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注目されるPHR市場の開拓者に聞く~デジタル医療最前線

株式会社Welby 代表取締役 比木武氏(中)経営企画室長 姚志鵬氏(左)管理部 平山美穂氏(右)

株式会社Welby 代表取締役 比木武氏(中)経営企画室長 姚志鵬氏(左)管理部 平山美穂氏(右)

 健康、医療の情報管理にもいくつものイノーベーションの波が打ち寄せている。その中のひとつで、最近注目を集めつつあるのが、個人が電子的に自らの健康・医療情報を管理する「PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)」だ。これまでも電子カルテなどデジタル化された健康・医療情報は存在していた。これらをより一元的に管理、利用していこうということだろうが、具体的にどのようなことが考えられているのだろうか。まずは、ヘルスケア業界に明るいデジタルガレージ豊原稔に概況を聞いた。

 「われわれが病院に行くと検診結果が電子的に記録されます。それがEHR(エレクトロニック・ヘルス・レコード)。日本には山のようなEHRデータが存在し、研究などでの利活用が期待されてきましたが、利用に当たっての患者の同意が取られていないことで思うように進んでいないのが現状です」(豊原)

株式会社デジタルガレージ DG LAB プロジェクトマネージャー 豊原稔
株式会社デジタルガレージ DG LAB プロジェクトマネージャー 豊原稔

 つまり、病院などにはデジタル化された個人の健康・医療データはあるものの、それは他の目的で利用できる状態になっていないというわけだ。それでは、なぜPHR周辺が盛り上がっているのか。スマートフォンやIoT技術の普及により、自分自身の血圧、心拍数、歩数などのバイタルデータ(人体から取得できる情報)をウェラブル端末経由で自分でも簡単に取得、管理できるようになった。そして取得したPHRは、本人が開示に同意さえすれば二次利用することができる。

 「自らの健康・医療情報を個人にどうやって貯めてもらうか、それらをどのように活用するかに、注目が集まっています」(豊原)

 PHR市場では、PHRを取得するセンサーを開発する事業者と、取得したデータを目的別に管理するアプリ事業者に別れる。さらにアプリ事業者でも、ダイエットなど健康管理目的のものを作り、圧倒的に使いやすいUI/UXで差別化していく事業者と、特定疾患の治療目的に特化したノウハウを組み込んだもの(例えば糖尿病)を作る事業者に別れるという。こうした事業者が、互いにデータを囲い込むことなく事業を進めようとしているのも、PHRマーケットの特徴だという。

 測定され蓄積されていくPHRをどう活用するかは今後の課題だが、豊原の説明によると、今後この市場が活性化するには、この仕組みが治療に貢献できるものになる必要があるという。海外ではDTx(Digital Therapeutics デジタル療法)と呼ばれる取り組みがすすめられているが、治療用アプリ開発という可能性はあるのだろうか? 「PHRが本当に生活習慣病の治療に効果があるのかということについて、一定のエビデンスを出した上での話。薬との併用になるでしょうけど、今後はそういうところも目指していくのでしょうね」(豊原)

* * *

 続いて、PHRマーケットで実際に事業を進める株式会社Welby代表取締役比木武氏に、PHR市場での取り組みを聞いた。

PHR市場について語るWelby代表取締役比木武氏
PHR市場について語るWelby代表取締役比木武氏

―― 貴社の理念をお聞かせください。

 エンパワー・ザ・ペイシェント(Empower the Patients)、“患者に力を与える、患者を支援する“。現状は 患者さんにとっては“与えられる医療”だと思いますが、様々な疾患の治療分野において患者さんの自己管理をサポートし、医師と患者が共通の ターゲットである病気に対して手を取り合って共に治療していきましょう、というのが私たちの世界観です。

 自分の健康のことは自分で決めたいですよね。そのためには自らの健康、医療情報をきちんと管理しようということです。情報がなければ治療に関する判断はできません。今は、病院で測った自分の検診データも医師にお願いしないともらえなかったり、一定の時期が経つと消されてしまったりします。我々は、患者さんが情報を得て、自律的に判断するためのインフラを構築したいと考えエンパワー・ザ・ペイシェントを掲げています。

―― そういった理念をもとに展開されている事業を教えていだけますか?

 まずPHRに関する事業。医師にwelbyのアプリを患者さんに紹介してもらいます。患者さんは自らの意思でアプリストアからご自身のスマートフォンなどにダウンロードします。そして、患者さん自身がスマートフォンやタブレットなどでバイタルデータや食事、運動などを記録していきます。今では手入力だけではなくて、Bluetooth などの通信機能で血圧計や体組成計、血糖測定器などの測定機器からアプリに自動的にデータの取得・保存が可能で、こうしたデータは患者さんが連携を希望して登録した医療機関においても確認できます。医師が遠隔でデータを定期的にチェックし、遠隔でコミュニケーションができます。

