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“情報通信の民主化”を促す「地域限定5G」とは

地域限定5Gについて対談

地域限定5Gについて対談

 2019年6月12日から14日まで、幕張メッセ(千葉県千葉市)において「Interop Tokyo 2019」が開幕された。今回はセキュリティ、IoT、SDI、AIなどが主要テーマとして扱われおり、基調講演ではNTTドコモの中村武宏氏が『5Gのリアルと未来』と題した講演をおこなった。また、世界に先駆けて5G商用サービスを開始したベライゾンのヘレン・ウォン氏による『5G時代に備え、企業ネットワークに必要とされること』など、5Gに関する講演はいずれも早々に「満席」となっていた。

2019年6月12日から14日まで、幕張メッセ(千葉県千葉市)において開催された「Interop Tokyo 2019」

 その他にも5G関連のセッションでは、慶應義塾大学 環境情報学部 教授の中村修氏と、第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)・ネットワーク委員会委員長の中尾彰宏氏(東京大学大学院 情報学環 教授)による“地域限定5G”をテーマにした対談が行われた。

 “地域限定5G”とはどんなものか。5Gでは、通信事業者による全国規模のサービス提供だけでなく、一般企業や自治体などが、限られたエリア内で5Gネットワークを“自前”で構築できる「ローカル5G」制度が導入されることが決まっている。

 ローカル5Gには、通信事業者4社(NTTドコモ、KDDI/沖縄セルラー電話、ソフトバンク、楽天モバイル)に割り当てられた周波数帯域(3.7/4.5GHz帯、28GHz帯)のうち、4.5GHz帯に200MHz幅、28GHz帯に900MHz幅が割り当てられる計画となっている。このうち28GHz帯の一部(100MHz幅)が2019年後半から先行利用される予定だ。

 中村氏と中尾氏の対談は、このローカル5Gに寄せる期待と課題がテーマだ。

“情報通信の民主化”の足がかり

 高速大容量、大量接続、低遅延の特徴を持つ5Gは、インターネットの世界全体に新たなイノベーションを起こす可能性があるが、限られた通信事業者だけがサービスを提供している世界では、イノベーションが阻害される可能性を中村氏が指摘した。

「僕らがインターネットを始めた最初の頃、(国内の)通信事業はNTTが担っていて、国際通信はKDDが担っていました。そうした中でインターネットをどう構築していくかを僕らはやってきたわけですが、おそらく今はこれと同じことに挑むフェイズが来ている。すなわち、移動通信って、NTTドコモさんやKDDIさんらが、自分たちが担うと考えていると思うんですね。でも僕はそれじゃダメだと思うのです。だって、何かしようとしたときに、毎回通信事業者さんに『これやっていいですか?』『この機材を御社の基地局に置いていいですか?』とお伺いを立てているようではイノベーションなんて起きないでしょう」(中村氏)

セッションに登壇した中村氏

 こうした状況を変える可能性を持つのがローカル5Gだ。ローカル5G制度ではライセンスを取得すれば、通信事業者以外の企業や団体も、自分たちの敷地内で5Gネットワークを自由に構築できるようになる。

 ただし、ローカル5Gにもいくつか懸念点がある。まず「ライセンスの取得」について中村氏は、地域WiMAX(※1)の免許を取得し、神奈川県藤沢市で通信事業に携わった経験から、「免許の取得が非常に面倒だった」「ローカル5Gでは、無駄な書類をたくさん書かなくてもすむような、時代に合った使いやすい免許制度を望む」と述べた。

 2つめの懸念点が「SIM」の問題だ。例えば、中村氏が慶應大学内でローカル5Gを活用して独自のネットワークを構築しようとすると、自分たちで認証用SIMを作らなければならなくなり、大きなコストがかかるという。

 また中尾氏は、自身のラボでプライベートLTE(※2)を構築し、SIMを発行した経験から、「電波が届かない圏外に出たときにみんな困る。いちいちSIMを入れ替えるのも大変です」と問題点をあげ、プライベートネットワークの圏外に出たときに自動的に通信事業者の全国ネットワークとつながる仕組みが必要だと課題をあげた。

セッションに登壇した中尾氏

 こうした問題を解決するために、中尾氏の研究室では、株式会社インターネットイニシアティブと共同で、一枚のSIMで、プライベートLTEとパブリックLTEをシームレスに行き来できる技術の実証実験を始めたという。

「今回はLTEでの技術開発ですが、(将来的には)同じ仕組みがローカル5Gでも使えるようになる。今後、皆さんがローカル5Gを工場内や敷地内に整備した際に、外でも(同じSIMを)活用できるようになると思います」(中尾氏)

 両氏は、情報通信の基幹サービスに多様な主体が携わることを「情報通信の民主化」と表現した。ローカル5Gはこれを具現化するための重要な足がかりになる。また中村氏は、5Gによるさらなるイノベーションを起こすためには、インターネット黎明期のような、誰もが参加できる環境と民主的なコミュニティが欠かせないとして、「通信事業者も一緒になって新しい世界をスタートできれば」と希望を述べ、対談を締めくくった。

※ ※ ※

 展示会場に目を向けると、NEC(日本電気)や富士通グループのブースでもローカル5Gの展示が設けられていた。両社とも、それほど広いスペースではないものの、ローカル5Gを活用したい企業や自治体にアピールする考えはあるようだ。

 NECの担当者によると、すでに製造業や鉄道会社などさまざまな業種から問い合わせがあり、今年後半から始まるローカル5Gの先行利用についても、いくつかの企業と具体的に話が進められているという。徐々にではあるが、「情報通信の民主化」に向けての取り組みは進んでいるようだ。

※1 地域WiMAX 情報通信の地域間格差や地域の活性化などのために、2008年より導入された電気通信業務の無線システム。2.5GHz帯の周波数(2,575〜2,595MHz)の電波を利用するもので、免許を取得した市町村や地域事業者などに利用されている。

※2 プライベートLTE 企業や研究機関などが、自ら無線基地局やネットワーク設備を構築し運用する自社専用のLTE無線ネットワーク。

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