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「地下鉄×MaaS」「不動産×MaaS」 など多彩なMaaS その取り組み内容と思惑は?

東京メトロもMaaSに取り組む(写真はイメージ)

東京メトロもMaaSに取り組む(写真はイメージ)

 公共交通機関やタクシー、シェアサイクルなどの移動手段を、ICTを活用してシームレスにつなぎ、ひとつのサービスとして提供する「MaaS(Mobility as a Service)」は、ヘルシンキ(フィンランド)やウィーン(オーストリア)などの取り組みが先進事例として評価されてきた。ここ数年、日本においても社会実装への動きが加速している。当媒体でも静岡県の伊豆エリアにおける観光型MaaSの取り組みなどを紹介してきたが、都市部でもMaaSの実証実験は行われている。また不動産会社主導で街づくりの一環として試みられるMaaSなどもあらわれた。

 2021年1月20日〜22日にかけ、東京ビッグサイトで開催された「第13回オートモーティブワールド」では、東京地下鉄株式会社(以下、東京メトロ)と、三井不動産株式会社、それぞれが構築しているMaaSのサービスを解説するセミナーが行われた。

“東京都市圏”で求められるMaaSとは

 東京メトロの川上幸一氏(企業価値創造部長 兼まちづくり連携担当部長)は、「東京メトロが考える大都市型MaaS 『my! 東京MaaS』について」と題した講演を行った。

東京地下鉄株式会社の川上幸一氏

 東京メトロでは、2020年8月に「my! 東京MaaS」というアプリをリリースし、すでにMaaSを開始している。セミナーでは東京の特徴や利用者のニーズをどのように捉え、どうサービスに生かそうとしているのかが紹介された。

 川上氏によると、東京は近郊も含めた都市圏として見ると世界一の人口(3500万人〜4000万人)を有しており、複数の独立した交通事業者が混在している。さらに大きな特徴として、「公共交通の利用率がもともと高い」ことを挙げた。

「東京23区の公共交通の割合は4割以上。他の都市に比べて非常に高くなっています。東京都市圏で考えると、だいたい鉄道が3分の1、自家用車が3分の1、これが東京の特徴だと思います」(川上氏)

 ヘルシンキやウィーンなどは、もともと公共交通機関の利用率が低い。MaaSを実施することの狙いのひとつは、公共交通機関の利用を増やすことだった。しかし東京の場合はこうした「自家用車から公共交通へのシフトは目的になりにくい」と川上氏は指摘する。

「すでに高い公共交通の利用率を示す東京では、東京の魅力や活力を高めて、移動需要を創出する。要するに(他事業者と)連携するところが重要になると考えています」

 現在東京メトロでは、シェアサイクル会社やタクシー会社と連携した予約機能を「my! 東京MaaS」で実現している。さらに今後はバス会社などとも連携して、鉄道駅から少し離れているエリアへの周遊性を高めるほか、飲食店の割引クーポンをアプリ内で提供することなどで“移動に伴う消費単価”を上げ、地域の経済活動を活性化していきたい考えだ。

 東京メトロでは利用者にアンケートを実施し、不便に感じていることや、求めている検索機能をヒアリングしている。こうしたアンケート結果を見た時に、「(ネット通販などで見られる)ロングテールのように、(目につきにくいが小さな)不便や不満を(長年にわたって)感じているお客様がたくさんいる」ことに気がつき、こうした声に応えることが重要なのだと感じたと川上氏はいう。

 例えば検索結果の表示への要望としては、通常の「到着時間が早い」「運賃が安い」などに加えて、「雨を避ける」「寒さを避ける」ためのルートや、手近な充電スポットを示すなど、電車を降りてから街に出るまでに必要な情報が求められている。

 そこで東京メトロでは、「エレベータールート検索」や「雨に濡れないルート検索」などさまざまな要望に合わせた検索機能をアプリに順次導入していき、より一人ひとりに「パーソナライズドされた」移動の提供も目指しているとのことだ。

不動産を起点としたMaaS

 一方、三井不動産株式会社の川路武氏(ビジネスイノベーション推進部 事業グループ長)は「街づくり×MaaS」と題したセミナーで、同社が進めるMaaSの取り組みについて解説した。

「不動産×MaaS」の取り組みについて説明する川路氏

 三井不動産が目指しているのは、「不動産の足元(建っている場所付近)にユーザー専用のモビリティを配置するサービス」だ。具体的には、三井不動産が提供するマンションの足元に、カーシェアやシェアサイクルなどの拠点を配置する。さらに、タクシーやバスなど交通機関の利用も含めた定額制のサブスクリプションサービスも提供するというものだ。

 川路氏によると、カーシェアの拠点をマンションの足元に設置する構想は以前からあったが、マンションのセキュリティや、収益事業を行うことでの管理組合への課税の問題などがあり、導入は難しかった。しかし近年のデジタル化により、どれだけの人がどれだけの頻度で利用したかなどの利用状況を分析し、「マンション住民のためになること」を容易に提示できるようになったことなどから設置の可能性が高まっているという。

 すでに三井不動産では千葉県の柏の葉エリアや東京都の豊洲、日本橋エリアのマンションで、同社も出資しているフィンランドのMaaS Global(本社・ヘルシンキ)のMaaSアプリ「Whim(ウィム)」を使った実証実験を開始しており、住民からの評判も上々だという。

「おもしろかったのは、利用者から『はじめての場所への外出が増えた』という声が多くあがったことです。降りたことのないバス停で降りた。前々から気になっていた公園に行ったなど。(行こうと思えば)行けたけど、行ってなかった場所に行くようになる。(MaaSは)そのきっかけになるのかもしれません」(川路氏)

 同社のロードマップとしては、まず不動産を起点に駅や商業施設とつなぎ、その後、複数施設を掛け合わせていくことでつながりやエリアを広げ、最終的には、「中央区などひとつの区をカバーするような(広範囲の)MaaSサービスが実現できれば」と川路氏は意気込む。

 こうした不動産会社のアプローチを見ていくと、鉄道会社などのそれとは少し異なるようにも思える。しかし川路氏は各社の方法論の違いについて、「これは山の登り方の違いです。最後は『移動の最大化』を提供していくという山頂を目指していますから、各社で登り方に違いはあるものの、最終的なゴールは同じではないかと考えています」と話した。

 コロナ禍によって、移動のあり方にも変化が見られる。通勤は減ったが、さまざまな用事で、ちょっとしたすきま時間によりパーソナルな移動手段を選択したいという人は増えたはず。MaaSのメリットのひとつは、個人のニーズにあった移動の手段を選択できることだ。今後はこうした社会環境の変化を背景に、MaaSがどのように進化するかにも注目したい。

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