キャッシュレス化は、中国のみならず東南アジアやアフリカの新興国でも進んでいる。新型コロナウィルス感染が世界中に広まったことで、現金を介したウィルス感染の懸念やロックダウンによる行動制限などによりキャッシュレス決済はさらに進み、併せてeコマースの利用者も急増している。
一方で、新興国では物流インフラに多くの問題を抱えているため、商品の配送にトラブルが多い。注文品が予定通りに届かないということは、eコマース領域の成長の妨げにもなる。
新興国の物流の問題点は、大きく分けると2つある。ひとつは配達スピードの問題でその原因は、高速道路や舗装道路の整備状況などに起因するものと、非効率なオペレーションや煩雑な各種手続にかかる時間のロスだ。もうひとつは配達クオリティで、これは誤配送や商品の紛失、さらにこうしたトラブルが起こった際のトレーサビリティ(追跡可能性)能力の低さなどだ。
この2つを、テクノロジーの活用で改善しようというスタートアップが新興国では急増している。
バイクとGPSを活用
その一例が、機動性が高いバイクを使った配送と、GPS搭載のスマートフォンを活用しリアルタイムで配送状況を把握出来るサービスだ。
ナイジェリアのデリーマン(Dellyman)は、バイクによる当日配送保証を謳っている。同社のサービスでは配達員が持つスマートフォンのGPSを利用し、集荷から配達完了までのステータスと位置をリアルタイム追跡ツールで確認できる。当地では配送遅延が常態化しており、実際に期日を大幅に過ぎてもオンラインで注文した商品が届かなかった経験からこのサービスも生まれたという。
GPSを活用した仕組みは、利用者にとって便利なだけでなく企業側にとってもメリットがある。ドライバーの位置をリアルタイムに把握できる事で、集荷依頼があった顧客や倉庫へ最も早く到着できるドライバーを向かわせるなど、効率的なオペレーションが可能だ。そしてもちろん、これらの指示は人の判断を必要とせず、システムが自動で行う。仕組みとしては物流版Uberというとイメージしやすいかもしれない。このような物流サービスが新興国の間で広まりつつある。
B2Bにも広がる新しい物流手法
バイクを利用した配送は、B2Cのラストワンマイル配送に限られた話ではない。B2B領域でも同様の仕組みを活用したサービスが展開されている。
新興国では、スーパーやコンビニがどこにでもあるような国は少なく、日用品の売買はキオスク(小屋のような簡易建造物)のような売店や、個人商店が主流という国も多い。こういった零細小売業者は、店舗が小さいことや日々の利益の少なさが理由で、業者から卸売価格での商品大量購入が出来なかったり、注文量の少なさから商品の配送を断られたりするなど仕入れの問題を抱えている。
ベトナムでフードデリバリーや医薬品の配達サービスを行い、ユニコーン企業を目指し成長を続けるローシップ(Loship)は、零細小売業者をターゲットに、パッケージ製品や原材料を少量でも卸売価格で購入したいというニーズに応える、B2B向けコマース事業ローサプライ(Lo-supply)も展開している。
ローシップが卸売業者から大量購入した製品や原材料を少量に分割し、同社のプラットフォーム上から零細小売業者へ販売する。注文を受けるとドライバーは倉庫からバイクを利用して小売業者の元へ商品の配送を行う。同社の倉庫に商品が集約されていること、販売量が少量(バイクでの配達が行える程度の量)であること、同社がバイクによる配送網を既に持っていること、これによってスピーディーな配達を実現している。2019年時点で既にローサプライ加盟店は9万店を超えており、ローシップの純利益の30%をローサプライの収益が占めるまでとなっている。
同じく配送も手掛けるB2Bコマース領域で、少しユニークなアイディアを形にしているのがケニアを拠点にタンザニア、ウガンダ、ルワンダの4カ国の主要都市でサービスを展開し、東アフリカ全域へのサービス拡大を目指すソコウォッチ(Sokowatch)だ。
ソコウォッチでは、トゥクトゥクを有効活用することで既存の問題を解決している。トゥクトゥクは新興国で主にタクシーや貨物運搬の目的で利用される三輪自動車だ。バイクに比べて荷物を積載できるスペースが広く、バンやトラックに比べると車両価格や維持費が安価であり小回りも利く。同社サービスではこれを移動型の倉庫としても活用している。
商品を積載したトゥクトゥクは、それぞれの担当エリアを移動しながら注文品の配送を行う。加えて移動型「倉庫」として商品在庫を積んでいるため、欲しい商品を載せたトゥクトゥクが付近にいれば、同社アプリからの商品注文後すぐに商品が手に入る。もし在庫が顧客に近いトゥクトゥクになければ、連絡を受けたライダーが倉庫から商品をピックアップして顧客最寄りのトゥクトゥクへと届ける。お互いの位置関係はスマートフォン上から確認出来るため、トゥクトゥクは商品の補充を待ちながらも届け先へ向けて移動を続けることも可能だ。
同社はさらなる効率化のため、既存顧客の注文履歴データを元に、次回の注文日や発注内容を予測する「スマートコールリスト」を作成している。このリストを使って事前に顧客に注文の有無の確認を行い、そのデータからトゥクトゥクの運行ルートや積載商品を決めている。
上流でも進むテクノロジー活用
物流全体のスピードを上げるために、さらに上流の輸出入に関する部分でのテクノロジー活用も始まっている。
ナイジェリアの物流テックスタートアップのMVXチェンジは、MVXトランジットというアフリカの企業向けの、デジタル貨物予約および管理プラットフォームサービスを今年の3月に開始した。輸出入を行う企業はこのプラットフォーム上から利用可能な貨物運搬船を照会し、船のチャーター手配が行える。
これまでは、仲介業者やサービスプロバイダなどを介して貨物船の手配をするのが慣例だったが、オンラインで船のチャーターが出来るようになるだけでコスト、時間ともに削減できる。同社によれば、これまで手配には業界平均で24〜36時間程度の時間がかかっていたが、このプラットフォームを利用することで1時間以内に船舶と企業のマッチングが行えるようになるという。
また、輸出入に際しての通関にフォーカスしたサービスを開始したのはケニアのスタートアップソテ(Sote)だ。同社は国内にとどまらずアフリカ全体でのデジタル物流インフラストラクチャの構築を目指している。顧客、輸出入業者、配送業者、会計と関連するプロセス全体を一元管理出来るプラットフォームを開発し、先日シードラウンドで300万ドルの資金調達を行った。
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あくまでも筆者の感覚だが、2020年後半に入り新興国の物流領域のスタートアップの動向に関するニュースを目にする機会が増えたように感じる。2020年の前半はeコマースの利用者が急増し、それに対応しきれなかった部分やそこから見えた課題、新たな需要への対応が行われているではないかと推測している。
新興国の物流インフラには、道路や鉄道網の整備など国が本腰を入れて取り組まない限り解決が難しく、年月がかかる問題が多い。そんな中、テクノロジーとアイディアでどれだけの課題が解決出来るのかという点で、各スタートアップがビジネス機会を狙っていることは非常に興味深い。