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問題続出でブーム去るも地方都市で着実に進化 シェア自転車に見る中国市場「懐の深さ」

上海市での風景

上海市での風景

 中国で大ブームを呼んだものの、その後、放置自転車の急増などが社会問題化し、失速していたシェア自転車が、地方都市を舞台に新たな進化を見せつつある。そこには、ある地域で失敗した商品やサービスも、その教訓を汲み取って改良し、再挑戦すれば十分に成長の余地が残されている中国市場の「懐の深さ」がある。

放置自転車の山が社会問題化

 北京、上海などの大都市を中心に、シェア自転車の爆発的なブームが到来したのは2017年初め。北京大学の学生らが14年に創業したofo(小黄車)と、翌15年、Uber上海の元経営者らが立ち上げたMOBIKE(モバイク=摩拝単車)の2社が牽引役となり、海外も含む多数の投資家から派手な資金調達合戦を展開、あっと言う間に街はカラフルな自転車で埋めつくされた。勢いに乗った上記2社は18年、相次いで日本にも進出した(両社ともすでに撤退)。

 中国版シェア自転車の最もユニークな点は、固定のステーションを持たず、事実上どこからでも乗れ、乗り捨て自由という点にあった。実は厳密に言えば「乗り捨て自由」ではなく、歩道上などに白線で区画された駐輪可能ゾーンに停めなければいけないのだが、そのルールは周知徹底されず、当初は当局の取締りも緩かったため、繁華街や地下鉄駅近くなどは放置自転車の山となり、市民の強い批判を浴びた。

 にもかかわらず潤沢な資金を背景に両社とも闇雲なシェア拡大に走り、採算性が不透明なまま数百万台単位の自転車を発注、過当競争と当局の取締り強化もあって稼働率は低下、経営が急速に悪化した。MOBIKEは18年4月、インターネット企業大手「美団点評」に身売り、創業者は経営から手を引いた。ofoは19年5月末現在、営業を続けてはいるが、メディアでは「破産寸前」と報道されている。

「自転車大国」の遺産、生かせず

 中国はかつて「自転車大国」で、街には当時の遺産が豊富にある。大半の道路に自転車専用レーンがあり、歩道上の至るところに駐輪可能区画が設けられている。加えてアリペイ(支付宝)やWeChatPay(微信支付)などのモバイルペイメントが事実上、全ての国民に日常的に使われている。このような条件は他の国にはない。

 そうした中国固有のインフラに、ビッグデータの活用で車両の適正配置を行うなどの工夫を加え、官民を挙げて着実に普及を図れば、利便性が高く、資源の有効活用が可能な都市交通の問題解決の切り札にもなりうる仕組みが誕生していたかもしれない。しかし現実には、投資マネーに依存した短期的な時価総額の増大を追求する経営によって、せっかくの有意義な事業が尻すぼみになってしまった。北京や上海のシェア自転車は今でも稼働しているし、私も利用するが、メンテナンス不足で汚れて乗る気にならない車両や故障車も多く、世間の期待はすっかり冷めてしまっている。

「シェア自転車第二世代」が登場

 しかし、ここへきて地方都市を中心に、特大都市での失敗経験に学び、地域社会と調和しつつ、着実な浸透を図る「シェア自転車第二世代」ともいうべき勢力が台頭、着実な成長を見せている。

泉州市で見た「第二世代」シェア自転車。電動アシストタイプになっている。

 地方都市は地下鉄があまり普及しておらず、タクシーのサービスや安全性にも問題が多く、公共交通機関の利便性が低い。市場規模こそ小さいが、シェア自転車の活用余地は大きい。また大都会に比べて道路や土地に余裕があるので、駐輪場所などの確保がしやすい。政府機関と企業の距離感も近いので、行政と一体となった事業を進めやすいといった強みがある。

 先行2社の経営に綻びが目立ち始めた18年春ごろから、中国で「2線都市」と呼ばれる各省の省都クラスの街や、さらに規模の小さい「三線都市」と呼ばれる各地の拠点都市で、さまざまな新しいシェア自転車のサービスが誕生しはじめた。こうした「第二世代」の最大の特徴は、「乗り捨て自由」の便利さと、「放置自転車の氾濫」の問題解決を両立させるべく、新たな工夫がされていることだ。

10センチ単位で自転車の位置を捕捉

  私は今年に入って、貴州省貴陽市、寧夏回族自治区銀川市、江蘇省揚州市、福建省厦門市、泉州市などの地方都市に行く機会があった。そこで実際に利用したり、観察したりした「第二世代」シェア自転車の仕組みは、だいたい以下のような感じだ。

