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オープンガバメントを目指して 日本のDXの課題〜THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2021

パネルディスカッションの様子 左から伊藤穰一、河野太郎、平井卓也、村井純、Jennifer Pahlka(オンライン参加)の各氏

パネルディスカッションの様子 左から伊藤穰一、河野太郎、平井卓也、村井純、Jennifer Pahlka(オンライン参加)の各氏

 8月11日、東京・渋谷で開催された「(主催:株式会社デジタルガレージ)」におけるセッション「デジタル社会・オープンガバメントの目指すもの」に、河野太郎行政改革担当大臣、平井卓也デジタル改革担当大臣が登壇、行政のデジタル化についての展望と課題を述べた。

河野太郎行政改革担当大臣

 今後日本では人口はさらに減少し、働き手である現役世代も激減する。河野大臣は、「人間がやらなくてはいけないことは人間がやり、人間がやらなくてもいいものはAIやロボットにどんどんまかせていく。そして、人が人に寄り添ってぬくもりを大切にする社会を作っていく。そのための行政のデジタル化だ」と行政デジタル化の目的を示した。

 さらに昨年度の特別給付金を例に挙げ、各世帯の収入等をデータで持っていれば、行政機関が、個別実情にあわせたプッシュ型の支援が迅速にできたはずだと振り返った。これまで行政が「かたまり」でしか見られなかった一人ひとりの事情を把握でき、必要な支援ができるようになる。それが行政デジタル化のメリットだと説明した。

「このような話をすると必ず『監視社会を作るのか、個人のプライバシーに踏み込むのか』という意見が出てくるが」と予想される世間の反応について話した上で、デジタル化する前の行政では、物事が起きてからでないと対処できないが、しっかりデジタル化できれば、物事が起きそうな兆候を把握し、必要なところに必要な支援を提供できるはずだと述べた。「行政をデジタル化するということは単なる省人化、省力化、コスト削減ではなく、今までと質の違う行政を行うことであり、平井大臣と一緒に行政のデジタル化に取り組んでいく」とあらためて決意を示した。

9月1日デジタル庁スタートに向けて

平井卓也デジタル改革担当大臣

 バトンを受け平井大臣が登壇、「いろいろな社会問題を解決するために何をするか、そしてテクノロジーをどのように社会実装するか、サスティナブルな社会をどのように作っていくか、そういう議論の中、デジタル庁がいよいよスタートする」と話す。さらに「わが国は世界第3位の経済規模なのに、デジタルの競争力は27位(※編集部注 スイスの国際経営開発研究所(IMD)の発表資料による)まで落ちてしまうのは、デジタル化に対する投資の考え方に問題がある」と、政府や民間のお金の使い方も根本的に変えていくのもデジタル庁の仕事だと述べた。

 さらにデジタル化が進まない要因のひとつとして、サイロ化(各システムが孤立し分断され自己完結した状態)が中央省庁のみならず地方自治体などあらゆる公的機関にも及んでいることをあげた。

「全体のアーキテクチャから見直さなくてはならない。しかし日本はそれが一番苦手なこと」(平井大臣)

 そこで新設されるデジタル庁では多くの民間経験を有する人材を募っている。デジタル庁にはおおよそ300名の官僚と民間からの人材200名程度が参加する。このような官民人材の組み合わせでスタートする役所はこれまでなかった。

 平井大臣も「このまま、部分的に物事を少しずつ改善したり改修したりでは国民に責任が果たせない。日本の大構造改革に取り組んでいく」と話していたが、従来型の官庁組織では難しい仕事に取り組むための第一歩が民間人材の登用となる。

オープンガバメント成功の鍵は

Audrey Tang台湾デジタル担当大臣

 このあとは河野、平井の両大臣に、慶応大学の村井純教授、 米国のNPO「Code for America」創業者ジェニファー・パルカ (Jennifer Pahlka)氏、 そしてモデレーターの伊藤穰一(デジタルガレージ共同創業者 取締役)を加えたパネルディスカッションが、さらに続いてオードリー・タン (Audrey Tang)台湾デジタル担当大臣、さらに米国連邦政府内のデータラボ「xD」共同創業者ケイト・マッコール-キリー (Kate McCall-Kiley)氏が参加したパネルディスカッションも行われた。

 この2つのパネルディスカッションでも話題となったのが、民間からのデジタル人材採用の件だ。

 日本の国家公務員にはこれまで「デジタル職」という採用枠がなかった。官庁のシステムは、出向者やアドバイザーとして存在する民間人のアドバイスを取り入れながら開発・運用するが、責任も権限もないそうした外部人材にできることに限りがある。

「Code for America」創業者Jennifer Pahlka氏

 そこで今回発足するデジタル庁では、前述のように民間人材を積極的に登用する事になっているが、そこにも課題がある。一定の技術レベルにある専門職は公務員になることで給与が下がってしまうため、公務員になることを躊躇することがあるという。そこで、非常勤や週2日稼働のような柔軟な働き方を導入するなど、雇用形態で工夫をしているがここが民間人材を集める上での採用上のボトルネックになっているという。

 米国では日本に先立ち、システムやデザインの知見を持った民間のITエンジニアたちを政府が登用してきたが、その人材の供給源のひとつがジェニファー・パルカ氏のNPO「Code for America(以下 CfA)」だ。

 CfAには、全米から人材が集まっており、その中にはグーグルなどの巨大企業でエンジニアとして高給を得ていたような人材も多いという。そして「給料が安いから優秀な人は来ないということはありません」(ジェニファー・パルカ氏)と政府の仕事が大切だと思う人は少なからずいるとの認識を示した。

「xD」共同創業者Kate McCall-Kiley氏

 また、オバマ政権下でPresidential Innovation Fellowを勤めたケイト・マッコール-キリー氏も、最初は1年限りのプログラムで採用された人も「(政府内で)仕事を始めるとインパクトを与えていることに気がつく。そしてもう少しやりたいと思い足を踏み入れて行く」と、官庁での仕事には給与だけではないやりがいがあることに気づき、政府の仕事を続けている人々がいることを話した。

 オードリー・タン氏も自身、民間のエンジニアから台湾のデジタル担当大臣として官に登用された人材だ。この日のパネルディスカッションでは、台湾での新型コロナウイルス対策を紹介したことに加え、政策を立案、推進するにあたっては、「迅速(FAST)」「公平(FAIR)」「楽しさ(FUN)」を意識した国民とのコミュニケーションが必要だと述べた。こうした発想は、顧客と向き合う民間人材では至極普通のことだが、失敗しないことを前提とした日本の官僚にはないものだ。

 民間の人材を登用することと並んで、日本国政府DXの大きな課題は「オープン化」だ。

 パネルディスカッションの中で平井大臣は、これまで各官庁が個別に作り上げてきたシステムは「サグラダファミリアのようで全体像が把握できない」と現状の課題を説明した。一方で河野大臣は、市区町村と都道府県、そして政府がオープンに情報共有するワクチン接種の管理システムについて、ワクチンの配布状況を共有することで有効な議論が生まれ、現状が改善されていくなどオープン化がもたらす効用を実感していることを話した。

慶応大学の村井純教授

 2000年代の初頭から長く政府のデジタル化に関わってきている村井氏は「『オープンソース』と『オープンガバメント』のアナロジー(類似性)はおもしろい」と述べた。オープンソースのソフトウエアがそうであるように、はじめからオープンなものは、多くの人が見ている中で進行するので、透明であり、間違ったことは修正されていくのでトラスト(信頼)が得られるという。そして「そういう組織が行政でできるのか?最初からオープンでやる今回のことはひとつのチャレンジになる」との期待を示した。

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