中国は世界最大のスマホ大国だ。そして中国のスマホは多様化し、ニッチで変わった機能のスマホが百花繚乱している。
大手各社が相次いで折りたたみスマホを発表
2018年、深センで折り曲げられる液晶パネルを製造しているRoyoleが同社の液晶を搭載した折りたたみスマホFlexPaiを発表した。翌年、韓国サムスンからGalaxy Fold、アメリカ政府による制裁前は中国を代表するスマホメーカーだったファーウェイからもMate Xが発売された。いずれもUSDベースで2000ドル近辺の高額なスマホシリーズで、市場で大成功したとは言い難いが、メーカー各社に与えたインパクトは大きかったと見えて、2021-22年にかけて、折りたたみスマホ市場に多くの会社が参入するに至った。
2021年には、ファーウェイの制裁後に中国で1、2を争うスマホメーカーとなったXiaomiとOppoから、Xiaomi Mi Mix Fold、Oppo Find Nという折りたたみスマートホンが発売された。ファーウェイ、サムスンも引き続き新型を発表しているので、折りたたみスマホというのがひとつのカテゴリになったと言えるだろう。
価格も発売のたびに低価格化し、2021年12月発売のOppo Find Nは1500ドルほどとなっており、アップルのiPhone 12 Max Proなどと変わらない価格帯になりつつある。
発売されるたびに洗練される折りたたみスマホ
新製品に搭載された機能でヒットしたものは、あっという間に他社も追いかけてくるのが中国の技術開発だ。価格が安くなった他に、新機種が発売されるたびに様々な「折りたたみスマホならではの機能進化」みられる。以下に列挙してみよう。
- 閉じたときでも開いたときでも使えるように、背面にも液晶を(2019年のMate Xs以降)
- 開くとAndroidタブレット/Android PCとして起動して、マルチアプリが使いやすくなる(2021年のMi Mix Foldの機能)
- 開くとインカメラが外側を向いてしまうため、インカメラを2つ(2021年発売のFind Nに初めて搭載、2022年発売のHonor社、Honor Vでも同様のカメラ配置になる模様)
また、よく見る大画面を横に折りたたむスマホの他に、ガラケー時代のように縦に折りたたむスマホも出てきた。
使って感じる“発展途上”
筆者自身はXiaomiのMi Mix Foldを2021年3月の発売直後に購入し、メインのスマホとして使っている。広げると8インチ4:3対角の大画面となり、Kindle書籍を読むときや、ミーティングや会食中、打ち合わせ相手に写真やSNS画面を見せるときなどに非常に便利で、「次も折りたたみスマホにしよう」と思うぐらいには気に入っている。発売当初の1万元(約18万円)近い価格も、ずっとスマホを使って技術の仕事をしている自分としては許容範囲だ。
ただ、「人に見せる」時以外はほとんど閉じたまま使っているのだが、その場合は6.52インチで27:9という極めて縦長の画面になるので、スマホアプリ利用時にはボタンが隠れたりする。広げると「タブレット」という扱いになるので、スマホアプリやweb画面の再起動が必要になることが多く、入力途中のデータが消えて落胆することも多い。また、閉じた状態のインカメラは開くと使えないので、タブレット型の開いた画面で入力最中に、本人確認などでインカメラが必要になったときには、画面を閉じなければならず、再読み込みになり入力内容が消えてしまう。
そのせいか、後発で2021年12月発表のOppoのFind Nでは縦を縮めて、画面は小さくなったものの「よくある対角」になり、「開いたらタブレット扱い」もなくなり、開いた状態でもインカメラが使えるように、「アウトカメラ」「閉じた状態用のインカメラ」「開いた状態用のインカメラ」とカメラユニットそのものが3つ搭載されるようになった。未発売のHonor Vも同様の構成になるようだ。
