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「3ミリ角」で救える命 紫外線LEDを使う浄水の研究

UV-LEDの素子。心臓部はわずか3ミリ角だ。東京大学で(中央、2021年7月12日撮影)。(c)AFPBB News:Yoko Akiyoshi

UV-LEDの素子。心臓部はわずか3ミリ角だ。東京大学で(中央、2021年7月12日撮影)。(c)AFPBB News:Yoko Akiyoshi

【AFP=時事】汚染された水はコレラなどの感染症を媒介し多くの犠牲者を生んできたが、3ミリ角の光源がこの状況を改善できるかもしれない。世界中どこでも必要とされる水の消毒を、小型の紫外発光ダイオード(UV-LED)装置を用いて行う研究が日本と東南アジアを結んで行われている。

「光で水を処理するクリーンなイメージに引かれたのだと思います」と東京大学(University of Tokyo)大学院工学系研究科の小熊久美子(Kumiko Oguma)准教授は語った。試験機の心臓部は3ミリ角のLED素子だ。浄水において一般的な塩素消毒は、水の味やにおいに影響する。紫外線は薬品を使わず、有毒な消毒副生成物もない。さらにUV-LEDは水銀紫外線ランプのような、破損時の有害物質の漏れのリスクもない。

 塩素消毒に加えて紫外線による消毒を導入している浄水場は、全国で408か所(2020年3月末時点)。これらは従来の水銀紫外線ランプを光源とする装置だが、UV-LED装置をすでに実装している公共の浄水場が1か所だけある。鹿児島県の長島町だ。これは世界でも先駆的な取り組みだという。水中のウイルスや細菌などの微生物の遺伝子に紫外線が損傷を与え、増殖を抑えることで感染を食い止められる。

 水が原因で生じる健康被害にはさまざまなものがある。例えばヒ素やフッ素などの土壌由来の地下水汚染などが知られているが、それらの影響は局所的である。一方、水中の微生物による飲み水の汚染は最も原始的かつ普遍的な課題で、汚染された水を飲むことで引き起こされる下痢性疾患の死者は、世界で年間約83万人に上る。特に途上国の5歳未満の乳幼児の死が多い。その問題解決に必要とされるのは消毒技術であり、ここに装置を届けたいと小熊氏は語った。

■理にかなった組み合わせ

 小熊氏は東南アジア諸国で、安全な水へのアクセスの実態調査を行ってきた。中でもフィリピンの調査が印象的だ。商業電源も水道もない離島で、太陽電池と組み合わせた浄水装置の実証試験を行った。

 一般家庭に届く電流が交流電流であるのに対し、LEDは直流電流で駆動し、太陽電池は直流電流を生む。つまり太陽電池でUV-LEDを駆動するのは直接的でロスが小さい。

「太陽放射が高い低緯度地域ほど水に困っているので、太陽光発電と水処理を組み合わせるというのは、非常に理にかなっている」と語る。

 装置の実用化に向けては、雇用を生むなど「現地にお金が落ちるようにしたい」と言う。「善意の寄付は続かない」として、国連(UN)の持続可能な開発目標(SDGs)にもある持続可能性は、ビジネスとして成立するかが鍵だと指摘する。

■タイムリミットを過ぎている

 国連はSDGsの目標6で、2030年までに安全で手頃な飲み水へのアクセスの提供を掲げている。小熊氏は誰一人取り残さず安全な水を配るには、従来のインフラのような大規模集約型の給配水システムは「もうタイムリミットを過ぎている」と言う。

 UV-LEDは小規模分散型の水処理を可能とする。小熊氏はこれを社会インフラの一つと捉え、大規模集約型と組み合わせて初めて、目標を達成できると語る。

 小熊氏が関わる装置のうち、蛇口で使用するものは1セットあたり数万円。UV-LEDの素子の低廉化は続くとみられ、今後、より安価な装置も期待できるという。例えば、蛇口での1分間に2リットルの処理で大腸菌を99.999%不活化することも可能だ。

 日本では8月1日から「水の週間」を迎える。水の問題というと発展途上国を想像しがちだが、小熊氏は「国内でも取り残されかねない人々はいる」と指摘する。水道管の行き届かない山間過疎地などだ。日本の公共水道の普及率は約98%だが、残り2%の人々は集落水道や私設井戸などに頼るしかない。ここで普及率100%を目指すのではなく、小規模分散型の水処理を活用し、すべての人が安全な水を利用できる社会の実現を目指す方が合理的ではないかと考えている。

■つながる縁

 小熊氏の研究室には、フィールド調査の縁で来日した学生の姿もある。フィリピン出身のアキレス・エスパルドン(Achilles Espaldon)さん(42)は、母国ではサン・アグスティン大学(University of San Agustin)の教員として勤務。小熊氏の離島調査に参加した縁で、日本での博士課程進学を選んだ。修了後は同大に戻り、研究活動も大切にしながら教壇に立ちたいという。

 ヴ・ドゥク・カン(Vu Duc Canh)さん(33)も、小熊氏がベトナムの調査で出会った縁だ。現在は、飲み水中のウイルスの感染性の有無を見分ける研究をしている。インドネシア出身のインドラストゥディ(Indrastuti)さん(34)は、農村集落における地下水の微生物汚染を研究。修了後は、公共事業・国民住宅省で職務を再開したいという。

 小熊氏は今後、実証研究を積み上げながら国内・海外の双方でUV-LED装置の実用化を目指す。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件