コロナ感染拡大で外出が制限されて以降、さまざまな分野でオンライン・サービスが立ち上がった。フィットネス市場も例外ではない。新たなオンライン・フィットネスのサービスが続々と現れたが、その中で快走するのが、SOELU(ソエル)株式会社(本社・東京都港区)が展開する「SOELU」だ。SOELUはなぜ競合サービスを圧倒し、ユーザーの支持を得ているのか。代表取締役 蒋詩豪(しょう・しごう)氏に話を聞いた。
第3のフィットネスとは
「『第3のビール』にあやかって、われわれの事業を『第3のフィットネス』と呼んでいます」と蒋氏は話す。
従来のフィットネスは、大きく分けて「店舗型のフィットネス空間(スタジオ)を提供する事業者」と「 DVDやネット動画を参考に自宅でできるフィットネスを提供する事業者」の2つがある。そのふたつの“いいとこ取り”をしたのがSOELUの「おうちLIVEフィットネス体験」だ。
その特徴は、自社開発のビデオ通話システムを使いライブでのオンラインレッスンができること。そして、参加予約にあたっては「ポーズチェック枠」と「ギャラリー枠」のどちらかを選択する。「ポーズチェック枠」ではインストラクターから直接指導が受けられる。自分の様子が、インストラクターからは見えており直接会話も可能だが、自分の様子が他の参加者から覗かれることはない。
一方、「ギャラリー枠」は同時に300名まで参加可能だが、インストラクターから参加者は見えない。個別指導はないが、参加者はインストラクターのライブでの指導に従って受講をする。
「ライブレッスンだからこそ、ユーザーは自宅に居ながらにして、スタジオと同じかそれ以上のスティッキネス(stickiness 粘着性)を得ることができます。要は『最後までやりきれる体験』こそが我々の強みかと思います」
蒋氏は、運動の習慣をつけるためには2つの要素があると話した。ひとつは「手軽さ」。もうひとつがこの「スティッキネス」で、この場合は“ほどよい強制力”を意味する。この相反する2つの要素を同時に実現しているのが「おうちLIVEフィットネス体験」だ。
ところで、オンラインということでの「手軽さ」は理解できるが「スティッキネス」はどうして生まれるのか。
「例えば、YouTubeだと手軽すぎてスティッキネスは生まれません。しかしオンラインライブだと『せっかく予約したのだから』とか、『(予約時間枠に)入ったなら退出するのは申し訳ない』という気持ちがユーザーに働くのです。ある種のサンクコスト効果(費やした労力やお金、時間などの惜しさが意思決定に影響を与えること)かなと」
顧客の8割が年間契約を選ぶ仕組み
SOELUの主なユーザーは、リアルのフィットネスクラブだと解約率が高い30代~50代の女性だ。この層は、仕事や子育てなどライフステージの変化が激しいため、そもそも年間契約をしない層なのだが、SOELUではこのユーザー層の8割が年間契約をしている。
その理由は、顧客のライフステージの変化に寄り添うようなサービス設計となっていること。例えば、休会3カ月間は無料となっている。また、マタニティヨガのプログラムも用意されているので、年間契約の途中であっても出産前はそこに参加し、出産後の体がつらい時期は休会。その後は産後ダイエットと利用すれば、契約期間を無駄なく活用できる。さらに子育て期は、時間が自由にならないが、SOELUでは朝5時から26時までプログラムを用意している。
「お金はちゃんと払っているし、先生は画面越しで待っていてくれるし、予約もしている。スティッキネスが働くのです」(蒋氏)
後発が追いつけない規模に
月間6,000本、1日200本の圧倒的な数のライブレッスンがSOELUの強みだ。
「後発の競合には1日20~30本程度しかレッスンがない。今から1日200本のレッスンを揃えようとしても無理です」と。なぜなら、仮に今から参入しようとしてもインスタラクターの確保が難しいだろうというのが蒋氏の読みだ。スキルが高く、自身で動画配信を設定するリテラシーを持ち、指導するスペースが自宅にある人材。「これに当てはまる人は少ないのです。われわれは、今300名ほど独占契約していますが、同じ規模感での採用はできないと思います」
「最初は原価率800%とか1000%みたいな時期が最初の頃はありました。しかし、1日最低でも50本か100本レッスンを揃えないとユーザーも満足できません。『自宅でやるのに何で21時からのレッスンしか選べないのか』となってしまうので、そんな気持ちを早くつぶさないと」
レッスン数を増やすため、インストラクター確保の経費は先行投資と割り切り、予約が入らなくても満額の支払いを徹底したという。
先生と生徒の間で予約が成立したら手数料20%をもらうといったビジネスモデルもあり得ただろうし、その方が初期のリスクは小さくなったはずだが、「そうすると先生は、自分の稼働が安定しないのでレッスン料金を高く設定し、ユーザーからみても割高になります。それだったらリアルの方がいいとなる。C2CではなくてB2Cに意志決定したのがよかったのかな」と蒋氏は振り返った。
SOELUを大きなウェルネスブランドに
SOELUは、2018年からオンライン・フィットネス市場に本格参入している。当時はほとんど競合のない状態で、まだブルー・オーシャンだった。
今後の戦略を聞くと、来年大きめのファイナンスを検討しており、そこからIPOというスケジュール感だと蒋氏は答えた。会員増はもちろんだが、「SaaS+goods」モデルという展開を考えているという。
米国にはアップルの「iPhone+アップルの月額課金サービス」のように「最初にハードウェア購入」そして「その機器を利用するソフトやサービスへの課金」というパターンの「SaaS+a box」というビジネスモデルがある。オンライン・フィットネス市場でも、住宅用エアロバイクを購入し、その後追加機能やフィットネスレッスンへの参加費を徴収するビジネスモデルで注目されたPeloton(本社・ニューヨーク)がある。
しかし、これとそっくりそのままのビジネスモデルでは、日本でうまくいかないのではないかというのが蒋氏の読みだ。
初期投資ナシで気軽に始めたい。しかし、始めたら次々と関連商品を買ってしまうのが日本人ユーザーだ。オンライン・レッスンを続けていくうちに、ヨガマットやウェア、プロテインなどを買いたいという欲求が湧き出てくるだろう。そこで日本では「SaaS+goods」モデルというわけだ。
手始めの商品として、プロテインの販売を11月25日に予定している。「ECモールやリテールにも出していきたい。そこからオンラインフィットネスに入ってくる人もいるかもしれません」(蒋氏)
フィットネスのスタジオ事業から、「心と体に寄りそう」そして「ライフステージに寄りそう」ウェルネスブランドとして複数の事業領域を展開し、クロスセルを狙う。ファイナンスで得た資金で、ブランドの認知度・好感度を上げていき、そしてその先はウェルネス領域でのエコシステムを作り上げたいと蒋氏は結んだ。
※SOELU株式会社は、DG Lab Fundの出資先の一社となります。DG Lab Fundは、株式会社大和証券グループ本社と株式会社デジタルガレージのジョイントベンチャーである、DG Daiwa Venturesが運用しております。