ところで、こうしたスマホの販売実績としては、例えば2021年12月に発表されたOppoのFind Nの場合、中国大手ECサイトのJD.comで1ヶ月2.2万台の販売だったそうだ。日本製品の例で言えばシャープのロボホンは1.5万台、SoftBankのロボットPepperが合計2.7万台らしい。Oppoなどにとっても、これらの折りたたみ式スマホは主流というよりも大掛かりなPoC(概念実証)みたいな考え方に基づくものだろう。
筆者のまわりもテクノロジー好きが集まっているが、折りたたみスマホを実際に使っているのはごくごく一部で、発売1年後の今も珍しがられている。
Mixシリーズは技術デモ的な位置づけ
飽和した市場で富裕層や、尖ったマニアに向けて実験的な製品開発が行われることはよくある。クルマ市場でのスポーツカーやモータースポーツのようなものだ。メインストリームになることはないが、そこに向けた技術開発は主力製品に生かされる。
Xiaomiのスマホシリーズの中でもMixシリーズは当初から実験的なシリーズで、Mix、 Mix2はイタリアの有名デザイナーであるフィリップ・スタルクと全面協力し、「デザインスマホ」として人気を博した。2018年のMix3からはデザインというよりも機能の面で変わり種を押しだし、「インカメラは本体に格納されていて、撮影時だけ飛び出す」という構造を採用した。2019年のMix Alphaでは液晶画面が本体を回り込む(ウラ面までひとつづきになっている)構造で2万元(約38万円)という高価格で実験的なスマホを発売、折りたたみのMix Foldに続いて2021年8月に発売されたMix4では、画面の裏側にインカメラを仕込み、ノッチもパンチホールもない全画面スマホを実現した。
筆者が所有しているMix Foldでも、折りたたみの他にXiaomi自社開発の画像処理チップ、液体レンズ(液体でできたレンズが物理的に変形することで、焦点距離を変えられる)などの新機能が搭載されている。どちらもカメラ画質が売りのXiaomi 11 Ultraでは搭載していないので、こちらも「実際の効果というよりもとにかく先進的な機能を搭載した」という位置づけだろう。
Mix4で実現したディスプレイ裏カメラも、画面の裏に仕込んだため、」撮影できる写真のクオリティには限界があり、いくつかのサービスで本人認証(KYC 、Know Your Customer)が通らないという問題が出てきているようだ。
いずれも多少のデメリットを乗り越えて新機能を試したがる“好きモノ”を対象にしているのが伺える。
飽和した市場 国内向けの高級機を生む
中国では、すでにスマホは普及しきっており、今狙うのは買い替え市場だ。また、中国では通信料もSIMカードも極めて安価で、2台目の市場もありえる。筆者もアパートでは中国電信のブロードバンド(ADSL)を契約しているが、月に129元(2000円ほど)の契約に5G通信のSIMカードが3枚ついてきて、合計70Gまで通信できるため、複数の通信端末を持ち歩くようになった。
そのひとつは山東省の電機メーカーハイセンスのスマホA7CCで、こちらはディスプレイ全体が電子ペーパーのスマホだ。アマゾンのKindleなど読書端末に使われている電子ペーパーでは表示中は電力を消費しないので電池持ちがよく、反射光で情報を表示するために目に優しい。しかし書き換え速度は、液晶LCDや有機ELに劣るため、ゲームや動画には対応できない。A7CCはチップセットも中国UNISOC/紫光集団のものを搭載しており、通信のバンド幅も中国以外の国での利用は想定していないものだ。こうした尖った製品が出ることが中国市場の成熟を示している。これまで紹介してきた折りたたみスマホもほとんどが中国市場だけで展開されていて、日本で販売されているのはサムスンのものぐらいだ。
中国経済の全体的な成長そのものはかなり鈍っているが、貧富の差は拡大し、中間層や富裕層は増えている。かつては高級機種=海外向けだったメイドインチャイナは新たな局面を迎え、今後も尖った製品が出てくるだろう。