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スマホでプログラミングを完結 クリエイターの活動を支援するSpringin’を世界へ

イメージ図(しくみデザイン提供)

イメージ図(しくみデザイン提供)

 日本のゲームやアニメなどのコンテンツには、産業の大きな柱としての期待がかかっている。

 しかし、キャラクターやテーマ曲を生み出せるクリエイティブの能力と、それを自身でゲームなどのアプリに仕立て上げるプログラム技術の2つを合わせ持つ人材は少ない。他人まかせにせず、自分のキャラクターでゲームアプリを開発しようとしても、本格的なプログラミングはハードルも高いし、学習するにしても時間がかかる。

 そこで、そうしたクリエーター向けに、文字を使わず、直感的な操作だけでオリジナルゲームや、動くマンガなどが作れるアプリを開発した企業がある。株式会社しくみデザイン(福岡県福岡市)だ。

TikTokのプログラミング版

株式会社しくみデザイン代表取締役中村俊介氏(しくみデザイン提供)

 今回、お話を伺った同社代表取締役の中村俊介氏によると、しくみデザイン社は創業して17年。長い間コンテンツの受託制作を主体にやってきたが、3年前に自社で開発したアプリの「Springin’(スプリンギン)」が大きな反響を得た。

「Springin’はTikTok(ティックトック)のプログラミング版と思ってください」(中村氏)

 創作活動(ゲームなどのアプリの開発)をする上でのボトルネックはプログラミング習得だ。Springin’は、TikTokのようにスマートフォンだけで、ゲーム開発などが行える。このアプリを使って、絵や音楽を創ることそのものを気軽に楽しんでもらい、作品をみんなにシェアするような文化を作りたいということだ。

「ゲーム開発って、大きなソフトハウスで、みんなパソコンの前で作業する、みたいな感じだったじゃないですか? Springin’があればスマートフォンやタブレットだけで最初から最後まで完結できます」(中村氏)

 現在、Springin’のダウンロード数は100万を越え、約13万人がクリエイター登録している。

新たな収益モデルも

Springin’Classroomのイメージ(しくみデザイン提供)

 このSpringin’に興味を持ったのが、2020年度からプログラミング教育が小学校で必修化された教育界だ。教師の間で「すごいアプリがあるらしい」とSpringin’が広まりだしたという。しくみデザイン社は、そんな声に答える形で学校向けのSaaSとして「Springin ’Classroom」をリリースした。現在、導入されている学校は300を越えている。

「これはプログラミングをおぼえるための時間を減らし、『プログラミングを使って何かをする』というところに時間をかけられるようにしたものです。これこそ文科省が掲げる目的に合致していると言ってくれる先生も出てきました」(中村氏)

 現在、しくみデザイン社の事業は、クリエイター向けのアプリ「Springin’」と、学校向けにSaaSで提供されている「Springin’Classroom」の2つだ。事業収益に関して、SaaSとしてのビジネスは売上が立つが、Springin’の方はどう考えているのだろうか?

「Springin’は登録無料であり、現在お金が発生する状態ではありません」(中村氏)

 だが、Springin’についても、新しい収益モデルが見えてきた。それは、ユーザー参加型のタイアップ企画のようなもので、例えば「エレベーター」「飴」「うどん」など、スポンサー企業に関係するテーマでアプリ開発コンテストを行う。クリエイターは、大きな熱量と深いエンゲージメントでテーマを調べ、創作活動に当たるので、通常のディスプレイ広告とは違った形でのプロモーション効果が生まれると中村氏は説明する。

 また、いわゆるフリーミアム(基本サービスは無料とし、高度なサービスを有料化)のモデルも準備を進めており、ストレージの増量や素材などを提供してのマネタイズを検討しているということだ。

クリエイターの稼ぎのために

 中村氏の想いは、今Springin’に登録しているクリエイターが、ただ創って楽しいということで終わるのではなく、Springin’内で稼げる状態を作り出したいということだ。

 クリエイターの活動を支援することがミッションだと考えるしくみデザイン社は、今回「Springin’ Sound Stock」というサービスをローンチした。これは、クリエイターがデジタルコンテンツを創作するときに必要なBGMや効果音を提供するもので、もちろん無料で使える。

【参考リンク】Springin’ Sound Stockのデモ音源

「やはり音があるとないとでは、作品のクオリティってぜんぜん違うんですよね。ちゃんとBGMを作りたいが難しいとか、効果音が欲しいのにいいのがないとか。もともと弊社は受託でやってきたので、社内にサウンドクリエイターがいます。ある程度作品のストックもあり、とくにクオリティの高いものをみんなに使ってもらおうと。そうすれば作品のレベルは絶対上がることがわかっていますし」(中村氏)

 この音源はSpringin’のために提供されるものだが、クリエイターなどが他の用途で使ってくれてもかまわないという、世の中みんなの作品のレベルが上がればいいと中村氏は笑う。

より多くの人たちに

 Springin’の収益化については、利用ユーザー数の拡大を目指していくことが必要になるため、海外展開も視野に入れている。Springin’は言語不要のプログラミング手法でローカライズがほとんど必要ない。そのため現在でも海外からの登録者もいるが、今はまだサービスを日本語ベースで運営している。

「Springin’は年齢、性別、国籍関係なくみんな平等に(作品を)作れるのがいいところなのですよね。実際4歳ぐらいの子どもも、80歳ぐらいの人も作っています。もちろん一番多いのは10代。幅広くみんなが作れるっていうのがその良さなので、やっぱり国は超えたいと思います」(中村氏)

 海外展開を実現し、登録クリエイターを数千万人ぐらいの規模のサービスにしたいと中村氏は意気込みを示した。

 また、元々は大人向けに作ったSpringin’だが、操作がわかりやすいため、特に子供向けにチューニングしていないにもかかわらず、小学生はもちろん幼稚園児でも使えるという。

「ほんとうは世界中と言いたいですけど、とりあえず日本の子たち全員に使ってもらえる環境を作りたい。そうすると、確実に日本の子どもたちのクリエイティビティが上がるのではないかと」(中村氏)

 中村氏は日本が、世界に対して戦えるのはコンテンツ力、クリエイティビティではないかと話す。しかし、プログラミング教育が必修化されたとはいえ、「(Springin’を使えば)学校の成績が急に上がるというものではなく、その辺に対する支出はなかなかむずかしいのではないかと」やや意地悪な質問をすると、そこは、今直面している問題だと中村氏は苦笑する。

「教育現場でもほんとうにいいと分かってくれたらエバンジェリスト(伝道師)みたいになってくれる人もいるのですよ。福岡県、福岡市も理解してくれていますし、自治体も巻き込んで一緒にやっていこうと思います」(中村氏)

 みんながベースにプログラムを理解する能力を持っていれば、その上に絵や音楽をクリエイトできる才能を持った人材の可能性はより広がる。「Springin’」のようなツールを上手く使えば、DX周回遅れの日本にも新たなチャンスが巡ってくるかもしれない。

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