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空飛ぶクルマで関連業界も浮上 保険、ナビゲーションなどで新ビジネス

有人飛行テストに成功したSkyDriveの「SD-03」、試乗会も行われていた

有人飛行テストに成功したSkyDriveの「SD-03」、試乗会も行われていた

 低騒音、低コスト、垂直離着陸、自動運転などの特徴を持つ次世代モビリティ、「空飛ぶクルマ」の実現に向けた取り組みが世界中で行われている。日本においても、株式会社SkyDrive(本社:東京都新宿区)が2020年8月末に有人飛行テストを成功させるなど着々と開発が進んでいる。また、経済産業省などによって「空の移動革命に向けた官民協議会」が組織され、社会実装に向けた技術検討や制度整備も進められている。

 空飛ぶクルマが実用化されると、それに伴い、さまざまなビジネスが生まれることになるだろう。では具体的にその広がりはどのようなものとなるのだろうか。

 2020年11月4日から6日まで、東京ビッグサイト(東京都江東区)において、空飛ぶクルマをテーマにした展示会「フライングカーテクノロジー」が開催された。その中で、エアモビリティ株式会社(本社:東京都新宿区)の浅井尚氏(代表取締役兼CEO)や、東京海上日動火災保険株式会社の秋山将人氏(航空保険部部長兼営業課長)らが登壇し、「空飛ぶクルマから生まれる新ビジネス」と題した講演を行った。

空を飛ぶ”ために必要なインフラ

エアモビリティ代表取締役兼CEOの浅井氏

 エアモビリティの浅井氏は、同社が進めているインフラプラットフォーム事業について説明した。

 現在、空飛ぶクルマのメーカーは世界中に200社ほどあると言われている。日本でも、前述したSkyDriveや、東京大学発スタートアップのテトラ・アビエーション株式会社(本社:東京都文京区)などが開発を進めているものの、その数は多いとは言えない。こうした現状を踏まえると日本の空飛ぶクルマ市場は当初、「輸入車に頼らざるを得なくなるだろう」と浅井氏は予想している。

「私たちは、まず輸入車が日本の市場に入ってくるためのプラットフォームを構築しようと考えています。海外メーカーが我々に車を渡してくれれば、整備や通関、リース対応などを全部やりまして、我々のプラットフォーム上からお客さまに提供できるようにと考えています。そういったいわゆる販売のプラットフォームを構築できないかと考えています」(浅井氏)

エアモビリティが構想する空飛ぶクルマのインフラプラットフォーム事業の全体像

 空飛ぶクルマの利用が広がると、カーシェアリングやタクシー、物流などの事業者が活用するようになると考えられる。エアモビリティではそうした中小事業者に向け、空飛ぶクルマを活用するためのサービスプラットフォーム「Airmobility Service Collaboration Platform」(以下「ASCP」)の開発を計画している。

 同社がASCPで提供するのは、「離発着誘導システム」や、空飛ぶクルマのナビゲーションを担う「Airナビ、アセスメントシステム」。さらに「安全巡行支援システム」、「高速充電システム」「予約システム」「保険販売システム」「決済システム」「ビッグデータ解析システム」など空飛ぶクルマに必要な全てだ。

ASCPナビゲーションシステム利用の流れ

 浅井氏は、これらシステムを同社だけで開発するのではなく、例えばナビゲーションシステムは3次元地図データを持つダイナミック基盤株式会社(本社:東京都中央区)と共同開発するなど、各機能の知見を持つ企業とコラボーレーションして開発する。これらをプラットフォーム上に乗せていくことで、「全体としてシームレスなサービス(体験)を提供する」という。

 ではこうしたシステムを使い、空飛ぶクルマはどのように飛行するのだろうか。

 まずユーザーは目的地をシステムに入力する。するとプラットフォーム上で、ルート状況、バッテリー残量、気象データなどさまざまな情報から、最適な飛行ルートが算出される。次に、その最適な飛行ルートの情報が保険会社側に投げられ、そのルートにおけるリスク度合いがチェックされ、ユーザーに保険の加入が勧められる。ユーザーがその保険を購入した段階で飛行サービスがスタートするという。

「飛行がスタートするときには、我々のプラットフォーム上から飛行ルートの『XYZデータ』(座標)を機体に渡すようなイメージでいます。例えばAからBの地点に飛ぶときは、数百メートルおきに、XYZデータを次々と投げる。空飛ぶクルマはそのXYZデータを追いかけていくだけで先に飛んでいけるようなものを想定しています」(浅井氏)

 エアモビリティは2020年11月に、三重県や東京海上日動火災保険と空飛ぶクルマの実証実験実施に関する包括協定を締結。2022年夏に有人での実証実験を行うほか、2025年の大阪・関西万博(2025日本国際博覧会)において会場と空港を、空飛ぶクルマで結ぶデモなどを実施する予定とのことだ。

空飛ぶ自動車保険

東京海上日動火災保険の秋山氏

 空飛ぶクルマの飛行には、機体の損傷や事故などさまざまなリスクが伴う。このリスクは、現在メーカーの多くが取り組む実証実験においても発生するものだ。東京海上日動火災保険の秋山氏は、こうしたリスクに対応した保険ビジネスについて解説した。

 同社は、すでに空飛ぶクルマ向けの保険提供を行っている。2019年3月から開始したこの保険は、空飛ぶクルマの試験飛行や実証実験を行う企業に提供するもので、「自動車保険の“空バージョン”」(秋山氏)だ。

 具体的には、機体が偶発性を伴う損壊の場合などに修理代が支払われる「機体保険」、墜落事故が発生したときなどに乗客や落下地域の人に支払われる「賠償責任保険」、そしてパイロットが怪我をしたときなどに支払われる「搭乗者傷害保険」が用意されている。保険商品としては、従来の「航空保険」がベースとなっているが、“クルマ”としての走行時も補償の適用範囲となっているのがこの保険の特徴だ。

 SkyDriveやテトラ・アビエーションもすでにこの保険を活用しており、今回の「フライングカーテクノロジー」に展示されたSkyDriveの機体「SD-03」(冒頭画像)にも機体保険がかけられているとのことだ。

「我々としてはこうした保険で、安心して空飛ぶクルマの開発、実証実験を行える環境を提供することをミッションに掲げています」(秋山氏)

 さらに同社では、これまで蓄積した事故データなどから、空飛ぶクルマ分野の事業者のリスクマネジメントを支援するサービスの構築も進めている。そのサービス内容は、事業コンセプトを踏まえた上で、リスクの全体像を把握する「リスクの全体像整理」。飛行ルートなどで変わってくるリスクを整理する「利活用シーン別リスク整理」。実際に事故が起きたときの損害を定量的に把握する「リスクの定量評価」の3つとなっている。

「さまざまな事業者の社長やCEOと話したときに、自分たちの事業はどれくらいリスクがあるのかを非常に気にしている」(秋山氏)ことから、空飛ぶクルマに関しては、こうしたリスクマネジメントのニーズが非常に高いという。

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 自動車に関わる分野は、保険やロードサービスなど関連のサービスまでを含めると、その裾野は広大だ。クルマが地上を離れ“空を飛ぶ”ようになれば、同時にその関連サービスも“飛ぶ”ことへの対応が求められる。裾野が広い産業ゆえに新規ビジネスの可能性も大きい。これにより日本市場の活性化につながることを期待したい。

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