MIT

MITメディアラボは、ここまで紹介してきたように、独自性のあるユニークな研究を後押ししているだけではなく、自らも、他の研究所では滅多に見かけないユニークな研究を進めている。多くの分野の専門家を指導者として迎え、多彩な学生を集めるだけでなく、同ラボでは分野を超えた人的交流が発生し、情報が交換され、研究が行いやすくなるような、さまざまな工夫が凝らされている。

そのひとつは、月に数回、研究所にゲストを招いて行われる自由参加型のセッション(ML Talks)だ。ゲストの専門分野は非常に幅広く、新進気鋭の研究者からSF作家、活動家までと多様だ。

最近の例では、2017年の「Nelson Mandela Changemaker of the Year」に選ばれたアダム・フォス氏(ボストンのサフォーク郡地方検察庁少年部の前地方検事補)が「米国刑事司法制度(USCJS)の再発明」と題して、裁判での勝敗が意識されるような現在の司法制度は、次のステップへ進むべきであるという内容のセッションを、メディアラボ所長の伊藤穰一氏との対談形式で行った。

また、ハーバード大学の講師マーシャル・ガンツ氏による「非暴力運動におけるモラルの危機」というセッションでは「不服従」を称賛する動きや、ガンツ氏が行っている投票を促す運動などを例に挙げ、無秩序に人を集めて活動するのではなく、時代によって変化するさまざまな社会的背景を考慮して、人を束ねて活動することの重要性などを話し合った。このような社会問題について話し合う形式のセッションがある一方で、最新の研究動向や世界の動きなどを紹介する、ブロックチェーンの研究者とビットコインの研究者を招いたセッション、さらには、科学とSFの関係性 などについて話し合うセッションなどもある。

筆者が興味深いと感じたセッションは、昨年行われた「Forbidden Research」だ。同イベントでは、MITを語る上では欠かせない同校のHACKと呼ばれるイタズラの文化や、「人間に対する遺伝子組み換え」「人体での侵襲型ブレインコンピューター試験」「小児性愛者の研究」などのひと癖もふた癖もある研究テーマについて、関係者たちによるセッションと対談、質疑応答が行われた。

同イベント中で特に興味深かった発言は、伊藤氏による「既存の法律や倫理を敵対視するのではなく、定義が曖昧な領域を拡大させていく研究者たちが、協力してよりよい社会をつくるため、過去に規定されたものを更新し牽引することが重要である」といった趣旨のものだ。

こういった大胆な発言が、研究所から発信されていることにも驚いたが、それを実行に移すため、普段から同ラボ内では異なる分野の研究者たちがそれぞれ意見を交換し、流動的にコラボレーションが 行われている様子を見るにつけ、ただ新しいことに挑戦するだけでなく、ある目的に到達するまでの過程で得られた成果物を世に公開し、それらに責任を持つといった固い信念を持っていることが感じ取れた。筆者周辺の研究者たちも同イベントのメッセージと、その不思議な雰囲気に驚き、触発されている様子だった。

これらの全てのセッションは、同ラボのホームページやSNSからライブ配信されており、イベント後には、収録された動画が公開される。各イベントは主に所長の伊藤氏や、各研究室の教員たちとゲストの対談形式でスタートし、セッションの最後には聴講者から質問を募る。質問者はその場で回答がもらえる。近日公開予定のセッションは、同ラボのイベントページから確認できる。このようなゲストを呼んで行われる一般公開のセッション以外に、応募者参加型のイベントも数多く行われている。

ゲストを招いてのセッションは、他の多くの研究機関でも行われている。しかし、その多くは研究分野ごとに独自に活動するため、それぞれの活動が孤立してしまっている。一方、MITメディアラボでは、そこに所属する人たちの多様な視点や、非常に幅広い興味関心を集約する形で、上記のようにさまざまなテーマをピックアップし、それをラボ内だけでなく世界中へと発信ことを前提として、セッションが企画、実施されている。

各分野の融合を図る工夫は、セッションの企画だけでない。多くの研究機関では、分野ごとに別棟になるなど、物理的に区分されがちな研究室を、ひとつの建物の中にまとめてあり、分野間の壁を感じさせない作りとなっている。また、毎月数回、同ラボ関係者向けのパーティー等が開催され、これにより普段触れ合うことの少ない分野の専門家と話す機会が増え、意外なコラボレーションが起こるのだが、これもまた、各人の幅広い興味関心によって引き起こされている。研究におけるセレンディピティ(思わぬものを偶然に発見する幸運)もこのような環境だと起こりやすくなるのではないかと感じる。

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