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宇宙ビジネスは“夢”ではなく“成長産業”〜インターステラテクノロジズの次なる目標

インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役・稲川貴大氏(左)。宇宙空間到達を達成した「MOMO 3号機」の模型(右上)。ロケットの方向を制御するためのジンバル機構(右下)

インターステラテクノロジズ株式会社 代表取締役・稲川貴大氏(左)。宇宙空間到達を達成した「MOMO 3号機」の模型(右上)。ロケットの方向を制御するためのジンバル機構(右下)

 2021年7月3日、インターステラテクノロジズ株式会社(本社、北海道大樹町)は、観測ロケット「MOMO」の改良版「ねじのロケット(MOMOv1)」の打ち上げを、宇宙港「北海道スペースポート(北海道大樹町)」にて実施。機体は高度約100キロメートルの宇宙空間に到達し、民間単独で初となった2019年の「MOMO3号機」以来、2度目の宇宙到達を成功させた。

 今回の成功を受けて同社では、観測ロケット「MOMO」シリーズの量産化・商業化をさらに進める一方で、次世代ロケットとして、超小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」の開発にも注力する方針を打ち出している。

 実は同社が、超小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」に力を注ぐ背景には、宇宙業界全体に起こっているパラダイムシフトが大きく関わっている。

登壇中のインターステラテクノロジズ代表取締役 稲川貴大氏

 具体的にどういった変化が起こっているのか。また、インターステラテクノロジズはなぜ次世代ロケットの開発に注力するのか。同社代表取締役・稲川貴大氏が、「TECHNO-FRONTIER 2021」(2021年6月23日〜25日、東京ビッグサイト青梅展示棟で開催)で登壇した講演、「宇宙ビジネスの未来 〜エンジニアがスタートアップで宇宙ビジネスの未来を拓く〜」を取材した。

宇宙産業に起きているパラダイムシフト

 インターステラテクノロジズは、北海道広尾郡大樹町に本社と工場、ロケットの発射場を設け、エンジニアを中心とした60人体制でロケット開発に携わる宇宙スタートアップだ。「誰もが宇宙に手が届く未来をつくる」ことをビジョンに掲げ、民生品利用や量産化などによる「世界一低価格で便利なロケット」を作ろうとしている。

インターステラテクノロジズが開発する2つのロケット

 同社が開発しているロケットは2種類。ひとつが、2度目の宇宙空間到達を達成した観測ロケット「MOMO」シリーズ。そしてもうひとつが、次世代ロケットとして開発が進む超小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」だ。

 講演での稲川氏の説明によると、「MOMO」は高度100キロほどの宇宙空間に科学実験などを行うための機器を輸送することが目的で、宇宙空間に到達すると、そのまま地上に落下してくる弾道飛行型のロケットだ。一方、今開発中の「ZERO」は、100kg以内の超小型衛星を『地球低軌道』と呼ばれる低い軌道に投入するためのロケットとなる。

 2つのロケットのうち、「MOMO」はすでに事業化のフェイズにあり、今後は後者の「ZERO」の開発にも力を入れていく。稲川氏によると、宇宙産業は今後20年間で「(今よりも)60兆円成長する」と予測されている成長産業であり、そして特に盛り上がっているのが超小型衛星の分野だという。

「超小型衛星と呼ばれるものが、急激に伸びています。2003年に東京大学と東京工業大学が世界で初めて打ち上げに成功し、アカデミック的に出てきたものですが、徐々にビジネスの世界に広がり、ここ数年、打ち上げ回数が大幅に伸びています」

 小型の衛星の主な用途としては、米国のSpaceXやAmazonなどが計画している全地球型インターネット(通信衛星)の構築や、安全保障、地球観測、民間情報収集などが挙げられる。これらは小さな衛星を数多く打ち上げ、それらを連携させてサービスを行う。衛星が宇宙空間で互いに連携することから「衛星コンステレーション(星座)」と呼ばれるこうした事業が可能になったのは「小型、安価で、大量に人工衛星を打ち上げられるようになった」ためだという。

「いわゆる大型衛星、例えば気象衛星の『ひまわり』や日本版GPSの『みちびき』は、マイクロバス一台分ほどの大きさがあります。それに比べ、小型衛星は人が抱えられるぐらいの大きさ。このサイズが変わってきていることが、今宇宙産業で起こっている大きなパラダイムシフトなのです」

 人工衛星が小さくなり、大量に打ち上げられるようになるということは、「この衛星を宇宙に運ぶためのロケットも、小型で、大量に、安価に打ち上げられるものが必要となる。そんな(ニーズに合わせた)提案をしているのが、インターステラテクノロジズのロケット(「ZERO」)です」(稲川氏)

ロケットの地産地消を目指す

 インターステラテクノロジズの次世代ロケット「ZERO」には、「次世代ロケット燃料」を利用して宇宙空間を目指すという特徴もある。

 これまで複数回打ち上げている「MOMO」の燃料はエタノールなどだったが、「ZERO」ではメタンを主成分とするLNG(液化天然ガス)を使う予定だ。これは「次世代ロケット燃料」といわれ、日本国内でも20年以上研究されてきており、インターステラテクノロジズも、JAXAなどの研究機関と実用化に向け共同研究を進めているという。

 稲川氏は、「ZERO」の燃料に「メタンを使うことには、さまざまなメリットがある」と説明する。

「特に北海道でメタンを燃料にしたロケットをやると非常におもしろい。“ロケットの地産地消”ができると考えています」

 北海道は酪農が盛んだ。人口が5千数百人規模の大樹町にも、牛が2万数千頭ほどと、人間の約5倍も飼育されている。

「その糞尿の処理は大きな問題になっています。処理にはお金がかかるし、垂れ流すと悪臭が問題になりますし、メタンガスを出すのでカーボンニュートラルじゃない。これをロケットの燃料にしてあげると、“ロケットの地産地消”になりますし、(臭いやメタンガス発生など)地域の問題の解決にもつながります」

 SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルなど今の時代に必要なあれこれに配慮をしつつ、地元のガス会社や自治体など、さまざまなプレイヤーと協力しながら開発を進めているのも次世代ロケット「ZERO」の特徴だ。

* * *

 講演の最後に稲川氏は、日本が宇宙ビジネスの世界で勝ち残るためには、「宇宙産業が『夢』の世界ではなく、『新産業』『成長産業』であると、きちんと認識する必要がある」と指摘した。

「ここまでお話ししても、『宇宙は夢でしょ』『儲からない』ということを最後に言われてしまうことがあります。しかし、そんなことを言っているのは、日本だけという状況になりつつあります」

 特に、先行的に宇宙産業への民間参入が進むアメリカでは、「企業価値8兆円とも言われるSpaceXをはじめ、時価総額1千億円を超えるユニコーン企業が数多く出てきている」(稲川氏)。

「こういう風にビジネスとして認識され、証券市場としても売買されているのが現状ですので、こういうところはきちんと認識して、日本としてもどうキャッチアップしていくかを考えることが大事です」

 そのためにも、「宇宙産業にチャレンジし、成長産業をしっかりと取り込める、そんなプレイヤーが増えることが欠かせない」と、宇宙産業への積極的な参画を訴え、この講演を締めくくった。

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