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コロナ追跡アプリ、公衆衛生と個人情報保護めぐりせめぎ合い

仏政府の支援で開発された新型コロナウイルス感染者の接触者追跡アプリ「StopCovid」を映し出す携帯電話。仏パリで(2020年5月27日撮影)。(c)Thomas SAMSON / AFP

仏政府の支援で開発された新型コロナウイルス感染者の接触者追跡アプリ「StopCovid」を映し出す携帯電話。仏パリで(2020年5月27日撮影)。(c)Thomas SAMSON / AFP

【AFP=時事】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として濃厚接触者追跡アプリの導入を検討する政府が増える中、公衆衛生上のデータを収集する必要性と個人情報の権利をめぐるせめぎ合いがにわかに注目を集めている。

 濃厚接触者の追跡システムの技術は、経済活動の再開や自宅待機からの解放につながり、保健当局にとってはウイルス拡散の監視を可能にする打開策になるとうたわれている。だが、政府や企業が感染拡大の抑制という名目で収集した個人情報が、政治的・商業的な利益追求や専制国家の抑圧に悪用されるのではないかと懸念する声も多い。

 イスラエルの歴史学者ユバル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)氏は、新型コロナウイルス流行の最盛期に英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)に寄稿し、「細心の注意を払わなければ、今回の流行が監視の歴史における重要な分岐点となる可能性がある」と記している。

 公衆衛生当局にとっては技術の急速な向上が願ってもない支援となる可能性がある一方、「マイナス面は、言うまでもなく、これが新たな恐ろしい監視制度に正当性を与えてしまうことだ」と、ハラリ氏は主張する。

 世界中の死者が40万人を超えた(6月10日現在)新型ウイルスの大流行に最初に見舞われたアジアの国々は、追跡アプリを率先して利用し始めたが、ユーザー本人の意思とは関係なく導入されるケースが多かった。

 感染者が最初に確認された中国で公開された複数のアプリでは、携帯電話ネットワークを介したジオロケーション(ユーザーの位置追跡)技術や、鉄道と航空路による移動や高速道路などの検問所で収集されたデータなどが使用されている。

 アプリの使用は組織的かつ強制的に行われ、中国政府がロックダウン(都市封鎖)を解除して感染拡大を食い止めることができたのも、こうしたアプリの貢献が大きいと評価されている。

■政府や企業が「国民の意識を操作」するようになる

 韓国は、感染者が訪れた場所を知らせる警報を携帯電話で広範囲に発信するとともに、隔離された人全員に追跡アプリをインストールするよう命じた。個人情報保護法の施行が延期されたタイでは、市民が店舗や飲食店に出入りする際にバーコードをスキャンするアプリが導入されている。

 こうした動きに対し、タイ・ナレースワン大学(Naresuan University)の政治学者ポール・チャンバース(Paul Chambers)氏はAFPの取材に、「新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)は、権力を長期にわたって強化・維持しようとするアジアの国々の政府にとって好都合な論理的根拠を提供している」と指摘する。

 同様の議論は欧米でも起こっている。

 専門家らが指摘するように、追跡調査アプリが効果を発揮するには全住民の6割以上が使用する必要があることを考えると、国民の信頼が重要になる。

 北大西洋条約機構(NATO)の元医療アドバイザーで疫学者のバンジャマン・ケリオー(Benjamin Queyriaux)氏は、「最新技術には効果があるかと言えば、確かにそうだ。危険なものかと言えば、それもまた確かだ」と述べている。

 欧州委員会(EC)は、接触追跡アプリを通じて収集されたデータについて、暗号化を必須として一極集中型データベースへの保存を禁止するとしている。

 フランスは、米グーグル(Google)と米アップル(Apple)が共同で提供する追跡技術を採用しない方針を示しているが、同国のデータ保護機関「情報処理・自由全国委員会(CNIL)」は、政府の支援を受けて開発され、任意でダウンロードできるアプリを承認している。

 イスラエルの歴史学者ハラリ氏は、「政府や企業がこぞって国民の生体認証データを収集するようになれば、国民が自分の個人情報を自分で知るより、はるかに多くのことを企業や政府が把握する可能性がある」と警告。その結果、政府や企業は「国民の意識を予測するだけでなく操作し、製品にせよ政治家にせよ、自分たちが望むあらゆるものを国民に受け入れさせる」ことが可能になると同氏は述べている。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件