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目指すは世界初の木造人工衛星 宇宙飛行士の土井隆雄氏インタビュー

京都大学と住友林業が手掛ける木造人工衛星「LignoSat(リグノサット)」のサンプル写真(2022年5月27日提供)。(c)京都大学

京都大学と住友林業が手掛ける木造人工衛星「LignoSat(リグノサット)」のサンプル写真(2022年5月27日提供)。(c)京都大学

【AFP=時事】地球上で人間の営みを支えてきた木は、宇宙でも必ず役に立つはず──。宇宙飛行士で、現在、京都大学(Kyoto University)特定教授を務める土井隆雄(Takao Doi)氏(67)は、そう確信している。その第一歩として挑むのは、世界初となる「木造人工衛星」の打ち上げだ。

 2020年、土井氏は京大と住友林業(Sumitomo Forestry)による共同プロジェクトを立ち上げた。構造体の外側表面が木製の人工衛星「LignoSat(リグノサット)」1号機を2023年度に打ち上げる準備を進めている。各辺10センチの立方体で、キューブサット(CubeSat)と呼ばれる小型人工衛星だ。

 研究チームは今年3月から、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう(Kibo)」の船外実験プラットホームで、世界初となる木材の曝露(ばくろ)実験を開始。来年初めに実験サンプルを地上に戻し、宇宙放射線や紫外線といった宇宙特有の環境下での変化について解析する。「木は人間の進化にとって大切な存在だった。私たちが宇宙に行くときに、木は重要な役割を果たす」と、土井氏はインタビューに答えた。

 土井氏が代表を務める研究チームの目的は「宇宙で木材の利用を探求すること」。最初のプロジェクトとして選んだのが、木造人工衛星の開発と運用だ。

■真空に強い木材

 人工衛星の素材はアルミニウムが主流で、木で代用するのは世界初の試みだ。米航空宇宙局(NASA)が1960年代、月面探査機「レインジャー(Ranger)」にバルサ材を衝撃緩和材として使用したことがある。ただ、木材は金属と違って性質が一様ではないことから、現在、NASAの宇宙用部品ハンドブックに木の項目はないという。

 しかし、地上で真空装置の中に木材を3年間入れて経過を調べる実験を行ったところ、寸法や形状、剛性にほとんど変化がなく、木材は真空に強い材料であることが分かってきた。

 リグノサット1号機は運用期間が1年なので、耐久性について問題はない、と土井氏は自信を示す。曝露実験の試料にはホオノキ、ヤマザクラ、ダケカンバが選ばれた。しかし人工衛星に採用される樹種は、まだ決まっていない。

 電磁波や磁気波は木材を透過する。そのため、木造衛星はアンテナや姿勢制御装置を内部に設置でき、構造を簡素化できる。しかも、木材は国内外で容易に入手できる上、特殊な加工技術を必要としないため、価格も抑えられる。 さらに、大気を汚染しない利点があると、土井氏は話す。木造衛星は運用を終えると、地球の大気圏に突入し、完全に燃え尽きるからだ。

 それに対し、アルミは大気圏突入時、大気との摩擦で燃焼し、酸化金属粒子(アルミナ粒子)が生じる。粒子の大きさは数ミクロンと微小で、数十年にわたって大気中を浮遊する。

 人工衛星の打ち上げ回数が現在の1万倍に達すると、運用が終わった衛星の大気圏突入に伴って発生する粒子の密度も上がり、太陽光を反射し始める。その結果、地球に届く太陽光が減り、地球の寒冷化をもたらすと土井氏は指摘する。

 2020年に軌道に投入された衛星は約1200基だが、インターネット用の小型衛星を活用したビジネスは進展を見せ、打ち上げ回数は増加している。米宇宙企業スペースX(Space X)など民間各社は、多数のインターネット用通信衛星を打ち上げる予定で、それを合わせると衛星の数は数千から数万基近くになるとする試算もある。

 粒子は赤道に近い大気層に多く浮遊するため、大気光のバランスが崩れ、気流が大きく変わる。ひいては台風や嵐などの大きな気象変化を引き起こす恐れがある。

■宇宙でもカーボンニュートラル

 日本人初となる船外活動を行った土井氏は、「宇宙から見る地球は本当に素晴らしく美しい惑星。地球の環境をこれ以上破壊してはいけない」と言う。

 土井氏は1997年、スペースシャトル「コロンビア(Columbia)」に搭乗し、船外活動を2回実施。2008年には、スペースシャトル「エンデバー(Endeavor)」に搭乗し、きぼうの船内保管室をISSに取り付けた。

「宇宙に行くことで地球環境を破壊してしまったら元も子もない。私たちが宇宙に行くためにも、地球環境を破壊しない手段を使うべきだ」と、力を込めた。

「今、世界中でカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を実質ゼロにすること)が叫ばれているが、それは宇宙産業においてもまったくその通り。人工衛星を作るときにもカーボンニュートラルは守らなければならない」

 フィンランドの製材会社、ウィサウッドサット(WISA Woodsat)が欧州宇宙機関(ESA)と共同で木造人工衛星の開発に着手するなど、木造衛星は海外でも注目され始めている。

 先行する土井氏の研究チームは、実用化に向けて2号機の設計案に着手した。「2030年までには、木造人工衛星が一般的な活動であると認められるようにできればと思っている」と、今後を見据える。

■次世代に託す思い

 研究チームはさらに、宇宙空間や惑星における木造建造物の研究も視野に入れている。

「宇宙で木が使えることが証明されれば、月面基地や火星基地など、宇宙で木造建造物を造りたい」と土井氏は話す。

 現在は、火星の疑似環境における樹木の育成実験を実施している。火星の気圧は地球の100分の1。約2年間の実験の結果、0.1気圧の下で樹木が育つことが分かった。次は、0.01気圧でも育成できる条件を探す。

「宇宙ステーションも木で造れるだろう」と夢は膨らむ。

 土井氏は、研究チームの課題を次世代に伝え、日本の宇宙産業を発展させるためには、人材育成が欠かせないと言う。京大では有人宇宙学に関する新しいコースを設け、土井氏が講義や実習を担当している。「米国ではスペースXやブルーオリジン(Blue Origin)のような民間企業が宇宙産業に参入しているが、日本の宇宙産業は米国の10分の1以下だ」と土井氏は指摘する。

 米衛星産業協会(Satellite Industry Association)によると、2020年の世界の宇宙産業の市場規模は約3710億ドル(約49兆6000億円)。日本は2030年代初めまでに、国内市場規模を現在の約2倍の2兆4000億円にすることを目指しているが、競争力では欧米に大きく水をあけられている。

「一番大きな問題は、若い人たちが宇宙で活躍する、そういう時代に入ってきていない(ことだ)。宇宙で活躍する人材を育成する大学教育が、日本では遅れている。それを破りたい」と、土井氏は語った。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件

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