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ともに成長できるパートナーとなる中国スタートアップと出会う 

上海DFRobotの深セン訪問に際して、M5Stack、Elephant Roboticsなどの当社(株式会社スイッチサイエンス)取引先を集めた会食。30名以上のハードウェアスタートアップが集合

上海DFRobotの深セン訪問に際して、M5Stack、Elephant Roboticsなどの当社(株式会社スイッチサイエンス)取引先を集めた会食。30名以上のハードウェアスタートアップが集合

 前回の記事で紹介したように、中国の成長に伴って、外国人の役割は「指導・管理者」から「パートナー」に変わりつつある。

 中国でビジネス開発をする立場から見ても、以前は「低コストの外注先」を探していたが、現在は「一緒に成長できるパートナー」を探す形に変わってきている。筆者は深センをベースにIoT開発ツール関係のビジネス開発をしているので、新しい協業先を探すのは大事な仕事だ。近年は特にスタートアップとの協業が増えている。

パートナー探しのポイントは

筆者(左)とロボット用モーターで起業した東莞のスタートアップの2人(中央・右)
筆者(左)とロボット用モーターで起業した東莞のスタートアップの2人(中央・右)

 筆者が、中国(深セン)でパートナーを探すにあたってのポイントがいくつかある。

 ポイント1は、候補となるスタートアップが出す製品が、かつて中国が得意としていた、高級品を工夫によって安くしたものではなく、独自性のある製品であるかどうかだ。モノにあふれた現代では、革新的な製品を作ることより、それを売ることのほうが難しい。そのため、独自性がある製品の方がよりマーケティングに工夫が必要だ。ゆえにそういった製品を出しているスタートアップは、協力して売っていくパートナーを必要としているため、よい協業相手になりえる。

 ポイント2は、その製品に対する日本の「尖ったコミュニティ」の支持とその熱量。意外に思われるかもしれないが、日本の技術コミュニティの意見や支持は、新しい製品を評価する上でとても参考になる。日本は新しいものを試したがるギークやエンジニアが多く、新しいコンセプトの製品が最初にヒットすることが多い。

 例えば、VRゴーグルのデファクト・スタンダードとなったOculus Riftでは、まだ黎明期の2014年、当時のOculus VR社CEOパルマー・ラッキー氏が「日本向けの出荷を優先する」と発表したことがある。Oculusは米企業でパルマー氏もアメリカ人だが、それまでに日本の開発者たちが作っていたコミュニティと多くのプロジェクトがパルマー氏を惹きつけていた。つまり、世界でもまだシェアが確立していないものに目をつけて、コミュニティを作る力が日本のユーザーにはある。

 中国のスタートアップが画期的な製品をリリースした時、日本でそれをどんなコミュニティがどのように受け入れているのか。またその熱量は、今後高まるのかどうかを追いかけ続けることは重要だ。

一緒に成長していける相手を見つける

 ポイント3は、一緒に成長しコミュニティを作っていけるかだ。日本では受け入れられているが、世界ではまだそれほどでもない製品を生み出しているブレイク前のスタートアップと付き合い、一緒に成長していくことを目指す姿勢はもっとも重要だ。ここが一番のポイントかもしれない。その例を挙げよう。

 以前の記事で紹介した深センのスタートアップM5Stackは、日本のコミュニティ支持がきっかけで筆者が開拓した当社の取引先だ。最初の取引が始まったのは2018年。当時、日本が世界シェアのかなりの部分を占めていた。その後売上は拡大しているが、2020年時点でもなお日本のシェアは30%だ。こういう会社とはパートナーシップが結びやすい。まだ開拓の余地があるマーケットを残していると、こちらからのフィードバックも歓迎される。

 反対に、すでに売れることがわかっている製品を出している企業にとっては、パートナーはどこでもよく、差別化のポイントは販売網や予算の大きさで、並行輸入含めた利幅を削り合い勝負になる。筆者のようなスモールプレーヤーだと、そこでは工夫がしづらい。それに、すでに売れている製品だと、決まったマーケティングプランをローカライズして実行するだけになってしまう。こうなってくるとパートナーというよりも下請け業者といった感じになる。

CEOが現場にいることの利点

M5StackはCEOのジミー・ライ(左から二番目)が自らマーケティングをしている段階
M5StackはCEOジミー・ライ(左から二番目)が自らマーケティングをしている段階

 3つ目のポイントについて、少し付け加えたい。スタートアップでは一人が何役もこなす。PRやコンセプト決定のような仕事は、しばしばCEOが自ら担当している。こうした段階にあるスタートアップと一緒に動くことは、協業するこちら側にとっても成長の機会となる。

 CEOは「変革」させることが仕事で、新しいアイデアや試みを歓迎する。意欲のあるCEOとマーケティングプランを一緒に作っていけるのは、その後に向けて貴重な経験になる。

 深センのスタートアップは成長が早く、2-3年で会社が成長して軌道にのる。そうなると、その後は各部門でプロフェッショナルが雇用されて、全体計画をこなすのが毎日の仕事になる。ゆえにそうなる以前、CEOを始めとする創業メンバーたちと仕事した経験は、貴重なものとなる。

M5Stackがスイッチサイエンスなどと日本で展開したプロモーション活動を紹介する動画

成功体験は業界内でシェアされる

 パートナー探しのポイントは上記の3つだが、良いパートナーに巡り合うと、その後のパートナー探しもうまくいくことも紹介したい。

 M5Stack の売上は、創業以来順調に成長している。日本での伸びももちろんだが、特に世界市場での伸びは始まったばかりで、今から加速がつく段階といえる。この成功は業界内でシェアされ、他の投資先やパートナーなどから筆者に、成功の理由についての問い合わせや、マーケティングについて協業依頼が来ることも増えた。さらに、成功のプロセスをともに作り上げ、体験したことにより、新たな取引企業を紹介してもらうチャンスも増えた。

 M5Stackは中国企業だが、サンフランシスコのSOS Ventures、その支配下のハードウェア専門アクセラレータHAXなどの投資を受けている。また、地元中国でも上海のチップ企業Espressifなど、関連会社との資本関係を築いている。今年から当社で新しく取引が始まったロボットアームの企業Elephant Roboticsとの付き合いは、そうしたネットワークから生まれたものだ。

イベントで製品を紹介するElephant RoboticsのCEOジョーイ

* * *

 最初にパートナーとなった企業が成功し、プロダクトの市場での立ち位置も見えてきて試行錯誤することが減ってきた頃に、新たなパートナーとの関係が始まる。こうした好循環をえるためには、有名になったものを後から追いかけるのではなく、まだ知られていない製品や活動を、同好の志と共に探し、広め続ける姿勢が大事だ。うまくいくものばかりに飛びついていると、いつかは市場の変化に置いていかれる。

 海外でのパートナー探しは、そもそも日本にないものを探しにいく行為だ。まだ評価の定まっていない、新しい企業に注目して、一緒に伸びていく行為を続けることが、継続的な成功のためには重要だ。

Written by
オープンソースハードウェア、メイカームーブメントのアクティビスト。IoT開発ボードの製造販売企業(株)スイッチサイエンスにて事業開発を担当。 現在は中国深圳在住。ニコ技深圳コミュニティCo-Founderとして、ハードウェアスタートアップの支援やスタートアップエコシステムの研究を行っている。早稲田大学ビジネススクール招聘研究員、ガレージスミダ研究所主席研究員。著書に第37回大平正芳記念賞特別賞を受賞したプロトタイプシティ』(KADOKAWA)、『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など。