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米国の大学では実用化 アバターを使ってオンライン授業に積極参加

ダベンポート大学のバーチャル校舎内の風景(ダベンポート大学提供)

ダベンポート大学のバーチャル校舎内の風景(ダベンポート大学提供)

 9月入学のアメリカでは長い夏休みを終えて入学シーズンを迎えている。未だ新型コロナウイルス感染の収束の兆しが見えない状況で、大学側はキャンパスでの授業の再開かリモート授業の継続かの決断を迫られている。そんな中、バーチャル(仮想空間)で自身の分身である「アバター」を使っての新しい大学生活に今注目が集まっている。

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ニューヨークにあるコロンビア大学もリモート授業に切り替え、キャンパスの人影はまばらだ(撮影/新垣謙太郎=9月4日 ニューヨーク市)
ニューヨークにあるコロンビア大学もリモート授業に切り替え、キャンパスの人影はまばらだ(撮影/新垣謙太郎=9月4日 ニューヨーク市)

 例年ならこの季節、“フレッシュマン”と呼ばれる大学1年生が、期待に胸を膨らませ大きな荷物を大学寮に運び込む姿が見られるが、今年はコロナ禍で大学のキャンパス周辺も閑散とした景色が広がっている。

 8月に行われた米大学の調査によると、対象となった全米大学約3000校のうち、33%が「完全にリモート、もしくはリモート中心の授業」、約20%が「完全に対面、もしくは対面中心の授業」、16%が「リモートと対面授業のハイブリッド」、そして残り30%が「その他、もしくはまだ決定していない」という結果が出た。

 しかし、これから本格的に学校が始動するにつれ、リモート授業に切り替える大学が増加することが予想される。こうした状況下で、オンライン授業も進化している。そのひとつが「アバター」の利用だ。

バーチャル・キャンパスを導入する

 「(アバターを使うことにより)人々は自分たちの一体感を感じることが出来て、同じスペースを共有しているという感覚が得られる」

ダベンポート大学のウィガーマン氏(左上)とミラー氏(下)
ダベンポート大学のウィガーマン氏(左上)とミラー氏(下)

 そう説明するのは、米中西部ミシガン州にあるダベンポート大学のグローバルキャンパス学部長、ブライアン・ミラー氏である。

 同大学では2年ほど前からバーチャル・キャンパスの導入に取り組んで来た。さらに、米国でコロナ感染が拡大した今年の春頃から、アバターを使用した授業も本格的に開始している。バーチャル・キャンパス内には授業を受けるクラスルーム以外にも、図書館や勉強室、学生サービスセンターなどが設置され、廊下に設けられたラウンジで他の生徒との交流も出来る。一見したところ、一昔前のテレビゲームのようであるが、キャンパス内を自由に歩き回ることができ、音声機能を使って他の生徒や教授のアバターと直接会話をしたり、授業中に手を挙げたり、クラスの前でプレゼンテーションなどもできる。

 コロナ禍を受けて、日本でも多くの大学がリモート授業に切り替えているが、学生からは「資料の配布だけで、授業を受ける意義を感じない」「長時間Zoomなどのオンライン会議ツールで受講するのはつらい」などの不満が聞かれる。一方、アバターを利用した授業では「生徒たちは(リモート)授業をゲーム感覚で楽しんで、積極的に参加する様になった」とテクノロジー部署を担当するジェフ・ウィガーマン氏は語る。

アバターの作成画面(VirBELA提供)
アバターの作成画面(VirBELA提供)

 現在ダベンポート大学では保健医療学部を中心に、約15クラスでアバターを取り入れた授業が行われている。各クラスには10〜18人ほどの生徒が参加し、それに教授や助手などを加えて、20人までのアバターが登録できるシステムになっている。自分の好みに合わせてアバターの髪型や服装、そして肌の色などを自由に選ぶことができ、毎回違ったアバターで授業に参加する生徒もいるという。Googleドライブなどを併用したプレゼンテーションも可能で、授業では講師による講義以外にも、生徒同士のディスカッションも盛んだ。更に、生徒はスマートフォンからもアクセス出来るという。

 「Zoomなどを使った授業は受け身であるのに対して、(アバターを用いた)バーチャル世界を取り入れることにより、生徒が能動的に学べる機会が生まれた」とウィガーマン氏はそのメリットを説明する。同大学はアバターを用いた授業を今後さらに増やしていく予定だという。

