2021年4月20日、株式会社デジタルガレージが主催するシードアクセラレーターブログラムOpen Network Labの22期生によるデモデイが開催(オンライン)され、3カ月間のプログラムを終えた4チームがピッチを行った。
審査の結果、ベストチームアワードは株式会社GOYOHの「EaSyGO」が受賞した。また審査員特別賞には、株式会社NESTOの「ネスト」が選ばれた。それぞれのチームが行ったピッチの内容と事業概要は以下の通り。
成功するビジネスチームを作る動画を活用ツール
トップバッターとしてマキナ株式会社代表取締役 植川悠氏が登壇。社内動画メッセージツール「IMA(イマ)」を紹介した。コロナ禍でリモートワークが広がった結果、多くの企業が社内コミュニケーションの悩みを抱えている。
「テキストチャットやWeb会議では気持ちが伝わりにくく、タスクの進捗に関する会話だけになりがち」(植川氏)
これではチームが共通のゴールに向かうことが難しい。その対策として、動画での社内コミュニケーションを試みる企業も多いが、動画の制作は「手間がかかる」「敷居が高い」などの課題があり、5分の動画作成に30分もかかってしまうこともあるという。
それを解決するのが、企業内音声・動画プラットフォームIMAだ。「簡単だから発信頻度が増える」「テキストでは伝わらないことを伝える」「ストックされてチームの中で繰り返し伝わる」とその特長をあげた。簡単という点では「SlackなどのコミュニケーションツールからIMAを起動でき、ワンクリックで録画が開始され、録画を止めればすぐに共有されます」(植川氏)。これを使って、インタビューや対談などのアーカイブも可能で、保存された動画は自動文字起こしや検索もできるという。
IMAによって、30分かかっていた動画作業を3分に短縮でき、ストックが活用されることで発信も増えるという。「その結果、価値観やミッションの共有、エンゲージメントの向上、離職の抑制などの効果が見込め、リモートワーク下でも成長し続けるチームを創ることができます」(植川氏)
トラクション(実績)として、サービスリリース前にすでに52社の事前登録を獲得している。ビジネスモデルは、SaaSでユーザー数に応じた課金を考えている。将来的にはエンゲージメントの測定・分析、メンタルヘルスの測定・分析など、音声・動画データに基づく組織開発の価値を高めていきたいと植川氏は語り、ピッチを終えた。
ビルオーナーのESG推進を支援するSaaS
続いて、不動産を起点とした活動によるCO2排出を可視化するサービス 「EaSyGO」を展開する株式会社GOYOH代表取締役 伊藤幸彦氏が登壇。同氏によると「国連の調査によると世界の温室効果ガスの約50%は、不動産と不動産を起点とした移動・交通から排出されている」。しかし、CO2排出量のうち不動産オーナーが直接把握できるのは約15%に過ぎない。残りの85%はテナントから排出される。こうした状況であっても、今後顕在化するさまざまなカーボンリスク(企業責任・炭素税。資金調達・規制/罰則)は、ビルオーナーにものしかかってくる。
「ビルオーナーは(自社不動産の)CO2を可視化し、削減するとともに経済性も確保しなければなりません」(伊藤氏)そのためビルオーナーはテナントによるCO2排出量を収集、分析しなければならないが、効果的なツールや専門人材もいない。EaSyGOはこうしたビルオーナーの課題を解決する専門サービスだ。
その特長は、テナントによるCO2排出情報の収集、解析とアクションの提案だ。ビル全体のエネルギー利用、水や紙などの資源の利用、廃棄状況等などの情報などから自動で必要なESG(社会的責任投資)のアクションが検出され、専門家による最適な方法が提案される。また、CO2の削減に関して複数の提案を出し、その中から費用対効果の優れた施策を検討することもできる。
EaSyGOはSaaS型式でビルオーナーへの月額課金で提供される。すでに上場REIT、ゼネコン、投資ファンドなど20社から利用意思の表明や問い合わせを受けている。
伊藤氏は、ターゲットとしてまず日本国内不動産ファンド、次いで日本企業の不動産に定めている。その先はグローバル企業不動産へ展開したいと話した。将来的には蓄積したビッグデータを活用した事業展開を見込んでいる。
