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水中の「生物音」収録 大規模データベースを構築 国際研究

地中海コルシカ島の中心都市アジャクシオ沖で、音に対する魚の動きと反応を360度カメラで記録する研究チームのダイバー(2019年9月12日撮影、資料写真)。(c)Boris HORVAT : AFP

地中海コルシカ島の中心都市アジャクシオ沖で、音に対する魚の動きと反応を360度カメラで記録する研究チームのダイバー(2019年9月12日撮影、資料写真)。(c)Boris HORVAT : AFP

【AFP=時事】海洋学者らが地中海の海底で録音を始めると、カエルの鳴き声のような謎の音をマイクが拾った。音は生い茂った海草の中で鳴り響いている。他の場所からは聞こえない。

 仏研究機関、地中海環境教育研究センター(CEFREM)の生態音響学研究者、ルシア・ディ・イオリオ(Lucia Di Iorio)氏は「30か所以上で録音を行いましたが、その音は毎回、聞こえました。クワクワクワというこの音を発している生物が何なのか、誰も分かりませんでした」と話す。

 この音を発している生物の正体を突き止めるには、3年かかったという。

 美しい音色のクジラの鳴き声は、世界の水中生物圏の心地良い音としてよく知られているかもしれない。だが、ホウボウ類の魚が発するかすれたうなり声や、ピラニアが出すリズミカルなドラム音は、ほとんどの人が耳にすることはないだろう。

 海中では「ブーン」「ピューピュー」「キーキー」といったさまざまな音が聞こえる。こうした海中の音のデータベースを世界規模で構築しようと現在、世界9か国の専門家らが取り組んでいるのが「水中生物音のグローバルライブラリー(GLUBS)」と呼ばれるプロジェクトだ。

 GLUBSでは世界各地の録音データを集め、人工知能(AI)や在野の科学者らが利用するスマホアプリ向けに開放しようとしている。

 GLUBSの取り組みは、急速に進んでいる海洋の「音環境」研究の一環だ。特定エリアのあらゆる音を収集し、生物の種類や行動、全体的な多様性などに関する情報を把握する。

 学術誌「フロンティアズ・イン・エコロジー・アンド・エボリューション(Frontiers in Ecology and Evolution)」に最近発表された論文の筆頭執筆者で、オーストラリア海洋科学研究所(AIMS)のマイルズ・パーソンズ(Miles Parsons)氏は「生物多様性が世界中で減少傾向にあり、水中の音環境も人類の影響でどんどん変化してしまっている。音を発生させる生物が消滅してしまう恐れもあり、その前に音の発生源を記録し、定量化して理解する必要がある」と指摘した。

■音の「バーコード」

 科学者は、海に生息する哺乳類126種すべての他、水生無脊椎動物100種以上、魚類約1000種が音を出すと考えている。

 ディ・イオリオ氏は、AFPに「水生生物の出す音の周波数、リズム、拍子の数などは、種によって異なります。それぞれ固有です」と語る。「まるでバーコードのようです」 

 科学者はこれらの音だけで、何科の魚かを識別できる。世界規模のデータベースが構築されれば、例えば地中海に生息するさまざまなハタ科の魚の鳴き声を、米フロリダ州沖のハタ科と比較するといった調査も可能になるだろう。

■謎の音の正体

 海底で聞こえるカエルに似た奇妙な鳴き声を何か月も調査した結果、ディ・イオリオ氏の研究チームはその正体がカサゴ類の魚であることを突き止めた。

 さらに研究室で解剖してみると、この魚には胴に沿って腱(けん)が張っていることが分かった。

 この筋腱を収縮させて音を出しているというのが、チームの立てた仮説だ。「ギターですね。水中のギターです」と、ディ・イオリオ氏は説明した。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件