2022年9月2日(金)、第2回二次電池展~バッテリージャパン~(会場:幕張メッセ)に株式会社EVモーターズ・ジャパン(以下、「EVモーターズ」)代表取締役/CTO佐藤裕之氏が登壇し、「EVバス・商用車普及を支える技術戦略と新型EV電池活用」のテーマで講演を行った。佐藤氏は鳥取大学電気工学科を卒業後、長年にわたりインバーターの開発に従事し、2019年に商用EV車や急速充電器などの開発、販売を手掛けるEVモーターズを設立。代表取締役/CTOとして量産タイプの商用EVの開発製造に取り組んでいる。
講演の中で佐藤氏は、エンジン車両とEVバスとのコスト比較グラフを会場に示し、「日本のEV化は遅れていたが、ここに来てのエネルギーの高騰・入手困難な状況から、商用車の世界でも、内燃機関にもう戻ることはないということで、EV化が加速している」と語った。EVが普及すると問題になるのは電力の確保だ。
これまでの電力調達の考え方は、地方に存在する再エネ発電所等で発電した電力を、消費地である都市部で使うというモデルだったが、EV増加で巨大な電力量が必要になると、そのモデルは成り立たない。今後は都市部で発電し、都市部で消費していく自律発電。もしくは、地産地消モデルが必要になる。
佐藤氏は「そういう意味では、EVを作ることはエネルギーマネジメントを考えていくこと」と話す。実際EVモーターズは、身の回りで発電した電力を効率的に使い回せるよう、商用EVをコアにして、薄膜ソーラーパネルによる発電システム、大規模充電システム、燃料電池で構成するエネルギーマネジメントシステムを推進している。
節電・軽量・新電池
そのコアとなる商用EV について、佐藤氏は3つのポイントを上げた。まずは「アクティブインバーター」の使用による節電。佐藤氏は「頭脳を持ったインバーター(直流電流を交流電流に変換する装置)」と説明した。EVモーターズのサイトにある説明によると、『メインモーター、油圧モーター、エアコン動力、制御電源等のEV車両に必要な電力を一台のインバーターに集約することで、軽量化・コンパクト化・高効率化を図った、商用車専用の最新6系統のマルチ出力インバーター』で、これにより通常のインバーターよりも約30%電力消費を抑えることができる。
もうひとつのポイントは「ボディーの軽量化」だ。それによりEVの電力消費を最小限に抑える。さらにEVバッテリーも薄型化が進んでおり、バスやトラックなど車高が高い車両では床下を電池置き場として利用でき、床面をフラットにできる。
3つ目のポイントが、「NTO電池の活用」だ。NTO電池とはニオブチタン系酸化物を電極に利用する次世代型のリチウムイオン電池で、2021年東芝が発表したものだ。その特徴は超急速充電と充電サイクルの長寿命化、安全性の高さだという。EVモーターズでは、現在使っているLFP(リン酸鉄リチウムイオン電池)を、NTO電池に置き換えるか、または両方搭載していく計画だ。NTO電池はLFPの3倍から4倍のサイクル寿命を持っており、低温特性や高温特性も非常に良いと佐藤氏は評価している。
商用EVに関しては、EVで先行する中国メーカーの車両が日本にも導入され始めている。佐藤氏は、NTO電池を商用車に使うことで、日本製EVの優位性が持てるのではないかと述べた。EVバス、トラックに関しては、NTOをキーワードに、量産施策の評価を行っているところだという。
九州に国産初の商用EV車工場建設
EVモーターズは、NTO電池を搭載した低床フルフラットのマイクロバスを今年度内にリリースする予定だ。この車両は、NTO電池の「超急速充電モード」を利用して、5分の充電で50キロ走行することを実証するための車両でもある。
また、地場産業の創出を目指し、福岡県北九州市北部に商用EV車の最終組立て工場の建設を準備。2023年9月ごろの稼働を予定している。さらにこの6月には、株式会社伊予鉄グループが同社に出資を行った。同グループには、今年度中に大型EVバスを1台納入予定だという。伊予鉄グループは、現在バス協会の会長も務め、バス事業者約2400社を取りまとめる存在であり、業界のEV化を先導する立場にもある。
バス・トラックなど、運輸業界は燃料費の高騰にあえいでいる。電力の確保などの課題はありつつも、商用EVの導入は今後徐々に進むだろう。国内商用車の市場に海外勢の存在感が高まる今、EVモーターズが進める商用EV戦略の行方は注目される。