スタートアップ支援の制度や施設が充実していることで知られる福岡市で、さらなる起業家支援策として、今度はアクセラレータプログラム『Open Network Lab FUKUOKA』(以下、Onlab FUKUOKA)が開始されることになった。その活動の拠点となる「Fukuoka Growth Next」で5月31日、同施設のリニューアルのお披露目のイベントが行われた。挨拶に登壇した福岡市の高島宗一郎市長からはFukuoka Growth Nextを始めとする福岡市の新たな取組の紹介とともにOnlab FUKUOKAの開始がアナウンスされた。
福岡市は日本の他の都市と比べると開業率が高いことで知られている(2016 年度開業率 7.65%)。IT企業が首都圏一極集中を避けるため福岡に拠点を設けたり、職住接近の生活環境が若い世代にも支持されていたところに、官民挙げての起業支援体制が早くから充実していた。また行政サイドでも意識的に起業家を呼び込むPR活動などを熱心に行ってきたため、日本の中でいち早く“スタートアップ支援の街”の評価を得ることができた。
さらに2017年4月には福岡市の中心にある旧大名小学校跡地に残る校舎にシェアオフィス、コワーキングスペースや相談施設などを設けFukuoka Growth Nextとして活用を開始。市内の一等地を起業家支援のための施設とした。
こうした福岡市の一連のスタートアップ支援の第2幕といえるのが、今回の公表された取り組みだ。Fukuoka Growth Nextがある旧大名小学校跡地は、同市の中心地の再開発事業「天神ビックバン」の一環でホテルや公共施設の建設が始まっている。それに伴い旧校舎を活かした同施設でも建物内外のリニューアル工事を行い、利用者のリクエストに応じる形でより利用しやすい施設に改装をした。具体的には通りに面する塀や、1階の廊下と教室を隔てる壁を取り払い、開放的なスペースとしたこと。また、コワーキングスペースには作業に集中できるように、ここでは逆に間仕切りを設けた。
こうしてリニューアルされた施設は福岡市スタートアップ支援施設運営委員会(事務局長:内田雄一郎、以下:Fukuoka Growth Next)が運営を担い、「『将来のユニコーン企業』を生み出す!」をビジョンに掲げてリスタートをした。
またスタートアップエコシステムの拡大を図る上で欠かせないアクセラレータプログラムの充実も同時に図られることとなった。これまでも同施設では、常駐する職員などが、起業家へのメンタリングを行ってきたが、安定的にスタートアップを生み出すには来るもの拒まずの相談体制だけでは十分とは言えず、よりプログラム化された起業家輩出の仕組みが必要とされていた。株式会社デジタルガレージが運営する日本初のアクセラレータプログラムであるOnlabのプログラムは、このニーズと合致しており、今回の取り組みが始まることとなった。
Onlabの地域特化型の取り組みとしては、2018年4月より札幌において「Open Network Lab HOKKAIDO」が始まっており、こちらはすでに第1期のプログラムを終え、複数の起業家を生み出している。
福岡ではFukuoka Growth Nextに加え、福岡地域戦略推進協議会(会長:麻生 泰 以下、FDC)の協力を得てより裾野の広い取り組みとなる。実証実験の場としては、福岡市やFDCが推進する、東区の九州大学箱崎キャンパス跡地(約50ヘクタール)を中心とする「Fukuoka Smart EAST」があり、ここでスマートシティに実装されるさまざまなビジネスや技術の可能性が試される予定だ。
福岡経済圏はこれまで長きに渡って石炭、鉄、自動車などの産業で支えられてきた。今後は日本の中ではアジアの各都市との距離が最も近い地の利を活かしつつ、地域経済を支える新興企業群を生み出さなくてはならない。
スタートアップエコシステムを作り上げるには地の利、施設以外に何が必要なのか。いち早く、創業支援に手をつけた福岡の関係者の話には「エンジニアの育成」「投資家も若い世代が必要」「失敗しても良い。またチャレンジできる環境を整える」などこれまでの取り組みから見えてきた、より具体的な目標やアイデアがあった。
日本の中では比較的恵まれた起業家支援の土壌を持つ福岡。まずは、地元で。そして世界進出する福岡発のユニコーンがOnlab FUKUOKAから生まれるのはいつになるだろうか。