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スタートアップが次々と生まれる未来を創る 〜エストニア発ロボット技術教育機関「Robotex Japan」

「Robotex Japan」CCOのピォー 豊氏(右)と、理事の大野愛弓氏(左)

「Robotex Japan」CCOのピォー 豊氏(右)と、理事の大野愛弓氏(左)

 ビジネスアイデアを持つ起業家を育て、投資家とつなぎ起業を促す——。近年、日本においてもスタートアップ(新規企業)育成を目的とするアクセラレータープログラムが盛んになり、投資額も増加傾向にある。

 しかし、こうしたエコシステムを根付かせるには、起業を目指す若者が次々と生まれる土壌にしていかなくてはならない。つまり、将来を見据えた“教育”にも力を入れる必要があるだろう。

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 2018年8月、エストニアに本拠地を置くロボット技術教育機関「Robotex(ロボテックス)」の日本支部「一般社団法人Robotex Japan」が設立された。

 エストニアは電子政府の取り組みや、他国民が電子国民(e-Resident)として登録できるe-Residency制度などで注目を集めている。また、教育の電子化も進んでおり、オンライン上で子どもの出席状況や成績などを確認できる電子教育システム「eKool」が普及しているほか、未就学児がプログラミングやロボットに触れることができる教育環境も整っている。

 そんなエストニアで、世界最大級のロボットフェスティバルや、STREAM(Science、Technology、Robotics、Engineering、Art、Math)教育などを通して、子どもたちのクリエイティビティ(創造力)やアントレプレナーシップ(起業家精神)を育成しているのがRobotexだ。

 Robotex は日本でどのような取り組みを展開するのか。なぜ日本に支部ができたのか。Robotex Japan のCCO(Chief Creative Officer)ピォー 豊氏と、理事の大野愛弓氏(VIVITA)に話を聞いた。

スタートアップを多数生み出すための教育機関

——まずはエストニアにおけるRobotexの活動について教えてください。

豊氏:Robotexは、2001年にエストニアの大学から始まった取り組みで、当初は学生向けのロボット競技イベントでした。現在は、幼稚園から大学に至るまでの教育機関や政府機関、企業などと連携し、STREAM(主にロボット)教室やロボットフェスティバル、ワークショップなどを展開しています。

大野氏:Robotexがゴールに掲げているのは「社会課題を解決し、社会をより良くしていくこと」。そのためにRobotexでは、子どもたちの中から、イノベーションを起こす起業家やエンジニア、スタートアップが多数輩出されることを目指しています。

 Robotexの活動の中で、特に大きな注目を集めるのが、産官学を巻き込み、年に一度、エストニアの首都タリンで開催されるロボットフェスティバル「Robotex International」。フェスティバルでは世界中から3万人を超える参加者が集い、企業や研究機関による展示ブースやワークショップ、多世代が同じ競技で競うロボットコンテストなどが開催される。その中で大野氏が「Robotexの方針がよくわかる」と話すのが、カンファレンスの基調講演だ。

大野氏:一般的なイベントの基調講演は、企業や研究機関などの “大人”が話しますよね。ところがRobotexでは、年齢を問わず、アイデアや思いがある人なら誰でも登壇できます。例えば、昨年のカンファレンスでは、シンガポール出身の9歳の女の子、ザラ(Zara)ちゃんが登壇し、「子ども目線の旅行を企画していかなければ旅行業界はダメになる」と講演しました。

 彼女は、家族で海外旅行に行くときに子どもが楽しめる場所の情報を提供するチャットボットを開発する起業家なのですが、その講演があまりにも見事だったため、カンファレンスに登壇していた投資家が出資を約束する一幕もありました。こうした出来事は、Robotexが年齢を問わずアイデアや思いを持つ人を登壇させる方針をとっているからこそ起こりえたものでしょう。

未来を創る“チェンジメイカー”を育てたい

——日本でも、エストニアと同じ取り組みを展開するのでしょうか?

豊氏:現在Robotexは世界15カ国に支部がありますが、各支部ではそれぞれの国の課題に合わせた取り組みを展開しています。Robotex Japanでは、ロボットというツールを使い、学校では学べない主体性や創造力を育み、子どもたちに問題発見や解決能力を持つ“チェンジメイカー”となる素養を身につけてもらおうと考えています。

 具体的には、産官学連携型のエコシステムを構築し、企業や研究機関を巻き込んだワークショップや、子ども向けのアントレプレナーシップ育成プログラムなどを提供する予定だという。

親子向けのロボットアイデアソンの様子

豊氏:2019年2月には、マイクロソフト社と共同で親子向けのロボットアイデアソン「おやこちゃれんじ」を開催しました。単にロボットを触ってもらうワークショップではなく、子どもたちに「ロボットが課題を解決するために存在する」と認識してもらうことを目的としました。

 子どもたちには、まず保護者から困り事をヒアリングさせ、そこからアイデアを膨らませていくように持っていく。その結果、ゴミ捨ての手間を減らすためにゴミを自動で仕分ける自動仕分けロボや、通勤ラッシュを避けられるよう考案されたお迎えロボ(専用モノレール)など、現実の課題に即したアイデアが多数生まれた。アイデアを絵にした後、子どもたちはその内容を参加者の前で簡潔に説明するピッチも体験したという。

 Robotex Japanは、2019年10月12日・13日に、京都造形芸術大学(京都市左京区)において、エストニアで11月に開催される「Robotex International 2019」の日本大会である「Robotex Japan Festival 2019」を開催する。同フェスティバルでは、体験型ブースやワークショップが催されるほか、エスト二ア大会同様、多世代が同じ競技で競い合うロボットコンテストや、子どもから大人まで、あらゆるイノベーターが登壇できるカンファレンス(基調講演)も開催される予定だ。

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 Robotex Japanができた経緯を語るうえで、欠かせないのは、Robotex Japanのパートナー企業「VIVITA(ヴィヴィータ)」の存在だ。

 VIVITAは、千葉・柏の葉の商業施設内に活動拠点を設け、子どもたちに3Dプリンターやパソコン機器を無償で貸し出し、ロボットなどを自由に工作する機会を提供。その成果を披露するロボットコンテストも開催している。

 VIVITAは昨年12月にエストニアのタリンに2拠点目を開設したが、その準備の際、現地でRobotexのチェアマン(リーダー、当時)サンダー・ガンセン氏らと交流を深め、日本支部の立ち上げを決めた。VIVITAを率いる孫泰蔵氏は、その目的について、次のように話してくれた。

VIVITA CEOの孫泰蔵氏

「Robotexは、ロボットづくりを通じて子どもたちの起業家精神を育み、最先端技術の開発者のネットワークをつくることを目指すという、開催目的そのものがユニークです。その背景には、企業が若者や子どもを巻き込んでいないこと、子どもや若者の挑戦を社会が受け入れてないことを問題だと考えていて、それを解決していきたいという意志があります。私はこの考えに共感し、Robotexを日本にも広めたいと思いました。

子どもや若者がRobotex Japan Festivalに参加することで、大きな夢を持ち、それを自らの手で作り上げ、自らの力で道を切り開いていく体験を通じて、世界を良くしようというイノベーターが日本にたくさん生まれてくることを願っています」(孫泰蔵氏)

 エストニアのロボット技術教育システムが、日本の起業家育成エコシステムに将来どのような影響を及ぼしていくのか。今後の展開を注視したい。

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