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スタートアップを組み込んだエコシステムを活かす 「Made in China」から「Design in China」へ 

Feetech CEOの馮さん。お茶を楽しみながらもサーボのカスタマイズについて話す

Feetech CEOの馮さん。お茶を楽しみながらもサーボのカスタマイズについて話す

 半導体不足が一向に解消しない。アップルでさえもその影響が及び、新商品の納期が伸びているという。ところで、そのアップル製品の箱には「Designed by Apple in California, assembled in China」と記載されている。これは「中国ではデザインしていない」というメッセージだ。しかし、むしろ今は「中国でデザインしている」会社が好調だ。

 筆者の知る多くのスタートアップは半導体不足もなんのその、2021年後半は過去最大の製造を行っている。部品不足に悩む企業と抜け出した企業。この差はどこで生まれたのだろうか。

テスラは中国での生産を更に増やしている

以前の記事でも紹介したが、小ロット製造を行うスタートアップは、日米欧製品の買い占めに走るブローカーと競合し苦戦してきた。だが、この半導体不足は「まだまだ続く」と見越して中国製の半導体や部品を採用するため、素早く設計変更を完了させ増産体制を整えた。こうした身軽な動きができるスタートアップに共通するのが「Made in China」でなく「Design in China」を実践していることだ。

 「部品の現地化」を含めて、中国のエコシステムを利用して設計・製造することを表す言葉が、「Design in China」だ。こうした傾向はスタートアップから広がり、徐々に国内資本、外資問わずに大企業にも広がりつつある。中国国内の報道によると、上海に「ギガファクトリー」を構えるテスラも、入手性を重視し複数のマイコンボードを使うなどして、生産量を保持していると伝えられている。

 1980年代の改革開放直後は、設計・材料・製造装置すべてを日本などの外国から輸入し、製造品は外国に輸出していた。中国の工業化は、労働力を提供するだけの「来料加工」から始まった。しかし現在では、多くの分野で「中国で設計を行ったほうが、手に入る部品の選択肢が多い」という段階にきている。

中国の部品メーカーが中国のスタートアップを助ける

 筆者は深センをベースにしながら、IoT開発ボードの日本への輸入を行っている。ここ数年は開発ボードの他に、サーボモーターやセンサーなどの部品も取り扱っている。

Feetech社のサーボモーター。大型のものはピーク時120kgトルクを出す

 取引先のひとつFeetechはサーボモーターを得意にしている会社だ。モーターに、マイコンからコマンドを送って回転速度や回転速度を制御するサーボモーターは、ロボットや製造設備には欠かせない。

 2011年創業のFeetechは、当初はシンプルなサーボモーターを手掛けていたが、近年はロボットで使うようなハイパワー・高精度でシリアル接続可能な大型サーボを開発している。日本や欧米の同種のものに比べて数分の一という低価格を武器に、日本での販売も拡大しつつある。

 同社の製品は、メカ部分の精度は世界の一流品に比べるとまだ劣る印象だ。しかし、安価でありながらシリアル接続が実現できるため、結果として「同じ価格帯なら中国製のサーボを使ったほうがクオリティをあげられる」という状態が起きている。また、コンピュータ制御の能力が向上するとサーボモーターの性能もアップするため、短いサイクルで新製品を出す中国のメーカーは、ムーアの法則による性能向上の恩恵をより大きく受けることができる。

 Feetechの特徴は、深セン企業ならではのフレキシビリティだ。中国でロボットを作っているスタートアップの多くがFeetechのサーボを採用している。例えば、Kickstarterでのクラウドファンディングで、500を超える支援者を集めた小型の犬型ロボ「Minipupper」は、12個のFeetechサーボを使用している。ということは、支援者と一般販売分の台数を作るためには5000~1万というサーボを発注することになる。Feetechはこうしたスタートアップ向けに、サーボのカスタマイズや調整を行っている。

 サーボは、モーターにギヤとマイコンを組み合わせることで構成される製品なので、「スピードを上げるとトルクが下がる」などの性能はトレードオフになるし、「何かしら抵抗があって動かない場合、どこまで電流を増やして力を出そうとするか」などは最終製品ごとに最適化の余地がある。専用の部品を使えるほど製造ボリュームのないスタートアップは、市販のサーボを購入して自社製品に組み込むのだが、その際に、サーボの開発元と交渉して自社製品に最適化したサーボを入手できれば、アドバンテージは大きい。

黄色い小型犬ロボMinipupperを開発している北京Mangdang社の甘CEO。調整のためにFeetechのオフィスに日参

「中国でないと作れない」ものを作る時代に

 こうした細かいカスタマイズを可能にしている要因のひとつは人件費の安さだが、それ以上に中華系企業の意思決定フローが日米の企業のそれと異なることが大きな役割を果たしている。つまり、Feetechのような中華系企業も、テスラや日系の企業も、中国国内で事業をするなら人件費は大きくは変わらない。だが、顧客にあわせた細かなカスタマイズに対応するのが中国の企業ばかりなのは、CEOが自ら技術者でリスクのある決定を自分で下せることが大きい。

 筆者はFeetechをしばしば訪問するが、そのたびにCEOの馮氏は「こんなロボットを作る人が、自分のサーボを使ってくれた」と、カスタムの活用事例を見せてくれる。量産品でなくカスタム品になると、それに合わせた検品の仕組みや安全基準も作る必要があり、製品開発のリスクは増大する。

 中国の安全基準や、品質へのこだわりが“ユルい”ことも大きく関係しているだろうが、このように開発面でCEOがリスクを取った意思決定ができることが、特に深センでのモノづくりをよりフレキシブルにしていることは間違いない。

 今の中国は、すでにコストが安い国ではなくなりつつある。現在の中国の武器は、過去数十年間に集積された産業群と、この数年のスタートアップブームで生まれた多くの若い企業がオープンなエコシステムを作っていることだ。スタートアップは、クラウドや統合システムといったソフトばかりでなく、サーボやバッテリーといったハードでも存在感を示している。そして、企業同士が系列に縛られずオープンに連携をしている。

 「Made in China」は、安さが武器だった。今、「Design in China」は ここでないと生まれない製品を作る」という意味に進化しようとしている。

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