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原則定額、オンラインで指導 歯の矯正「Oh my teeth」は歯科業界に改革を起こすのか

西野誠氏と3D歯型スキャナー

西野誠氏と3D歯型スキャナー

 自分の歯並びや噛み合わせを矯正するためには、矯正歯科に一定期間通う必要がある。一般的には公的医療保険の対象にはならず、自費での支払いが求められる。また、その価格は高額で、場合によっては100万円を超えることもある。さらにその価格は矯正歯科の医師ごとにまちまちで、患者の多くには“もやもや”があったのではないか。また長期の通院が必要なため、仕事などが忙しくなり「続けられない」と挫折する人も少なくない。ウイズ・コロナ時代には、通院自体をリスクと考える人も少なくないだろう。つまり、歯の矯正の必要性を感じても、実現するには高いハードルがあった。

 そんな矯正歯科の業界に改革の風を吹かせようとしているのが、マウスピースを使った歯科矯正のD2C(※)サービス「Oh my teeth」(オー・マイ・ティース)を展開する株式会社Oh my teethだ。

※Direct to Consumer : 製造元が消費者に直接商品を販売する仕組み

通院は原則1回

自宅に郵送されてくる矯正用のマウスピース
自宅に郵送されてくる矯正用のマウスピース

 Oh my teethでは、最初に歯型の3Dスキャンを行う。スキャンしたデータをドクターが解析し、さらに本人の悩みや希望を聞き取り、どのように歯を動かし矯正していくのかのプランを提案する。ここまではすべて無料となっている。プランに納得し契約を結ぶと、複数の矯正用マウスピースが郵送で自宅に届く。そこから先は自宅でマウスピースを使い、オンラインでコーチからアドバイスを受けながら矯正を進めるシステムとなっている。

 2020年10月末東京・表参道にあるOh my teethで、代表取締役CEO 西野誠氏に起業に至った理由や同社のユニークな取組みについての話を聞いた。

 西野氏はかつて大規模基幹システムの開発業務にエンジニアとして働いており、歯科業界の「外の人」であった。当時、自身も歯の悩みを抱え、さまざまな歯科にかかったものの、納得できないことが続いた。

東京・表参道のOh my teeth店舗
東京・表参道のOh my teeth店舗

 もうひとりの共同創業者の妻が、たまたま矯正専門の歯科衛生士で、業界の課題については詳しく知ることができた。また、歯の矯正を希望する人は多いものの、実際に歯科矯正をするのは費用や時間の面などであまりにハードルが高いという所にヒントを得て、これらを解消する事業アイデアを練ることにした。

 まず手始めに西野氏が歯の矯正経験者にヒアリングを行うと、「たいへんだった」という声ばかり集まったという。具体的には「初診料が高い」「通院が必要」さらに、「通院のたびに費用がかかり、いったいトータルでいくらかかるのかわからない」という不安の声が多かった。

こだわった「追加費用なし」

 Oh my teethで歯を矯正する場合、費用は30万円(一括払い/税別/Basicプラン※)であり、原則それ以上の費用がかかることはない。

「他の業界を見渡すとオープンプライスが当たり前。そして相見積もりを取るのも当たり前。お客様に料金を明瞭に示したいですよね。こういう世界観が歯科業界にはなかった。だから“追加費用なし”にこだわったのです」(西野氏)

※Basicプランは前歯に特化した部分矯正で、期間は3~6ヶ月を見込む。奥歯から治す全体矯正であるProプラン(一括/税別)があるが、西野氏によればOh my teeth希望ユーザーの大部分はBasicプランを利用しているとのこと。また分割払いも可能だ

 この価格設定は、従来の矯正歯科の価格帯を知る人には驚きだろう。西野氏によると100万円、場合によっては150万円という価格も珍しくないとのこと。

「多くの(矯正歯科の)医師に金額の根拠を聞きましたが、誰も明確に答えられなかったのです。もっとオンラインでやればコスト圧縮できると考えました」(西野氏)

 そこで、追加費用を請求することなく、オンライン(主にLINEを使い、希望者にはZoomなどでの面談や対面での診断も行う)で矯正の進捗を把握していくシステムを組み上げるに至った。

AI活用でさらに効率的に

開発中のAlignX(アライン・X)
開発中のAlignX(アライン・X)

 現在、同社が進めているのが、AI(人工知能)によるマウスピース矯正シミュレーションソフト「AlignX」の開発だ。これはスキャンした歯型のデータなどから得られた、歯並びや歯の移動シミュレーションデータをAIに学習させるもので、現在すでにα版ができている。これが完成すれば、歯科矯正の設計図である「矯正シミュレーション」の作業品質や制作コストとスピードを大きく改善できるという。

 品質面で言えば、医師個人の経験値に頼ったものより、多くのデータから導き出した矯正シミュレーションの方が、より正確に歯の動かし方を計画・決定できるようになる。コストとスピード面で言えば、人手でやっていたアナログなシミュレーション作業が、試算では3分の1程度に圧縮が可能だという。

 そして、ゆくゆくはこのソフトウェアを同社のもうひとつの事業の柱にする予定だ。しかし、西野氏は自らの事業の成功だけを見ているのではなく、歯科業界の旧態依然とした部分を変えていきたいという思いがあるようだ。この業界での既存のソフトウェアは、どれもベンダーロックイン(特定のベンダーの独自技術に依存)で、高価であり、歯科業界のDXを阻害していると言う。西野氏はAlignXを広く業界に提供していき、歯科医師や歯科技工士の生産性と働き方を変えていきたいというビジョンを話してくれた。

 同社はデジタルガレージが主催するシードアクセラレータープログラム「Open Network Lab」の第21期にも採択されており、このサービスは10月に開催されたデモデイで、ベストチームアワードとオーディエンスアワードをダブル受賞している。さらにこの11月には、大阪の大手歯科医療法人がOh my teethと提携することになり、関西地区でもサービスの拠点ができる予定だ。

 こうして西野氏のビジョンが評価され、全国的に広がれば、歯科矯正のハードルが下がり市場も拡大するだろう。またその結果、歯科業界に関わる人の働き方が改善されれば、ユーザーにとっても業界にとっても、このイノベーションはプラスになるはずだ。

藤木俊明 Written by
ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。