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金沢大学の秋田教授が体感した深セン「設計・製造・商品化」の街 

秋田純一教授 金沢大学の学生を受け入れる予定のVC(iMakerbase)にて

秋田純一教授 金沢大学の学生を受け入れる予定のVC(iMakerbase)にて

 金沢大学融合学域/理工学域の秋田純一教授が、サバティカル研修(一定期間自由に研究活動に専念できる)制度で、深センの南方科技大学に滞在しており、筆者とさまざまな共同活動を行っている。筆者とは10年以上の付き合いだが、とくにメイカーフェアが盛り上がってきてから行動を共にすることが増えた。秋田教授は、深センにも何度も足を運び、スタートアップなどを訪問してきた。

 今回は、秋田教授の眼から見た「深セン」について、お話を聞いた。また、今後、金沢大学の学生をインターンとして、深センに送ることが計画されているが、その狙いについても聞いた。

研究の社会実装に興味があり深センへ

 秋田教授はもともと半導体(集積回路)の研究者だが、要素技術だけでなく、それをどうやって社会実装していくかの方にも強い関心がある。深センは、次々と新しい技術が社会実装されていく街で、そこが深センに興味を持つ理由につながっていると話した。

 また、秋田教授は根が「電子工作少年」でありメイカーだ。「半導体を自分で設計する」ことができ、かつ「電子工作の現役ホビイスト」であるという人は少ないのではないか。秋田教授の中でも、この2つは別々の世界だった。

「自分が設計した半導体が秋葉原の店頭に並んで、いろんな人がそれを使って何か新しいものが作り、社会に役立っていくまでが、本来の半導体研究者の役割だと思うのです。しかし、(研究者の実情は)そういうところから離れちゃっている。論文を書き、それを社会実装するのは誰かやってください、という人がほとんどです」(秋田教授)

 そういった実情に、半導体の研究から足を洗おうかと思った時期さえあると秋田教授は振り返る。しかし、「半導体の設計ができて電子工作もできる研究者」というところを、逆にアイデンティティにしようと思い直したそうだ。

 自分で(必要ならば)半導体を設計し、それを使った製品を世の中に問うというスタンスには、この深センという町が最適だ。秋田教授は、「半導体を設計するのは別に深センでなくともできるが、そこから後の市場化・製品化は圧倒的に深センがすごくやりやすい街。だからこそ深センという街に来てみたかった、というのが研究者としての目的」だと話す。

 秋田教授は、自分の趣味の範囲で何か設計する時も、中国に発注しているという。「ここで製造されたものを、直接ここで受け取るってめちゃくちゃ早い。そういうスピード感をこちらで実感できている」というホビイストならではの観点も。

秋田教授が見た中国の大学研究者の印象

 研究者として見たときに、中国の大学の研究についてどう思うかを尋ねたところ、秋田教授は「基礎研究をよくやっている」と答えた。

「『3年後に売れます』みたいな技術じゃなく、10年後に化けるかもしれないという技術を研究している人が結構多いという印象はあります。すぐにお金になるような研究じゃないものにも、ちゃんと教育研究資金が配分されるというメカニズムがあるようです。日本ではあまり見ない風景になってきました。ただ使途を問わない基盤研究費はほとんどなく、競争的資金を獲得しないと研究ができないのは、少なくとも私が滞在した南方科技大では同じようです。それでも公募されるのが近視眼的なテーマばかりではなく、長期的な視点のものが多いようです」(秋田教授)

自身が設計開発した製品と。初期ロットは全てにサイン

 また、もうひとつの印象として、「自分自身で会社を興したり、他の会社などを巻き込んでビジネス化する研究者も多い」と述べた。

 自分で半導体を設計し、またプロダクトとして販売するところまでを研究として手掛ける秋田教授が、深センのスタートアップとの産学連携で成果を挙げたのは当然だろう。秋田教授は金沢大学で、自分で設計した拡張ボードと一緒に深センのスタートアップ製品を使用していた。今回の深セン滞在中にそのスタートアップに提案し、自らのアイデアを直接市場化する産学連携も見られた。

 秋田教授も今回の深セン滞在中に、深セン流に現地企業と一緒に、ちょっとした“産学連携”を行った。

 秋田教授は、以前からM5Stack Core2向けの拡張ボードを自分で設計・制作して販売していたのだが、今回の深セン滞在中、現地のM5Stack社にこの拡張ボードのアイデアを提案。一緒に製品化を進め「本家の製品」として販売を開始するところまで漕ぎつけた。

金沢大学の学生をインターンとして深センのVCへ送る意味

VC(iMakerbase)のメイカースペースで、工作機械のメンテナンスをする秋田教授

 秋田教授が教鞭をとる金沢大の融合学域とは、金沢大学が先駆けとして始めた文理融合の試みで、2020年にそれまでの人文・理工・医薬の3学域(学部に相当)を全学規模の再編を行い、改組した第4の学域だ。秋田教授は、その試みに率先して加わり、融合学域で教えることにした。同学域では、3年生になった学生は外国にインターンに行くことを必修にしている。その行く先として中国・深センにも白羽の矢が立っており、筆者の知り合いのベンチャーキャピタルにも、来年から数名の金沢大生が派遣されてくる。

 深センでは毎週のようにデモデイや、スタートアップ同士のマッチングイベントが行われている。秋田教授は学生と一緒にイベントを運営したり、スタートアップを評価するなどといったことを実施したいと思っているようだ。

「融合学域の学生は、何かの技術についてすごく詳しいというより、プロデューサー的なことをやる学生が多いのです。今の世の中でニーズを探し、それならこういう人に話を持っていけばうまく行きそう、みたいなところが求められるスキルのひとつじゃないですか」(秋田教授)

 深センでのインターン経験で、プロジェクト的視点を持った学生を育成できるかもしれない。筆者の感覚では、30人程度のインターンから、2、3人ぐらいは“人生変わる”人が出てくるのではないだろうか。

「深センにくると、レベルがすごく高い人もいるけど、レベルが低い人も仕事そのものは、やっているのですよ。会社やVCの数が多いから、裾野も広い。だから、逆に言うとその「俺でもできそうだな」と思うことを目の前でやっている人こそが、がすごく大事だと思います。中国は世界トップじゃないんだけど、(サッカーに例えれば)みんな必死でボール蹴りながら、今より上手くなるにはどうすればいいかと考えている人がいっぱいいます。マーケットがあるから」(秋田教授)

 もちろん中国にも、ドローン製造のDJIなど世界のトップクラスの企業はある。しかし、そういう華やかな存在を見るだけではなく、ピンからキリの人材や企業が入り混じり、白熱するビジネス現場を学生に体感させることに意味があると言うことだろう。

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