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Clubhouseだけじゃない 今年のSXSWに登場した新型音声SNS

Clubhouseだけじゃない 今年のSXSWに新型音声SNSが登場(イメージ図)

Clubhouseだけじゃない 今年のSXSWに新型音声SNSが登場(イメージ図)

 世界最大級の音楽と映画、そして最新テクノロジーの祭典「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」が、3月16日から20日までおこなわれた。昨年は新型コロナ感染拡大の影響で中止されたが、2年ぶりの開催となる今年は完全オンラインでの開催となった。

今回のSXSWはVRでも参加可能(画像提供:SXSW)

 ITスタートアップ企業の登竜門としても知られるSXSWは、例年ならば米テキサス州のオースティンに全世界から約40万人の参加者が押し寄せる。今年はダウンタウンなど街の一部をVR(仮想現実)で再現し、通常のオンラインでの視聴型参加以外にも、仮想空間内で参加者がアバターを使って交流したり、展示会に参加したりするという試みが注目を集めた。

 今回のSXSWは、パソコンのウェブ・ブラウザーやスマートフォン、Apple TVなどのスマートTVを通して参加することができる他、より臨場感あるバーチャル体験も。VRアプリ「VRChat」のプラットフォームを使えば、ヘッドセットを用いて仮想空間内に設けられた劇場や展示場などの会場内を自由に散策することもできた。例えば、オースティンの中心街に実際にある劇場を模したバーチャル「パラマウント・シアター」では、映画祭に出展された作品の鑑賞が出来る。また、その真向かいに位置する美術館「ザ・コンテンポラリー」のルーフトップ・バーでは、他の来場者アバターと交流できるといった具合である。

ジョージ・W・ブッシュ元大統領もオンラインで参加(画像提供:SXSW)

 分野を超えて、著名人が登場することで知られるSXSWだが、今年も著名アーティストや俳優など以外にも、前回の大統領選に向けた民主党予備選で最年少候補として一躍有名になったピート・ブティジェッジ氏(現米運輸長官)や、ジョージ・W・ブッシュ元大統領などがオンラインでのトークイベントに参加し、話題となった。

注目を集めたのは音声SNS

 オンライン会場では、映画の最新作から最新の音楽プラットフォームまでさまざまなエンターテインメントの発表・紹介があったが、その中でもひときわ注目を集めたのが、新たな音声SNSアプリの発表である。日本でも少し前にClubhouseが話題を呼んだが、アメリカでは次世代のSNSとして、音声プラットフォームがその存在感を増している。

 そのひとつ、サンフランシスコを拠点とするスタートアップSwell(スウェル)は、SXSWでのセッションの中で自社の新アプリを発表した。

SXSWで発表された音声SNSアプリSwell

 Swellとは何なのか。セッションに参加した同社のバイス・プレジデント、デボラ・パルデス氏は、このアプリは「リスナーとの真の交流の場」だと語った。ユーザーは最長5分間までの音声の収録をすることが可能で、収録された音声ファイルは自身のプロフィール上に投稿することができる。内容はさまざまで、自身のポッドキャストの宣伝や、映画やゲームのレビュー、はたまた今朝自分がしたことなど多岐にわたる。それに対しフォロアーが音声によるレスポンスを投稿したり、リツイートならぬ「リスゥエル」することが可能で、音声ファイル以外にもリンクを貼ったり、文字を書き込む事ができる。まさに音声版ツイッターといえそうなものだ。

 同社によると、既存の文字ベースのSNSとの大きな違いは、音声の方がより自分の感情を伝えやすく、他のユーザーとのつながりをより強く感じられる点だという。さらに、同じ音声アプリでもClubhouseなどは、ライブ配信に重点を置いているが、録音したファイルを投稿できる「非同期型」音声プラットフォームのSwellでは、ユーザーはいつでもどこでも音声を聞くことができる。

 またグループチャットやプライベートでの音声会話も可能。さらに、アプリ上に音声ファイルが残るため、記録が残らない音声ライブ配信上で今問題となっているヘイトスピーチやハラスメントなどの不適切なコンテンツに対処することができるなど、管理の面から見ても優れているという。

 このアプリはアンドロイドとiOSの双方に対応しており、現在はスマートフォンに無料でダウンロードすることができる。マネタイズに関しては、同社のスダ・バラダラジャンCEOがSXSWでの発表前に行った米メディアとのインタビューでは、広告の導入は予定しておらず、フォロアーに対して課金するシステムや、アプリ内で追加ツールを使用できる有料プレミアム・アカウントの作成などを将来的に考えていると語った。

著名実業家も参入 賑わう音声アプリ市場

 SXSWで行われた別のセッションでは、米国で著名な実業家のマーク・キューバン氏が、自身も現在開発に関わっているFireside(ファイアサイド)について触れるとともに、「ポッドキャスト2.0」という概念を提唱した。Clubhouseのようなリアルタイムで音声会話が楽しめる機能と、音声コンテンツを作成・配信する機能とを合わせ持った新型アプリを目指している。このアプリでは、音声のライブ配信以外にも、音声の収録、会話の自動文字起こしなども可能で、これらの機能を上手く利用すれば、よりリッチな音声コンテンツを作ることができる。こうしたコンテンツは有料の音声コンテンツとして課金が出来る仕組みになる予定だという。

 音声プラットフォームでは遅れをとっているツイッターも、4月から音声によるチャットルームSpaces(スペース)を一般向けに開始する予定だ。フェイスブックも現在独自の音声プラットフォームを開発中と報道されている。

 米国での音声SNSの新規開発や競争は激しさを増しているが、その背景には音声メディアの世界市場における急速な拡大がある。ドイツの調査会社スタティスタのデータによると、2021年のデジタル音声広告(音楽やポッドキャストを含む)の世界市場規模はおよそ58億ドル(約6300億円)が見込まれているが、2025年にはおよそ88億ドル(約9600億円)まで拡大すると予測されている。さらに日本を見てみると、2020年に16億円ほどの市場規模なのが、2025年には約26倍の420億円にまで急拡大すると見られている。(デジタルインファクト調べ)

 今後音声メディア需要のさらなる高まりが期待されるが、どの様な音声プラットフォームやアプリ、そしてビジネスモデルが生き残っていくのか注視される。

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