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家畜の遺伝子編集、前途有望な技術に大きな落とし穴

遺伝子編集技術を用いた個体から生まれた牛と対象グループの角のある牛。米カリフォルニア大学デービス校で(2019年9月4日撮影)。(c)Juliette MICHEL / AFP

遺伝子編集技術を用いた個体から生まれた牛と対象グループの角のある牛。米カリフォルニア大学デービス校で(2019年9月4日撮影)。(c)Juliette MICHEL / AFP

【AFP=時事】最新の遺伝子編集技術を用いて角のない乳牛や去勢された状態で生まれる子豚などの開発──農場主や牧場主にとって歓迎され得る成果──に成功したとしても、遺伝子編集された家畜を飼育小屋から食卓へと運ぶにはまだ多くの困難が残っている。

 動物遺伝学者のアリソン・バン・エネナーム(Alison Van Eenennaam)氏率いる米カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)の研究チームは、角のない畜牛の難題に取り組んでいる。

 農場主や牧場主は、家畜の牛が仲間を角で突いたり飼育担当者を傷つけたりするのを防ぐために角を除去する。これは牛にとっては苦痛を伴うプロセスだ。

 だが、アンガスなどの特定の肉牛種には生まれつき角がない。この角のない状態に関与する遺伝子が科学者らによって特定されるとすぐ、生物工学の専門家チームは米ミネソタ州に本拠を置く遺伝子企業リコンビネティクス(Recombinetics)と協力し、代表的な乳牛種ホルスタインから採取した細胞に遺伝子改変技術を用いてDNA改変の作業を行った。

 遺伝子改変技術としては「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれる「はさみ」が有名だが、リコンビネティクスは「TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)」と呼ばれるツールを用いた。そして2015年、角のない雄牛の「スポティジー」と「ブリ」が誕生した。

 ブリは最終的に6頭の子牛を残した。6頭はすべてデービス校の研究農場で飼育された。

 こうした家畜の肉が、人よる消費に適しているのかを確認するためバン・エネナーム氏は、米食品医薬品局(FDA)に意見を求めた。するとFDAの科学者チームは、遺伝子編集で生まれた雄牛のゲノム(全遺伝情報)に関する公開データを用いた関連プロジェクトの作業中に、予想外の遺伝子改変をほぼ偶然に発見した。

■驚きの発見

 FDAが見つけたのは、対象遺伝子を改変するために用いるDNA断片のプラスミド配列だった。本来であれば見つかるはずのないプラスミドが牛のDNAの中に存在していたのだ。

 異質の断片がDNAに組み込まれていたという事実は、必ずしも家畜や消費者にとって危険だというわけではないと、FDAは指摘する。

 だが、FDAの動物生体工学・細胞療法部門を統括するヘザー・ロンバルディ(Heather Lombardi)氏は「目的外の改変が行われるならば、それは食物の組成に影響するだろうか」と問いかけた。「アレルギー誘発性や有毒性のようなものに何らかの影響が及ぶだろうか」

 いずれにしても、遺伝子編集技術の推進派が厳格な監視の緩和を強く求めている現状にあって、今回の発見は家畜に対する遺伝子編集ツール使用の厳重な監視体制を維持することの重要性を浮き彫りにしていると、FDAは説明している。

■性決定遺伝子

 予想外の遺伝物質の発見を受け、バン・エネナーム氏は遺伝子編集された雄牛5頭の殺処分と焼却を指示した。牛を生かしておくことによるリスクが高すぎると判断したのだった。雌の1頭も、出産後に分析対象となる乳を出すようになったらすぐに安楽死と焼却処分の措置が取られる予定だという。

 それでもバン・エネナーム氏によると、遺伝子編集には多くの有望な応用分野があるという。例えば、温暖化が進む世界で重宝されるであろう暑さに強い家畜や、中国の畜産業に壊滅的な打撃を与えているアフリカ豚コレラに耐性を示す豚などの開発だ

。  同氏は現在、雌形質の発現を阻害するSRY遺伝子の利用に関する実験を進めている。完全に雄だけの群れを作り出すことを目指しているのだ。

 何度か失敗したが、今年6月には「キャリア(保因)」牛の受精に成功した。2020年3月に特定の遺伝子を持った個体が誕生する予定だという。

 この研究における目標は、より多くの肉が期待できる雄のみの肉牛群や雌だけの乳牛群、さらには雌だけの鶏群などを育成できるようにすることにある。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件