ウェルビーイングのためのオンラインコミュニティ
続いて、株式会社NESTOのCFO高橋理志(まさし)氏が登壇。「価値観の合う会員同士で、決まった時間にオンラインでつながりながら、一緒にルーティーンを行うことで、ウェルビーイング活動を楽しく続けることができます」と同社が展開する会員制オンラインコミュニティ「ネスト」の概要を説明した。
コロナ禍の社会、リモートワークの普及。心身のストレスとなる要素は多く、それに伴い生活習慣改善への意識が高くなっている。しかし、生活習慣改善の意思を保ち、行動するのはひとりでは難しい。そこで、価値観や目標を同じくする仲間とオンラインでつながり、定期的に活動することで生活習慣改善を達成するコミュニティサービスが「ネスト」だ。
このサービスでは コミュニティを「リズム」と名付けている。リズムのひとつ「チベット体操125」では、参加者が朝8時からZoomを利用し一緒に体操を行っている。さらに5分間の雑談時間も設けられており、そこから参加者同士の横のつながりがで生まれる。各リズムには主催者としてのホストが存在している。ホストはそれぞれ自分が継続している、あるいは継続したい技や習慣(体操や逆立ち、巡礼など)を参加者と一緒に行う。入退会のオペレーションやPRなどのマーケティングはネスト側が行ってくれるので、ホストは事務作業が苦手でも問題はない。
ネストの運営は、入会金と月会費の30%を受け取るビジネスモデルで成り立つ。トラクションとして、開始6カ月7リズムで有料会員が140名に成長したという。退会者数は少なく継続率の高いモデルだ。「オンラインサロンのように、毎回新しい刺激が必要なものではなく、毎回同じルーティーンで、自分の内面の変化を発見できる場だからと思います」と高橋氏は分析する。
高橋氏は「この市場で、まず100のリズムでそれぞれ100会員を達成し、そのモデルを持って企業、自治体にフランチャイズのような形で展開したい」と話し、将来的には海外展開も目指していると結んだ。
貿易金融の課題解決プラットフォーム
最後に、ブロックチェーンを採用した貿易融資プラットフォーム「Nu-credits」を展開するKuan Financial(UK)Limitedの CEO Kenneth Ma (ケネス・マー)氏が登壇した。
輸出入事業者は発注を受けた後、商品の生産・梱包・発送を行うが、入金は後日となるため、支払いを受けるまでの間のキャッシュが必要だ。そこで金融機関に融資を申し込むことになるのだが、事業の実績や銀行との取引実績がなければ、信用情報も十分でないために審査で却下されることも多い。「現在80%の貿易取引は融資を活用して行われています。しかし中小の輸出入事業者は融資を活用できていない」とケネス氏は、このサービスの背景となる現状を説明。このように却下されている貿易金融の総額は、年間5兆ドルにも達すると続けた。
さらにケネス氏は、貿易金融に存在する問題点として、
- 書類の情報漏えいや改ざんのリスク
- 融資判断に必要な情報が不十分
- 複雑で面倒な債権回収プロセス
の3つをあげた。書類の不正による回収不能債権は膨大だ。そこで同社はブロックチェーンを活用した検証プロセスによって不正リスクを排除することを提案する。信用情報もこれまでのように金融機関の持つ財務情報だけではなく、取引全般に関わるデータ、SNSなど世間に流通するデータなどを収集・分析すればより正確な信用情報を構成する事ができる。また、審査プロセスを自動化、デジタル化することにより、67%もの時間を削減できるという。さらに、貿易金融の貸し手は債権を直接回収する他に、トークン化することで、他のアセット・マネージャーに売却することも可能だと同社のシステムを採用するメリットを説明した。
システムの提供は2020年9月からスタートしており、これまでの月次成長率は24%、実行された融資総額は7.2百万ドルに達したことを示した。初期マーケットとしては中国、日本、英国、EUを想定。さらに東アジア、中東、EUに拡大し、5年後にはグローバル貿易金融市場に展開したいと述べた。また将来的には、マーケットプレイスとして、貿易業者へ為替や保険、物流領域のサービス提供も目指している。