 自転車の乗り出し時は、従来型と変わらない。自分の周囲で見つけた空き自転車の二次元バーコードをスマホでスキャンすれば開錠されるので、乗ればいい。違うのは返却時だ。

泉州市シェア自転車の利用パネル。アリペイやWeChatPayがあれば、専用アプリなしで利用できる。

 目的地に近づいたら、まずアプリの画面で返却可能区画がどこにあるかをチェックする。といっても、そのへんの歩道上に白線で仕切られた駐輪可能区画はたくさんあるので、すぐ見つかる。自転車を停めると、画面にその場所は駐輪可能区画内かどうか表示が出る。もし駐輪可能な場所であれば、自転車のカギをかければ返却手続きは終了。画面に利用料金や距離の明細が出て、自動的に決済される。もし駐輪可能区域でなければ、近くのどこに返却可能な場所があるか地図上に候補が出るので、そこに移動して停める。

 説明によれば、自転車が正確に歩道上の白線の枠内に停められているか、10センチ単位で感知できるという。もし駐輪可能区画から外れていると、自転車の返却手続きができない。そのまま課金状態が続くことになる。もし仮に駐輪可能でない場所で長期間放置された場合、料金の徴収だけでなく、個人の信用履歴にマイナス記録が残る。仮にそのような行為が繰り返された場合、各地方政府が運用している「市民個人信用情報システム」上に負の記録として記録されると発表している都市もある。ルール違反も気軽にはできない。

電動アシスト自転車が普及

 さらにもう一点、バージョンアップが見られるのが、自転車本体の品質が高まっていることだ。「第一世代」のシェア自転車は、車両のコストを極限まで下げ、一方で耐久性を高め、盗難の可能性を下げる(再生資源として使いにくい素材にする)などの観点から、さまざまな設計上の制約があり、自転車として乗りやすいものとはいえなかった。

 しかし「第二世代」は、「第一世代」が一都市で時には100~200万台単位で投入されたのに比べ、一都市あたり数万台から多くても10数万台と数が少なく、管理の手が届きやすい。また当初から地元政府の協力を得て、利用者の実名認証を徹底、上述した信用情報管理システムなどとの連携で不正使用の予防措置を強化するなど、自転車本体の高品質化がやりやすくなった。

 バージョンアップの代表的なものが、電動アシスト自転車(電動助力自行車)の増加だ。北京や上海の街はほとんど平地だが、地方都市は山間部の場合も多い。平均利用距離も大都市より長いので、電動アシスト自転車の利用価値は大きい。仕様は日本とほぼ同様だが、違いは、中国の電動アシスト自転車はアシスト機能に加え、オートバイと同様、右グリップがスロットルになっていて、電動だけでも走れる点だ。ただし最高速度は時速20㎞に制限されている。

揚州市に並ぶ「第二世代」シェア自転車。駐輪スペースの整備も進んでいる

 利用料金は地域差があるが、地方都市では30分で2元程度(1元は約16円)。普通の自転車の2倍程度になる。私は揚州市と泉州市でこの種の自転車を利用したが、多少の山道や橋などのスロープでもスイスイ走れ、気持ちがよかった。泉州市ではバッテリー残量が50%を切ると、メンテナンス部隊がそれを感知し、バッテリーの交換に赴くという。こうしたキメ細かい対応ができるところが地方都市の強みだ。

 また市内の至るところに駐輪可能区画が有り、最大でも100mも歩けば空き自転車が見つかるし、返却時も目的地の近くに例外なく停められる(返却できる)場所があった。上海のように壊れた自転車があちこちに放置されているようなこともなく、年齢、性別を問わず、普通の人たちが利用しているのが印象的だった。

 「懐が深い」中国

 こうした中国版シェア自転車の盛衰を見ていると、改めて中国という国の大きさ、広さを感じる。海外からはどうしても北京や上海、深圳といった特大都市の動きに目が向きがちだが、こうした特大都市の人口は全てあわせても数千万人。中国はその20倍もの人口を抱え、その多くは地方都市や農村部にいる。

 これら地方基盤の投資家や企業家たちは、特大都市の動きを注視し、虎視眈々と事業機会を狙っている。政府や役人との距離感も大都市とは違う。こうした二枚腰、三枚腰のしぶとさが中国の真骨頂だろう。私は北京や上海でのシェア自転車の惨憺たるありさまを見て、かなり強い失望感を抱いていたのだが、地方都市での最近のサービスの充実ぶりを見て、自らの考えが狭かったことを反省した。

 中国の市場は広く、深い。長い時間軸、広い視野でものごとを見ないと情勢判断を誤る。問題は山のように発生するが、いつの間にかそれはあらかた解決していて、次のフェイズに進んでいる。中国ではそういうことがたくさんあって、油断がならない。

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