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プリミティブな浄水装置で変える途上国の暮らし ヤマハ発動機

セネガルで活動する金丸正史氏(右、2018年4月14日撮影、提供写真)。(c)ヤマハ発動機

セネガルで活動する金丸正史氏(右、2018年4月14日撮影、提供写真)。(c)ヤマハ発動機

【AFPBB News】最先端のエンジンを開発・製造し、船外機や二輪車で世界的なシェアを誇るヤマハ発動機(Yamaha Motor)。そんな日本を代表するメーカーが、ハイテクとは懸け離れた、自然の原理を利用したプリミティブ(primitive=素朴な、基本的な)な技術を使った浄水装置ビジネスを開発途上国で展開している。

 ヤマハ発動機が自社開発したのは「ヤマハクリーンウォーターシステム(Yamaha Clean Water Supply System)」と呼ばれる小型浄水装置。2010年以来、アジア・アフリカの水資源に乏しい地域に安全な飲み水を届けている。

 同社が水ビジネスに取り組み始めたのは1980年代。二輪車の自社工場があるインドネシアで、「水道水が茶色く濁っている」という苦情が駐在員から寄せられたのを受け、家庭用浄水装置の開発を始めた。 同社が持つ既存の技術を一切使わない新規事業だった。

 2000年には、浄水器が買えない低所得層の多い農村部に水を提供するため、河川水を利用した浄水装置の独自開発に着手。インドネシアでの販売を皮切りにグローバル展開し、アジア・アフリカの15か国で42基が稼働中だ。現在の利用者は推定4万2000人に上る。

■「ローテクとは思わない」

 ヤマハ発動機が採用したのは、自然界の水浄化機能を活用する「緩速ろ過方式」 だ。砂によるろ過に加え、微生物の働きを利用しており、環境負荷や消費電力量が小さくて済む。凝固剤やフィルターを用いず、砂や砂利の交換も不要であることから、維持管理費用が安い。メンテナンスも容易で、住民による自主運営が可能だ。

「先進的な技術を導入することもできるが、現地の人たちに長く使ってもらい、オペレーションもやってもらうことを考えると、おのずと原始的な仕様が望まれる」 と、クリーンウォータープロジェクトグループの金丸正史 (Masashi Kanemaru)氏(43)はAFPBB Newsのインタビューに答えた。

 金丸氏がこれまでに装置の開発や営業で携わった国は、インドネシアやベトナム、セネガル、モーリタニアなど12か国に上る。設置後も現地で使い方の指導や品質管理に携わってきた。

「ローテクと言われることもあるが、低い技術だとは思っていない」と金丸氏。ヤマハ発動機の既存技術やノウハウに頼ることなく、緩速ろ過を生かすため砂利の大きさや砂の層の厚さなど独自に改良を重ねてきた。

「技術と情熱が詰まった装置」だと、胸を張る。

■民間投資への期待

 現在、途上国でのインフラ整備は、民間投資に大きく依存している。財務省によると、2019年の日本から途上国向けの民間投資は約419億4500万ドル(約5兆4000億円)と、政府開発援助(ODA)額の3倍以上だ。世界的にも民間のインフラ投資は、変動はあるものの拡大を続けている。

 だが、民間投資が進んでいるのは、エネルギーや運輸・交通の分野にとどまる。水資源管理に詳しい国際協力機構(JICA)地球環境部次長の松本重行(Shigeyuki Matsumoto)氏は、「水に関してはまだ少ない」と語った。

 国連(UN)は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標6で、2030年までにすべての人に安全で手頃な飲み水へのアクセスを提供することを掲げる。だが、2021年の国連報告書によると、129か国については、それまでに持続可能な形で管理された水資源を確保できるめどが立っていない。

 松本氏は「アフリカが一番難しい状況に置かれている」と指摘する。サハラ以南の地域では、人口の35%、地方部では実に2人に1人が、基本的な給水サービスを受けられない状況にある。

 途上国ではアフリカを中心に乳児死亡率が高く、水の供給と衛生状態は密接に関わっている。子どもが水くみ作業のため学校に行けないなど、水へのアクセスは「貧困のバロメーター」ともなっている。「援助とか公的資金だけではとても足りない」と松本氏は言い、民間の役割に期待を示した。

 水の供給に関しては、初期投資だけでなく、長期的に運用できる環境を整えることも大切だと指摘。「ランニングコストがなるべく抑えられて、地元の人たちで運転ができるような施設が重要になってくる」と話した。

■水が変われば暮らしが変わる

 リーマン・ショック後、クリーンウォーターシステム事業の存続が危ぶまれたこともあった。今では「世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する」というヤマハ発動機が掲げる企業目的の一端を担っていると、金丸氏は言う。

 ヤマハ発動機はサハラ以南のアフリカに加えて、南アジアや南太平洋など、安全な飲み水が供給できていない地域でも事業の拡大を目指す。

「水があると人が集まり、大きなコミュニティーに発展していくということを目の当たりにした。水が変われば暮らしが変わる」と、金丸氏は自信を示した。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により装置の設置延期が相次いだ。計画の後れを取り戻すため、金丸氏はこの夏、感染拡大後初めての海外出張先として、コンゴ共和国とコンゴ民主共和国に向かう。【翻訳編集】 AFPBB News/Marie SAKONJU/Shingo ITO|使用条件