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AI活用+α 八王子で進む「医療をツールとした社会改革」

北原リハビリテーション病院新棟

北原リハビリテーション病院新棟

 東京都八王子市を中心に、医療施設を展開する医療法人社団KNI(以下KNI)は、医療へのAI(人工知能)導入を積極的に試みている。これは単に先端技術を取り入れることを目的としているのではなく、KNIを率いる北原茂実理事長が構想する「医療をツールとした社会改革」の一環だという。具体的にはKNIを核とした予防や地域医療を包括するプラットフォームを創出することであり、その中核施設となる「デジタルホスピタル」(さまざまなセンサーやAIにより徹底的な業務効率化と医療の質の向上が実現された病院の概念)を実現することだ。

 この構想の中核を担う「北原リハビリテーション病院新棟」の開院内覧会が2017年12月10日に行われた。同日は「北原フェス」として地元の人にも施設が開放され、イベントや屋台などが立ち並び大変な活況だった。

 北原リハビリテーション病院新棟は、従来型の病院のイメージとは大いに異なる。果樹園や牧場、温泉施設などが併設され、その建物はヨーロッパな街並のような外観を備えており、人を癒やし、交流を促進する仕組みを備えている。その一方で、顔認証によるセキュリティシステムやAIを活用した医療従事者への支援システムを備えるなど、最先端のテクノロジーを活用した医療が行えるようになっている。ここでは今後も継続的にIT技術を活用した実証実験を行う予定で、この取り組みは、日本電気株式会社(以下NEC)が共創活動の一環として参加している。

AIによる入院患者の「不穏行動」予兆検知システム

 テクノロジーの活用例としては、入院患者が着用した時計型センサーからバイタルデータ(体温、心拍など)を把握しAIに分析させることで、「不穏行動(急性の錯乱状態で幻覚妄想、感情不安定、混乱などにいたること)」の予兆を検知することができる。また個々の患者の状況をAIが分析することで、退院時期を予想することが可能となる。これによりあらかじめ適切な転院先を想定することができたり、入院長期化を防ぎ早期の社会復帰を支援したりすることができる。

 KNIの構想や今後のプランなどを内覧会当日、北原茂実理事長に聞いた。

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――内覧会を拝見しましたが、スタッフがヘッドセットを付けてデモをしていました。

 今回の実証では、マイクとイヤホンを装着し、「声」でAIのシステムと看護師をつなげています。たとえば看護師が検温して「患者の熱が39度ある」とつぶやくと、マイクを通じて自動的に電子カルテに情報が記録され、AIが看護師に適切と思われる対応を提案します。看護師が患者の顔色が黄色いのに気づき「黄疸の可能性」と話せば、AIは該当する可能性のある症状を提示し、患者への処置を提案してくるでしょう。

 これを積み重ねれば、一番優秀な看護師の観察や判断を全員が共有できます。今までの看護師によるケアは各スタッフの経験によるところが多く、患者の情報共有においてもレベルの低いところに合わせてしまう可能性がありましたが、AIのサポートで、一番高いレベルに合わせることができます。また病院業務のうち大きな割合を占めていたカルテを書く時間もいらなくなる。このシステムは画期的に医療を変えるはずです。

――看護師さんも助かりますね。

医療法人社団KNI北原茂実理事長

 今、働き方改革が推奨され、労働時間の削減が訴求されていますが、これもシステムを変えないとダメです。たとえば育児中の看護師が保育園に向かうため午後3時に帰ろうとしても、次の人に申し送りできないと帰れません。しかし、このシステムを使えば「申し送り」がいりません。AIのサポートで看護師のフレックスタイムが実現できるのです。

――理事長が唱える「医療をツールとした社会改革」にもやはりAIの活用を?

 AIを活用すればよいというものではありません。「人にやらせていたことを機械にやらせる」という考え方だけではダメです。社会のシステムを変えないとうまくいくはずがないのです。

――といいますと?

 現在、ひとり暮らしの高齢者を民生委員が見守っていますが、一人暮らしの高齢者が増えると民生委員だけでは対応できないため、今後はロボットに見守りをさせようという動きがあります。しかし、ロボットが倒れている老人を見つけたとしても、何の解決にもなりません。一人暮らしの高齢者が意識を失った時、既往歴や現病歴が分からず、検査や手術の承諾がもらえないため適切な治療が行えません。また不幸にしてその方が亡くなった時にはご遺体の引き取り手がない。これらは現在、既に起きている問題です。これはAIとか機械を活用すれば済む問題ではなく、社会のシステムを変えないと解決できません。

 そこで私たちは、八王子というエリアにわれわれの医療施設を核としたプラットフォームを作ろうとしています。今進めている「デジタルリビングウィル」という仕組みは、患者の既往症などの医療情報や経済状況、趣味などの生活情報とともに治療や検査に対する希望など患者自身の「意志」を登録してもらうものです。これにより緊急時には患者の「意志」に沿ったスピーディーな治療が可能になります。また登録した情報をAIが分析し健康的に生きられるようアドバイスしてくれるため、事前に病気になることを防ぐこともできるようになります。

 さらに我々は、その「意志」をもとに、適切なサービスをオーダーメイドで提供する「トータルライフサポートサービス」の提供をはじめます。この一例として「緊急時の支払保証」などが組み入れられる予定です。こうして八王子エリア100万人のプラットフォームを作り、我々病院のコールセンターを市民の生活を支える窓口にしたいのです。

――NECと連携して取り組まれるのですか?

 「デジタルリビングウィル」は今問題とされていることのほとんどを解決できる手段になるはずです。われわれは基本的にはNECの技術力を信頼しているので、このプラットフォームの創設を一緒にやって欲しいと考えています。

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 KNIは、フェスへの圧倒的集客を見てもわかるように、八王子を中心とした市民から大きな信頼を寄せられているようだ。それがベースにあってのプラットフォームの構想となるのだろう。その100万人のプラットフォームが実現すれば、AIと共生するわれわれの未来モデルが可視化されるのかもしれない。

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