 遠隔での確認が可能とはいえ、医師と患者は定期的に対面で話した方が良いと考えており、現在は患者が外来の際「ここ1ヶ月間どうでしたか?」と測定されたデータを医師と一緒に見て診療に活かすという形での利用がメインです。患者さん側に「医師に見られるから患者はサボれない、頑張ろう」という動機付けがなされ、治療継続につながっています。

PHRプラットフォームサービスを使う医師と患者のイメージ ※Welby会社説明資料より
PHRプラットフォームサービスを使う医師と患者のイメージ ※Welby会社説明資料より(図をクリックで拡大)

―― 患者さんは次回の通院時にチェックされるから「ちゃんとやろう」となるわけですね。

 PHRはデータ連携機能がありますので、病院の電子カルテや臨床検査の検査値データも含まれます。また、医師の方から患者さんにメッセージを送るなどのプッシュができるので再訪にもつなげられます。最も重要なことは患者の健康、医療に関するパーソナルデータが蓄積されること。過去に通っていたA 病院のデータと、現在通っているB病院のデータが一元管理できます。そうすることによって新しいC病院に行っても過去のデータを参照することが可能となり、より診断がスムーズにできるようになります。こういったPROを臨床現場で活用した研究がアメリカのがん関連の学会でも発表されるなど、 PHR が医師による診断の一助として活用されているわけです。

 この仕組みを市区町村の自治体単位で使おうという動きもあります。例えば、徳島県内では糖尿病治療での地域連携ツールとして導入が進んでいます。徳島県民にとっては、ツールを導入した病院、クリニックであればどこにかかってもデータが連携され一元管理されています。通常、病院ごとにデータをつなげることは結構なコストになってしまいますが、PHRを介してのデータ連携については、一般的な地域包括システムとは別のかたちで地域医療における一定の連携が期待できる仕組みだとして、高く評価されています。

―― 高齢者の方はアプリには抵抗はないのでしょうか?

「面倒くさい」と思われる方は年齢を問わずいますが、実はご年配の方のほうがアプリ継続率は高いです。医師の先生に言われたことを遵守しようという気持ちが、ご年配のかたの方が高いということだと思われます。

―― 貴社のビジネスモデルを教えてください。

 ビジネスモデルとしては主に二つあります。一つ目は医療機関から利用料をいただくモデル。医療機関数が増えれば収入も増えていきますし、連携できる医療機関が増えることでアプリを利用する患者さんも増えることが期待できます。もうひとつは製薬企業と連携したモデル。新薬などの発売にともない、製薬会社は医薬品の適正な使用や対象となる疾患に関する啓発を行う必要がありますが、そうした目的のためにPHRの活用は大変効果的です。そのため、製薬会社と連携して、患者や医療従事者の方々の意見もいただきながらアプリを開発しています。対象となる疾患の領域は、生活習慣病などの慢性疾患領域からがん全般(オンコロジー領域)、希少疾患などにまで広がってきています。

―― 外部にデータを提供する場合、個人に許諾を取っているわけですよね?

 学術目的などにより大学、大学病院、医療機関等に情報を提供する場合も、個別に同意を取ります。患者さんの同意を得ないかたちでの外部(第三者)提供は一切行っておらず、個人情報保護を含めた法令順守を徹底しております。

―― PHR 市場の中での貴社のポジショニングを教えてください

 広義のヘルスケアとして“健康”、“予防”、“医療”があり、その中で弊社は既往症の「治療」ドメインにフォーカスしています。健康層をターゲットにしたサービスは多くありますが、患者さん側の健康、医療情報に着目し、かつ治療を中心としたドメインで事業を推進する我々のポジショニングはヘルスケア領域においてもユニークである考えています。

―― 今後どういう風にPHR市場で成長されていこうという見通しは?

 三つあります。一つ目は、我々のサービスをより普及させることです、登録者が増え、定期的に使っていただいている率(アクティブ率)や利用継続率が高まることがPHRの価値を高めていくことだと考えており、そのために一層普及活動をしっかりやっていきたいと考えています。

 二つ目はPHRの対象とする疾患の領域を増やし、メニューも増やしていくこと。まだサービスの対象となっていない疾患領域は多く、カバーを広げることによりサービスを使うことができる患者さんを増やしていきたいと思います。

治療アプリとしての効果、エビデンス事例 ※経産省プロジェクト(2014年) 実施結果より
治療アプリとしての効果、エビデンス事例 ※経産省プロジェクト(2014年) 実施結果より(図をクリックで拡大)

 三つ目は、学会などにおけるエビデンスの蓄積を通して、科学的に治療効果が証明されたツールとしての地位を確立していくことです。たとえばこれは糖尿病の患者さんに対する研究で、我々のアプリを使っている患者さんについて、使っていない患者さんと比べて治療効果が統計的に有意に出たことを示したエビデンスです。アプリの利用により生活習慣が変化した、つまり行動変容したことがこうした治療結果をもたらしたと考えられます。こうしたエビデンスを今後も示し続けていくことが大切だと考えており、中長期的にしっかり取り組んでいこうと思っています。

―― ありがとうございました。