データセンター運営などのさくらインターネット株式会社(大阪市、田中邦裕社長)は、クラウドで人工衛星データの利用や解析ができるプラットフォーム「Tellus(テルース) 」を2月21日にローンチした。誰もが無償でアカウントを取得できる。これまで限られたユーザーしか使えなかった衛星データ利用の敷居を下げ、官公庁需要が中心であった衛星データ利用の分野で民間需要を掘り起こす。また、地上の人流データや地域統計などと組み合わせることで新しいサービスや新規のビジネス開発などが期待されている。
「Tellusは(世の中に)宇宙データがあること、使われることを前提とするプラットフォーム。コストがかからず、技術者がアジャイル(素早い)にチャレンジ、失敗できるようにすることで、新たなユーザー(技術者)を開発したい。データだけではなく、いろんな人が融合するイノベーションの場となる。何が起こるか分からないということが大事だ」。東京都内で開かれた記者発表会で、田中社長はこう述べた。
Tellusは、データ分析のためのストレージや計算能力、ネットワークを提供するプラットフォームで、世界最大級の地球観測衛星「だいち」(ALOS=Advanced Land Observing Satellite=陸域観測技術衛星)などが収集したオープン・フリーのデータなどを提供する。
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衛星データは巨大なため一般のパソコンでは処理できず、利用や処理には高いコストがかかる。そのため専門家や高性能なコンピューティング環境を持つ一部のユーザーしか扱うことができていない。Tellusでは、こうした衛星データをブラウザベースで利用できる。また、Pythonで動作するデータ分析などの統合開発環境「Jupyter Notebook」を利用してツールやアルゴリズムを開発することができ、アプリケーション、アルゴリズムの購入・販売も可能だ。有料データの販売・購入もできるようにする。
Tellusでは現在、「だいち」「だいち2(ALOS−2)」のほか、解像度0.5メートルの「ASNARO-1」の衛星データ、気象情報などのデータを提供。また、地上データとして人口動態や人の流れに関して経産省と内閣官房が提供している地域経済分析システム「RESA」やアメダスのデータ、NTTドコモの統計データ、Twitterなどのデータが提供される予定で今後、衛星、地上データとも順次拡充されるという。
衛星データの利用例として災害情報提供、農業・漁業の支援や作業の最適化、土壌データと掛け合わせた農業保険サービス、自動車の数などを計測して集客数を推計するマーケティング、都市計画の立案、流通・物流の最適化などがある。商業施設にある駐車場の自動車の数の増減と、商業施設の売り上げを掛け合わせて相関関係を見出すことができれば、将来の売り上げ予測が可能となり、株価予想に利用することも可能になる。
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記者発表会で経産省製造産業局の井上宏司局長は「最先端のデータを自由に利用してもらい、地上の経済データなどと組み合わせて新たなビジネスが生まれることを期待する。ユーザーの要望を踏まえ今後2年でTellusを拡充する。持続的な宇宙産業のため民間需要の起爆剤となり、宇宙利用の好循環を目指す」と述べた。
衛星のビッグデータを利用したサービスやソリューションの開発競争は世界的に激しくなっていて、日本でも衛星を打ち上げる小型ロケット開発のベンチャー企業が登場している。衛星データのプラットフォームとしてはすでに、Amazonの「Earth on AWS」、欧州の「Copernicus DIAS」があり、Tellusは日本の宇宙開発ビジネスの推進役となることが期待されている。
また、Tellusローンチに合わせて、衛星データ利用に関するオウンドメディア「宙畑(そらばたけ)」がリニューアルされた。データ活用人材を育てるためのラーニングイベントを実施しているほか、宇宙データ解析のアルゴリズムコンテストも予定している。Tellusの開発や利用促進を目的とした「xData Alliance」にはみずほ情報総研、シスコ、シャープなど23の企業・機関が参画している。
※Tellusは経済産業省の「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備事業」により、さくらインターネットがプラットフォームの構築、運用を受託した。2018から2020年度の3年間の事業で、2021年度から民営化される予定。「Tellus」は、ローマ神話に登場する大地の女神。