コロナ禍でアバター需要が急増

 アバターを取り入れる大学は全米でもまだ限定されているが、その用途は徐々に拡大しているという。授業以外にも、大学でのキャリア・フォーラムなどの学生向けイベント、新入生のオリエンテーション、また1000人以上が参加する学術会議などにもアバターが使用されている。

VirBELAを使ったコンフェレンスの風景(VirBELA提供)
VirBELAを使ったコンフェレンスの風景(VirBELA提供)

 アバターを利用するためのソフトウェアを開発したのは、カリフォルニア州を拠点とするIT企業VirBELA(ヴァーベラ)である。同社のバーチャル・プラットフォームは大学などの教育機関以外に、企業の会議用や大型イベントなどでも使用され、4月からの3ヶ月間で、第1四半期と比べ売上を260%伸ばしている。今年初めには20人だったスタッフが、半年で100人以上に急成長し、今注目が集まっている。

 同社のチーフ・カスタマー・オフィサーであるクレーグ・カプラン氏によると、同時期における新規ユーザーは6倍に増え、コロナ禍でリモート授業や勤務を余儀なくされた人々はアバターを使用して、ビデオ会議ツールでは得られない「より自然な」他人との会話や交流を求めているという。

 同社のソフトウェアは基本料金月々100ドル(約1万円)で10〜100人、月々2,500ドル(約26万円)で100〜25,000人が利用出来るものまであるが、更に料金を支払えば追加機能やサービスも受けることが出来る。また利用者の要望に答えて、新しいアバターの機能、英語以外の言語なども追加が可能だ。今後は小中高校における利用の拡大も目指していくとカプラン氏は語る。

 「(コロナ禍で)これまでの世界はガラッと変わってしまったが、少しでも生徒たちがこれまでの日常生活の感覚を取り戻せるようにVirBELAを利用してほしい」(カプラン氏)

アバター授業における課題と対策

 ダベンポート大学では9月8日から新学年が始まるが、現段階では全生徒の60%がリモート授業を、残りの40%がキャンパスにおいて対面授業を予定しているという。しかし、州内におけるコロナ感染の状況によっては、対面授業をさらに減らしてリモート授業に切り替えたり、対面とリモートを組み合わせたハイブリッド型のクラスを増すなど、柔軟な対応が必要と前述のミラー氏は語る。

 日本の大学においても、リモート授業への取り組みがはきな課題であるが、今後アバター授業の取り入れを考えている大学は、以下の2点に特に注意すべきだと同氏はアドバイスを送る。

 1つ目は、アバター授業を開始する前に準備時間を設け、利用する生徒に十分なトレーニングを施すこと。同大学では1回目のクラスではソフトのダウンロードと設定を生徒と一緒に行い、アバターなどの利用に関するトレーニングを行っている。2回目のクラスではバーチャル・キャンパス内で、他の生徒と一緒に「宝探し」などのゲームを行って、このプラットフォームに慣れてもらう。そしてようやく3回目のクラスで、実際の授業内容に入っていくという方法を取っている。

 2つ目は、長時間に渡る一方的な講義を避けること。例えば授業が3時間であるならば、講師は3時間しゃべり続けることせずに、短い講義の後に生徒を小さなグループに分けてお互いにディベートをさせたり、チーム・プロジェクトに取り組ませたりするなど、リモート授業でも生徒を飽きさせない工夫が必要だと指摘する。アバターの特徴として、教室内や構内を自由に移動が出来、生徒同士で会話が出来るなど、その最大の利点は「インターラクティビティー(双方向性)」にあるとミラー氏は強調する。

 リモート授業は、コロナ禍終息後でも何らからの形で継続されて行くことは間違いないだろう。今ある危機を最大の機会と捉え、様々な「未来の学び方」に取り組んで行く大学だけが生き残る時代が来るかも知れない。

ダベンポート大学サイト(動画)

新垣謙太郎 Written by
ニューヨーク在住フリージャーナリスト。米首都ワシントンのアメリカン大学国際関係学科を卒業後、現地NGOジャーナリスト国際センター(ICFJ)に勤務。その後TBSニューヨーク支局での報道ディレクターの経験を経て、現在フリージャーナリストとして日本とアメリカで活動中。東京都出身。