経済産業省が今年の5月に発表した調査結果によると、平成30年度の物販分野でのB to C国内電子市場取引市場規模は約9.3兆円で、前年度比8.12%の伸びとなっている。それでも市場全体に対するEC化率はまだ6.22%にすぎず、今後この分野は一層の拡大が予想される。拡大するEC市場に参入するのは大企業ばかりではない。中小の業者や対面販売に見切りをつけた個人商店などが次々とEC事業を始めている。しかし、多くはそこでこれまで関与してこなかった「物流」という課題に直面する。EC通販では在庫を適正に管理し販売するだけでなく、それを約束の期限までに顧客に届けなくてはならない。中小のEC事業者にとっては、こうした出庫管理、発送業務にかかるコストが大きな負担となる。
在庫管理をスマホアプリで
こうした中小のEC事業者の向けのソリューションとして、株式会社ニューレボ(東京都港区)は、2018年11月に、無料で使える在庫管理ソフト「ロジクラ」をリリースした(有料版はそれに先立ち同年2月にリリース)。
これまでの在庫管理システムは、専用のハンディターミナルでバーコードなどの管理タグを読み込んでいた。それをロジクラではスマートフォンのアプリを使い読み込むようにしたため、導入時のコストを大きく削減することが出来た。さらにはスマホで管理すれば、ハンディターミナルではできなかった商品画像表示も可能となり、在庫商品の検索がしやすくなるなどのメリットがある。
ロジクラの無料版は「入荷管理」「出荷管理」「在庫管理」という基本機能をカバーしており、これだけでかなりの業務をまかなえる。有料のスタンダードプラン(月15,000円)では「棚卸し」「スマホ検品」「送り状作成」「納品書の作成」が追加されるので、在庫管理はほとんど同アプリ上で可能になるということだ。
他社からもスマホアプリで在庫管理を行うサービスがリリースされているが、ロジクラの強みは無料版・有料のスタンダード版でもカバーする機能が豊富なことだ。このロジクラを開発したニューレボは2016年に設立されたスタートアップ企業だ。ロジクラが誕生し現在のように軌道に乗るまでには紆余曲折があった。その経緯や同社の今後について代表取締役の長浜佑樹氏に話を聞いた。
高校時代のアルバイトが原点
長浜氏は現在27歳。高校生の時から物流関係企業のアルバイトで倉庫作業に従事していた。「物流現場の非効率な部分をずっと見てきて、これは何とかならないのかなと思っていました」(長浜氏)
その後、大学時代は何度かアメリカに滞在し、現地の流通業、小売り、スタートアップなどを見てまわったことが、その後につながっている。大学卒業後は就職せずに、2016年に地元福岡で株式会社ニューレボを立ち上げた。
まず初めに「FASTMART」というアプリを作った。それでどのようなビジネスを始めたのかというと「ウーバー(Uber)のドラッグストア版みたいなものでした」(長浜氏)
ドラッグストアでの買い物代行を行うサービスだったが、長浜氏は2カ月で断念する。「ひとつはこの事業をスケール(規模拡大)させるにはものすごくお金がかかるなと感じたことです。もうひとつは『ものを売る』つまり流通の裏には物流があること。物流を知らないでものを売れないなと感じたことです」(長浜氏)
起業と前後して長浜氏は、スタートアップ向けのインキュベーションプログラムに参加しようと、デジタルガレージの「Open Network Lab」に応募を繰り返していた。3度の落選の後、ようやく4度目にしてプログラムに採択されたのは、すでに起業した後の2017年。だが、これが事業内容を再検討するのにちょうどよい機会となった。改めてかつての流通現場での経験に立ち戻った長浜氏は、自身の想定する新しいビジネスモデルを検証すべく、多くのヒアリングを重ねた。そうしてようやく顧客の課題の本質を捉え、課題にストレートに刺さるサービスへとプロダクトを作り直した。
「これからEC事業者さんも増えていくでしょう。でもやっぱり在庫管理で悩むのだろうな、じゃやっぱり在庫管理の悩みを解決するプロダクトを作りたいというのが方針転換のきっかけです」(長浜氏)。
ロジクラは限定機能による無料版サービスの提供でユーザーを取り込み、提供する機能を広げた有料版サービスに乗り換えを促す、フリーミアムのモデルである。「小さな事業者さんはまず使ってみてからという姿勢です。そういうニーズを取り込んでいこうと考えました」(長浜氏)現在6,000社の利用があり、今後はこれらの有料化を促進していきたいとのことだ。
在庫管理のシステムを提供することによって、EC事業者が抱える過剰在庫の問題も見えてきた。同社は今後、この過剰在庫に悩む企業に向けてのサービス展開を考えている。「過剰在庫を流動化し、現金化できるサービスがあれば、企業はほんとうに助かるのではないでしょうか」たとえばアパレル企業では、売れ残った在庫を二束三文で手放しているという。「2020年中には在庫をスピーディーに売りさばくことができるBtoBマーケットプレイスを展開したいと考えています」
起業してからわずか数年の間に、当初想定した事業から転進し、それを軌道にのせつつ、次なる構想を実現すべく素早く動き出す。。このスピード感はスタートアップならではのものだ。