世界最大級のNFT(非代替性トークン)カンファレンスが、6月20日から23日までの4日間、ニューヨークで行われた。今回で4回目となる「NFT.NYC」は、ニューヨーク中心地のタイムズ・スクエア周辺にあるホテルや劇場などに設けられた7つの会場を使用し、昨年の3倍近い1万5000人以上の観客が世界60カ国以上から参加した。カンファレンスに参加した筆者が現地から報告する。
20日に開幕したNFT.NYC2022では、初日入場パスを受け取るためにメインの会場となったマリオット・マーキース・ホテル前に筆者が到着すると、すでに1時間以上待ちの長蛇の列ができていた。若者の参加者が多く目立ち、まるで音楽フェスのお祭り騒ぎのようであった。さらに、目の前にあるタイムズ・スクエアの電光掲示板には、さまざまなNFT企業の広告やアートが映し出され、街中がまさにNFT一色に染まった感があった。
会場内の受付でパスを受け取ると、アート、ゲーム、スポーツから、映画、音楽、法律など、10のトピックに色分けされたストラップを選ぶことができ、他の参加者との共通の話題を探すための手助けとなった。主催者によると、今回のカンファレンスには46カ国から1500人以上の登壇者が参加し、スポンサーも300社以上に上るという。
2019年に行われた際に、15カ国以上から467人の参加者、87人の登壇者、28社のスポンサーしかいなかった第1回目と比べると、この4年間で急拡大し、NFT業界の盛り上がりを肌で実感することができた。
■まだ始まったばかりのNFT市場
「ニューヨークにはタイムズ・スクエアの広告塔や金融市場、アートや文化が集まっています。そして、世界中の人々が集まっている。まさにNFTにふさわしい場所です」
オープニング・トークで共同創設者のジョディー・リッチ氏はそう語ったが、会場となった約6000人を収容できるラジオシティ・ミュージックホールはほぼ満席で、参加者の熱気に溢れていた。
続いて登壇したブロックチェーン投資会社CoinFundのデビッド・パックマン氏は、「NFTの現状」とする講演のなかで昨今の暗号資産の暴落に触れつつも、「NFTはスマートフォン以来、最も成功を収めている消費者向け製品である」とNFT市場への自信を示した。
パックマン氏は同社のデータとして、過去2年間でNFTの取引総額が300億ドル(約4兆円)以上に達したと語り、NFTのユーザー1人あたりの年間平均売上は前年に比べ88.28%増加し、平均927ドル(約12万5000円)となったと指摘した。これは、動画配信サービスのNetflix(平均180ドル=約2万4000円)や音楽配信サービスのSpotify(平均60ドル以下=約8000円)などの年間平均売上と比べると、圧倒的に高額であると同氏は強調した。
一方で、世界中のインターネット人口が40〜50億人いるとされるなか、NFT取引の際に必要とされる暗号通貨用ウォレットの所有者はまだ1億人ほどにとどまり、このうちNFTを実際に売買しているのは月々600万〜1000万人ほどで、パックマン氏はNFTはまだ始まったばかりで、これから市場がさらに成長していくだろうとの見方を示した。
■アート、ゲーム業界以外でも注目されるNFT
暗号資産調査会社のMessariが2022年4月に発表した調査結果によると、NFT市場における取引額はPFP(プロフィール画像)、コレクティブル(収集品)、アート、ゲームが上位4位を占めている(2022年1〜3月期)。
会場内のブースを回っていると、確かにゲームやアート関連NFTの展示が目立っていた。しかし、その中にまぎれて特に筆者の目を引いたのが、馬の模型を展示するブースであった。担当のジョージ・トルタロロ氏に話を聞くと、この会社はOmniHorse(オムニホース)というスポーツNFTのスタートアップであるという。
同氏によると、2021年からカリフォルニア州を拠点とするブロックチェーン開発会社と競馬の共有馬主クラブが提携し、NFTを通して競走馬を所有する仕組みに取り組んでいるという。一頭1億円以上もする馬が珍しくない米競馬業界では、複数の馬主が共同で競走馬を所有し、管理することが多く行われている。現在は共同所有の契約や証明書などは紙媒体ベースで行われているが、将来的にNFTを使ってスマートコントラクトの導入や、証明書のデジタル化を図るつもりだとトルタロロ氏は語る。
また、別のブースでは暗号通貨プラットフォームZKSpaceが、コロンビア出身の世界的に有名なサッカー選手ハメス・ロドリゲス氏と提携し、同氏のデジタル肖像画など1500のNFTの販売を予定しているという。さらに、購入額に応じて同選手とビデオ通話をする権利が取得できたり、サイン入りのジャージをもらえたりするといった特典もついてくる。担当者のビレル・セディク氏によると、今後他の世界的に有名なサッカー選手やフィギュアスケートなどの他競技の選手ともNFTを通じて、パートナーシップを結んでいく予定だと語った。
さらに、スポーツ業界では有名選手によるNFT販売だけではなく、NFTを通じていかにファン層を取り込めるのか議論が活発だ。
米チケット販売大手のチケットマスターで、エグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるブレンダン・リンチ氏は、今年はじめに米ナショナル・フットボールリーグと提携し、バーチャル記念チケットのNFTを販売したことに講演で触れた。チケットをNFT化することにより、同じチームのファンが一つのコミュニティーとしてバーチャル上でコミュニケーションを取れるようにしたり、NFTを所有するファンに試合観戦だけではなく、チーム関連イベントへの特典を提供したりするなど、将来の可能性について語った。
