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日本のバイオ研究者にも“起業”の選択肢を

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

「研究者にも“起業”の選択肢を」と銘打ったミートアップが5月22日の夜に都内で開催された。この催しは、このほど、バイオテクノロジー・ヘルスケアに特化したコンソーシアム型のアクセラレータープログラム「OpenNetwork Lab BioHealth」を開始した株式会社デジタルガレージ(以下、DG)が開催したものだ。

 米国のバイオヘルスケア関連のスタートアップ事情を紹介する一方で、日本でも研究者が起業し、成功する事例を積み重ねていくためには、研究者、起業経験者、投資家などが何をし、どのようなエコシステムを構築していくべきかが話し合われた。

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米国のバイオヘルススタートアップの状況を説明するDGの宇佐美

 ここ数年、バイオテクノロジーやヘルスケア分野への投資が特に活発になっている。先行する米国でのGoogle Venturesの投資先を見ると2015年以降この分野への投資が急に増えており、2017年では1/3以上がこの分野への投資だ。背景としてはコンピューターの計算能力の向上、センサー技術の向上などIT分野での技術革新がバイオヘルスケア分野へも波及し、例えばゲノム解析にかかるコストは2003年には3000億円だったものが、現在ではわずか10万円ほどとなっている。

 こうしたイノベーションは、既存の大企業の内部から生まれるのもではなく、大学の研究者との協業や、研究者が中心となったスタートアップから生まれることが多い。先端的な技術や知識に裏付けされた新鮮なアイデア、権威主義とは無縁の研究環境、そして意思決定の速さなどが革新を支えている。

左から橋本(DG)、澤山陽平さん(500 Startups Japan)、香本慎一郎さん( Eight Roads Ventures Japan)、鮫島昌弘さん(ANRI パートナー)

 とはいうものの、研究者が起業するのは精神的にも物質的にも困難が多い。スタートアップのエコシステムが確立している米国にはIndieBioという世界最大級のバイオ分野でのスタートアップアクセラレーターが存在する。この日は同社が主催するデモデイの模様を一部見ながら、そのプレゼンテーションの完成度について投資家の意見を聞くという機会があったが、市場見通しの甘さや、事業の広がりが見えないなどなかなか厳しい指摘があった。登壇した投資家のひとりであるANRIパートナーの鮫島昌弘さんからは「ここにおられる研究者の方はこんなに厳しい話ばっかりだったら、研究者の人は起業はやめようと思っちゃう」と冗談交じりに話していたほどだ。

 実際にIndieBioが提供するアクセラレータープログラムの中で、研究者を起業家としてトレーニングする過程ではプレゼンテーションの訓練だけではなく、電話でアポイントをとる練習などもあるそうだ。

 IT分野でのスタートアップでは技術者と経営者は役割分担をすることも多く、投資家への訪問営業やプレゼンなどの機会に研究者が直面することは少なかった。ところが専門領域の技術や知識を正しく説明できることが求められるバイオヘルスの分野では、初期には研究者=CEOであることが望ましいという意見もある。こうなると資金や施設の提供のみならず、起業への漠然とした不安を取り除いてくれるメンタリングや金融知識や契約実務の学習、さらにはビジネス開発に必要な営業スキルまで面倒を見てくれるアクセラレーターの役割は非常に有用なものだと言えるだろう。

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株式会社JiksakBioengineeringの川田良治さん

 東京大学の研究員を経て起業をした株式会社JiksakBioengineeringの川田良治さんは、この日もトレードマークの白い眼鏡で登壇した。川田さんはスタートアップでありながら支援してくれたのはVCばかりではなく、資金や設備面で大手企業の支援も多く受けてきたことを披露していた。バイオヘルス関連の大手企業がオープンイノベーション的な連携を必要としていることは事実で、前述のDGがスタートしたアクセラレータープログラムにも武田薬品工業などの製薬大手など17社がパートナーとなり参加する。

 日本でのIT分野のスタートアップの場合、大半はそのマーケットが国内にとどまっていた。しかしバイオヘルスの分野で成功するとなると、画期的な治療法や創薬は世界中から求められるため、その舞台はグローバルに広がることになる。一旦始めたら、目標は世界規模での成功を目指す。

 ようやく日本でも研究者が起業家になれる環境が整ってきたのではないだろうか。

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