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映像内の個人情報をAIでマスキング〜動画データの利用拡大に向けて

映像の中の個人情報にモザイクをかけていくマスキングAI(提供TRUST SMITH)

映像の中の個人情報にモザイクをかけていくマスキングAI(提供TRUST SMITH)

 ドライブレコーダーの普及が進む中、注目されるのが、いわゆる「ドラレコ特約」の保険商品だ。保険会社が自動車保険契約者にドライブレコーダーを貸し出し、契約者が運転中事故に遭った場合、その映像を保険会社に送信。迅速に事故対応につなげる。

 しかし、ここで問題となるのが個人情報の取り扱いだ。ドライブレコーダーに映り込んでいる、人の顔やナンバープレートなどの情報をどうするか。その問題を解決するのが「マスキングAI」と呼ばれる技術だ。マスキングAIを開発したTRUST SMITH(トラストスミス)株式会社、顧客価値創造コンサルタント 徳海亘奎(とくうみ・こうき)氏と顧客価値創造局長 渡辺琢実氏にお話を聞いた。

 TRUST SMITHは、2019年設立の東大発AIベンチャーだ。同社が展開する「マスキングAI」とは、動画中の人物や車などの映像を認識アルゴリズムにより取り除く技術であり、「個人情報保護法の改正を背景に、利用いただくことが多くなっています。」(徳海氏)

 この技術を利用する顧客のひとつが自動車保険会社だ。マスキングAIによって、ドライブレコーダーで録画した人の顔とナンバープレートの個人情報を自動的に取り除き、モザイク処理を行う。こうすることで、自動車事故が起きた時の証拠映像として幅広く使うことができる。

 このように動画中から個人情報を取り除くことができるなら、その映像の用途は保険会社の事故処理以外にもいろいろと考えられる。ドライブレコーダーの映像には、さまざまな天候や時間での道路状況や周囲の風景が記録されている。こうしたデータは、自動運転などには欠かせないデータであることはもちろん、設備の点検、防災などにも役に立つだろう。

映像や医療の業界からもオファー

マスキングAIの引き合いについて語る徳海氏(提供TRUST SMITH)

 マスキングAIには他業界からの引き合いも増えているという。例えば、日常的に大量の映像編集作業が発生するYouTubeのマネジメント会社からは、動画背景に映り込んでしまった人の顔やナンバープレートに、モザイクをかけたいという要望がある。手作業でやるよりマスキングAIを利用したほうが効率的なためだ。そうなると、当然テレビ制作会社などからも同様のオファーが?と尋ねたところ、「まだレアケースですが今後増えていくと思います」と徳海氏。

 また、医療関係業界からのニーズもある。例えば、診察や治療、手術などの映像を医師や医学部の学生に見せる「教育コンテンツ」として利用したいが、患者個人が特定できる映像は利用できない。だがマスキングAIを使い、自動的に患者の顔にモザイク処理を施せば利用への道がひらける。

「他には、国際的な企業の実証実験映像に使いたいというニーズです。国際間で映像のやり取りを行う際には、個人情報の取り扱いが一層厳しくなります。そこで、映像から個人情報を取り除きたいという相談を頂いているのです。」(徳海氏)

リアルタイム処理も

 同社のマスキングAIには、他の同様の技術と比較したときに3つの技術的な優位点がある。ひとつはその「精度」が高いこと。モザイク処理の精度は、ナンバープレートや人の顔で99%(日中での条件)。さらに「リアルタイム性」があることも特徴で、動画ファイルのフレームレート(1秒間に使われる静止画の数)30fps以下であれば、リアルタイムでの処理が可能だ。このレベルの処理ができれば、生放送でのリアルタイム処理をしたいというテレビ会社の要望にも答えられる。そして3つめの優位点が「柔軟な提供方法」だ。画像データの持ち出し・保存などの取り扱い規定は組織や業界によって異なる。「病院のように、患者の個人情報の持ち出しは絶対禁止。クラウドに上げることすら難しい場合もあります。その場合はローカルで対応できるように、弊社のPCとアルゴリズムを貸し出すという形など、柔軟に対応します」(徳海氏)

 ところで、マスキングAIは、ナンバーや顔ではないものにも対応できるのだろうか。

 TV番組などでは企業ロゴや特定企業の商品などにモザイクやぼかしがかかっていることがある。「こうしたことはできるのでしょうか?」と聞いてみると、現状対応しているのは、人の顔とナンバープレートだけだが、そういった要望があれば「技術的には可能です」と徳海氏はにこやかに答えてくれた。

 徳海氏、渡辺氏に今後の事業展開について聞くと、

今後の展開について語る渡辺氏(提供TRUST SMITH)

「個人情報保護を弊社の技術でしっかり対応することによって、個人情報の保護が約束された上でのデータの利活用を促進できるのではないかと思っています。データの利活用の面では、自動運転、道路の修繕情報といったデータの拡充にアプローチしていきたい。データ拡充によって、自動運転の技術革新に、かなりお力添えできるのではないかと考えています。」(徳海氏)

「国内でこういったアカデミアの技術を事業化しようというのは多くないと思っています。そういったところに価値を創造していくところは、かなり日本全体から見ても価値の大きいことだと思って全メンバーで取り組んでいます」(渡辺氏)

 TRUST SMITHは、アカデミアが持つ技術をマスキングAIという形にした。それを利用し、個人情報保護の点で顧客の課題解決を手伝いながら、最終的にはデータ活用社会のサポートを視野に入れている。

参考:マスキングAIデモ動画(TRUST SMITH提供)

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