■映画業界にもNFTの波
NFTに注目しているのはスポーツ業界だけにとどまらない。
カンファレンスに参加した『ドゥ・ザ・ライト・シング』や『マルコムX』などの作品で著名な米黒人映画監督スパイク・リー氏は、講演の中で「NFTは映画製作の民主化をもたらすだろう」と語った。
リー氏は、初監督を務めた1986年のデビュー作『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』から選んだ4000近くの静止画などをNFTとして販売すると、今回のカンファレンスに先駆けて4月に発表。その売り上げは、若い映画監督や監督を目指す学生の教育に投資する予定であるという。
さらに、カンファレンス初日には、メディア製作会社METACITZN(メタシチズン)がNFTで制作費を集め、NFTについて作った初のドキュメンタリー映画『NOT_A.JPEG(JPEGなんかではない)』が、タイムズ・スクエアの映画館でプレミア上映された。
共同オーナーであるルーク・サウアー氏に話を聞くと、このドキュメンタリー映画を制作する際に、同社はNFTによる500近くのトークンを発売し、制作費を調達。代わりに、トークン購入者には共同プロデューサーとして、映画制作に参加する権利が与えられた。
共同プロデューサーは、チャットアプリのディスコードを通して「音楽」や「インタビュー」など各カテゴリー別に分かれたチャンネル上で、映画の中でどの様な曲を使用したり、どの様な専門家にインタビューすべきかなど、発言をしたり投票に参加したりしたという。サウアー氏は今回の経験を元に、将来さらに多くの人々がNFTを通して映画製作に参加できる可能性を探りたいと語った。
■NFTで注目される日本のコンテンツ
メイン会場となったホテルには各業界、各国のNFT関連会社やプロジェクトのブースがところ狭しと並んでいたが、日本の企業にも関心が集まっていた。
そのひとつ、Psychic VR Lab(サイキックVRラボ)は自社が開発したXRプラットフォーム「STYLY(スタイリー)」のアプリを通して、7名の日本人アーティストとコラボし、タイムズ・スクエアの空間上にバーチャル・アートを映し出すという試みを行っていた。時間ごとに各アーティストの作品がアプリを通して映し出され、様々な作品を楽しめることが出来るというものだ。
試しに筆者もタイムズ・スクエアでこのアプリをダウンロードし、スマホをかざしてみると頭上の電光掲示板上に抽象画のようなデザインが映し出された。さらに、スマホを動かすとアートも一緒に動いたり、別のアート作品なども出現したりと、まわりの人混みをひと時の間忘れ、現実の空間とバーチャル・アートの融合した世界にひたった。
同社のクリエイティブディレクターを務める松岡湧紀氏に話を聞くと、ブロックチェーン企業Animoca Brands株式会社(アニモカ・ブランズ)やNFTプラットフォームMADworld(マッド・ワールド)など4社が提携し、「都市連動型NFT XRアート展」として、日本に先立ち初の海外プロジェクトとして開催した。
同氏によると、今後新たに提供するNFT機能と組み合わせることで、都市空間の上にバーチャルコンテンツが加わったXR空間レイヤーをNFT化して、販売していくことを予定しているという。
「都市空間の上に重なるXR空間レイヤーに、アーティストの作品や日本のIPを付加することで、その空間自体の価値を高めることができるかもしれない。NFTと非常に相性がいいのではないかと考えています」と松岡氏は語った。
また、ブロックチェーン・ゲーム大手のdouble jump.tokyo(ダブル・ジャンプ・トウキョウ)でCOOを務める松谷幸紀氏は、今回のカンファレンスに参加してみて、NFTの世界において日本は1〜2年の遅れを取っていると感じたとしながらも、「思った以上に日本が追いつけるは早いのではないかと感じている」とも語った。
同社は2018年の設立以来ブロックチェーン・ゲームを通じてNFTに関わるのと並行し、日本企業がNFTの販売や配布を出来るように支援するNFT事業支援サービスなども行っている。昨年12月には、手塚プロダクションと協力して手掛けた、鉄腕アトムのデジタルアートがNFTマーケットプレイスのOpenSeaにおいて120ETH(当時の換算レートで約5300万円)で落札されるなど、積極的にNFT事業にも関わっている。
松谷氏は、NFTはあくまでもツールであるとしながら、「そのツールを活用して、結局は日本のコンテンツ力をちゃんと作って行くためのIP作りというところに、しっかりとした額を投資して行くことが、今後すごい大事になっていくんじゃないかと感じました」と参加した感想を語った。
確かに、筆者も会場内を歩いて若い参加者たちと話をしていると、日本のゲームのキャラクターや、マンガ、アニメなどに非常に関心が高い事が肌で感じられた。しかし、今回のカンファレンスに参加して、ゲームやアートだけではなく、さまざまな業界においてもNFTを使った新たなチャンスを模索している姿が見て捉えられた。ある参加者は「インターネットが登場したころの熱気に似ている」と話していた。
暗号通貨は暴落しており、NFTにも冷ややかな視線を向ける人が増えているが、それらの可能性に期待が集まり、熱気が溢れている空間が同時に存在していることを、日本の読者にも知ってほしい。