暗号資産イーサリアムをイメージしたコイン(2020年1月26日撮影、資料写真)。(c)INA FASSBENDER : AFP
【AFP=時事】暗号資産(仮想通貨)市場で、ビットコイン(Bitcoin)に次ぐ時価総額2位のイーサリアム(Ethereum)は、電力を大量に消費することから環境への負荷が大きいとして非難されてきた。だが今月行うブロックチェーン技術の刷新により、環境負荷の削減を目指そうとしている。
「マージ(Merge)」として知られているこのシステム移行の背景と、価格の安定化や消費電力の削減を実現する方法をまとめた。
ビットコイン、イーサリアムをはじめとする暗号資産の取引を承認する作業は「マイニング(採掘)」と呼ばれる。倉庫のような巨大なスペースに高性能なコンピュータを大量に用意し、複雑なデータ処理を行う作業だが、その際、大量のエネルギーが消費されるため、電気料金の安い国や地域を拠点とする場合が多い。
暗号化されたコードがコンピュータネットワークでやりとりされる際に発生する「トランザクション」と呼ばれる取引データは、安全性の高い分散型の台帳技術「ブロックチェーン」で記録される。
イーサリアムがこれまで採用してきた「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」と呼ばれる仕組みでは、マイニングに必要な計算にいち早く成功した人がサイバー通貨で報酬を受け取るが、大量のエネルギー消費を伴う。
イーサリアムの価格は今年に入り、55%と大幅に下落しているが、それでもなお、今話題の非代替性トークン(NFT)などの売買には欠かせない存在となっている。
理由の一つは、イーサリアムは、アルゴリズムによるコンピューターコード、すなわち「スマートコントラクト(契約履行管理の自動化)」を利用できることにある。これによりユーザーはさまざまな取引を実行できる。
ブロックチェーン技術を研究するNPO、ブロックチェーン・リサーチ・ラボ(Blockchain Research Lab)の共同設立者、レナート・アンテ(Lennart Ante)最高経営責任者(CEO)は、「暗号資産のエコシステム全体で見ると、その大半でイーサリアムのブロックチェーンがベースレイヤー(基盤)のインフラになっている」と話す。
イーサリアムの採用が広がったことで重要な課題となったのは、環境への懸念とそれに伴う方針転換だ。
デジタル通貨に詳しい米コーネル大学(Cornell University)のエスワル・プラサド(Eswar Prasad)教授は、「PoWによるマイニングは環境を破壊し、高くつく。しかも非効率だ」と指摘している。
だが、分散型ブロックチェーンシステムのカーボンフットプリント(温室効果ガス排出量をCO2に換算した数値)は、電力源が必ずしも特定されないため、測定が難しい。
イーサリアムの生みの親であるビタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏は、9月中旬に行うマージで「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」と呼ばれる仕組みへの移行を予定している。
PoSでは、PoWのように電力を大量消費する証明が不要になり、代わりにイーサリアムのブロックチェーンのステーキング(暗号資産の保有による証明)を行う。いわば暗号通貨を賭けることで、より多くのイーサリアムを獲得する。
現在PoWを採用しているイーサリアムの年間消費電力は約45テラワット時、ビットコインは95テラワット時と推定され、パキスタンの年間消費電力量に相当する。
専門家は、PoSへのアップグレードによって、消費電力が99%削減されるとみている。また、よりスピーディーかつ効率的に取引を行えるようになるとされる。
「エネルギー消費はゼロに近いだろう」とアンテ氏。ハードウエアが不要になり、ソフトウエアだけで取引できるようになるからだと話す。
しかし、新しいアプローチでさまざまな問題が一気に解消されるわけではない。一部のユーザーは競合する別の暗号資産に乗り換え、これからも膨大な電力を消費しながらマイニングを続けるかもしれない。
プラサド氏も、流動性と管理に関する懸念を考えると、PoSは「完璧なシステムではない」とくぎを刺した。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件