今年1月に開催された、米国ラスベガスで開催された「国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」では、スマートスホーム関連のプロダクトの出展が目立った。特にアマゾンとグーグルは、自社のスマートスピーカーと連動した製品を家庭内に普及させることに積極的で、関連製品の展示も多く見かけた。スマートスピーカー関連の市場規模は(この原稿執筆時ではまだ2018年の統計は発表されていない)、昨年7月に市場調査会社Canalysが発表したレポートによると、2018年末までにスマートスピーカー保有ユーザーは1億人突破の見通しだ。2020年には2億2500万人、2022年には3億人を超えると予測している。
メーカー別で見ると、アマゾン・エコーが市場シェア50%超を締めてトップ。続いて30%のグーグルと続く。現時点ではスマートスピーカー・ユーザーの64%は米国人のため、米国企業が圧倒的な強さを見せている。
中国スマートスピーカーの戦国時代を呼んだアイフライテック
米国以上の伸び率を示しているのが中国だ。Canalysの統計によると、2017年末時点では中国人が保有するスマートスピーカーは全世界の3%、米国、英国、ドイツに次ぐ4位に過ぎなかったが、2018年末には10%にまで成長し、米国に次ぐ第2の市場になると予測している。メーカー別シェアでもアマゾン、グーグルに次ぐ3位はアリババグループ、4位はシャオミと中国勢が二番手グループにつけている。
今、中国のスマートスピーカー市場はまさに大戦国時代を迎えている。先行するアリババグループ、シャオミ以外にもテンセント、バイドゥ、JDドットコムなど有力IT企業の多くが自社のスマートスピーカーを発売している。スマートスピーカーの要素技術はユーザーの指示を理解する音声認識技術だが、中国の有力AI企業アイフライテックがきわめて優秀な音声認識技術を他社に提供しているため、比較的容易に開発できることが戦国時代を招いた要因だ。
急速な普及にはもうひとつの重要な要因がある。それは「ポスト・スマホ」の探求だ。今や日常生活に欠かせないガジェットとなったスマートフォンだが、その成長に陰りが生じている。2018年のスマートフォン世界出荷台数は前年比マイナス4.1%の14億490万台(IDC調べ)。2年連続のマイナス成長となった。中国市場に限ると、前年比マイナス10.5%という激しい落ち込みを記録している。こちらも2年連続のマイナスだ。スマートフォンの普及が一段落したこと、さらに製品として成熟化し買い換えサイクルが長期化したことが要因とされている。
中国のIT企業はこれまで順調な成長を遂げてきたが、それはインターネットユーザーの数そのものが増加していたことを背景としている。この先、中国国内でのスマホユーザーの増加に頼れないならば、別の成長スポットを見つける必要がある。そこで白羽の矢が立てられたのがインドや東南アジアなどの海外市場であり、スマートスピーカーという新ジャンルというわけだ。
発展途上のスマートスピーカー
ポスト・スマホとの期待をかけられているが、スマートスピーカーとスマートフォンでは市場規模は天と地ほどの違いがある。急成長を遂げているとはいえ、多くの消費者にとってスマートスピーカーはまだ必要性を感じられないガジェットだ。
問題は「スマートスピーカーでできること」がまだ限られている点にある。連携できるウェブサービスの種類もまだ少なく、操作方法などのインターフェースがまだこなれていない。かくいう筆者もアリババグループのTモールジニー、グーグルのグーグルホームミニと2台のスマートスピーカーを持っているが、まったくといっていいほど使いこなせていない。スマートスピーカーで仕えるウェブサービスはすべてスマートフォンでも使えるし、操作も楽だ。音声で操作できるというメリットはあるが、その効果を実感できるチャンスはなかなかない。今のところ、スマートスピーカーの出番はキッチンタイマーだけ。毎朝ゆで玉子を作る時に「OK、グーグル。9分のタイマーをセットして」と使っている。
スマートスピーカーがスマートフォンにはない利便性を獲得するためには、スマートホーム機器との連携が必要になる。テレビ、エアコン、照明、オーディオなどの家電を声だけで操作できるとなれば、かなり便利になるはずだ。ただ、現時点ではスマートホーム製品の種類が少ないこと、メーカーごとに規格が異なり、それぞれ独自のアプリをインストールする必要があるなど課題が多い。
“目利き”のシャオミと“黒子”のTuya Smart
この状況を変えつつあるのが、中国のエクセレントカンパニーと称されるシャオミとTuya Smartだ。スマートフォンメーカーとして知られるシャオミだが、同社のウェブストア、実店舗を見ると、照明、加湿器、エアコン、炊飯器、コンセント、監視カメラ、センサーなど多様なスマートホーム製品が並んでいる。シャオミの手法は優秀なスマートホーム・ベンチャーを育成するというものだ。
優秀なスマートホーム、IoT企業を発見すると、シャオミのCVC(コーポーレート・ベンチャーキャピタル)が出資し、育成する。ベンチャーが作る製品はシャオミ製品群とマッチした色調、デザインを採用するほか、シャオミのアプリから操作が可能となる。シャオミは投資を通じて自社のアプリ、スマートスピーカーで利用可能な製品群を増やすことができる。ベンチャーは資金面や製造ノウハウで大企業の助けを得て成長することができWin-Winの関係を築けるという寸法だ。
優秀なスマートホーム・ベンチャーの育成という“目利き”の戦略を取るシャオミ。これと真逆の方針を貫くのがIoTプラットフォームのTuya Smartだ。同社は2014年の創業の若い企業だが、2018年のCラウンド融資で100億元超の評価を得てユニコーンの仲間入りを果たしている。
Tuya Smartはスマートホーム製品製造の黒子役を演じている。たとえば、炊飯器を作っている伝統的企業があったとしよう。スマートホームに参入したくとも、炊飯器をネット対応にして操作するアプリを作るのはノウハウがなく、資金も時間も必要となる。ここでTuyaの出番だ。Tuyaは企業に組み込み型通信ボードとアプリ、クラウドサービスというスマート化に必要な技術をセットで提供する。Tuyaのサポートを受けることで、開発に必要な資金と時間が一気に短縮されるという。しかも、アマゾン・エコー、グーグルホーム、アリババグループのTモールジニーと各種スマートスピーカーに同時対応しているため、ひとつの製品で幅広い消費者に売り込みをかけることができる。
町工場のような零細企業がTuyaを活用してスマートホーム製品を開発している事例もあれば、ハイアールのような世界的企業がTuyaの技術を活用している事例もある。Tuyaの技術を使っても、製品にはそのことを明記する必要はないため、消費者にブランドは知られていないが、すでに多くの製品が採用しているという。公式発表によると、2018年10月末までにTuyaの技術を採用した製品は3万種、累計1億台を突破した。
急成長を続けるスマートスピーカー。その勢いはシャオミやTuya Smartのスマートホーム製品に波及し、幅広いマーケットを形成していくことが予想される。