年内に閣議決定される税制改正大綱に向け、与党税制調査会での議論が行われてきた。インボイスや相続税、防衛費などに関する議論が連日報道されているが、web3界隈では「暗号資産の課税方法の見直し」がどうなるのかが注目されている。
今回配信されたポッドキャスト「Joi Ito’s Podcast ~変革への道~」では、web3税制の見直しに取り組んでいる自民党デジタル社会推進本部のweb3 プロジェクトチーム(以下、web3PT)座長平将明さんが緊急出演。ナビゲーターの伊藤穰一と奥井奈南が現時点での状況を聞いた。
奥井奈南(以下、奥井):やっぱり我々が気になるのは、web3に関する税制です。平さんをはじめとするweb3PTは、11月10日にweb3関連の税制に関する緊急提言をされていらっしゃいました。これは具体的にどんな提言をされたんでしょうか。
平将明(以下、平):まず、議論の始まりは、Astar Networkの渡辺創太さんという若いスタートアップの経営者がいて、今シンガポールで頑張っているんです。彼はなぜシンガポールに出て行かなければいけなかったのか、という所から始まっています。いわゆるスタートアップがブロックチェーンでトークンを発行すると、一定のトークンを手元に持っているだけで時価評価されて課税をされるという問題があるんです。この課税の方法を見直さないと、日本でブロックチェーンの関連のスタートアップは起業ができない、というところから問題が始まっているんです。
我々の提言は大きく分けて4つあります。ひとつは、自社発行で自社保有をしているトークンに対する時価評価課税の問題というのが、今の渡辺さんの件です。もうひとつは、発行されたトークンを持っている側、つまり投資をした側の話になります。こちらにも時価評価で課税されるので、これも時価評価は外して欲しいですよねっていうのが、2つ目です。3つ目は個人が、持つ暗号資産なのですが、(売却や利用で利益が出た場合など)税率が最高で55%ぐらいまでになるのです。これも株式と同じレベルに合わせたいですよねというのが3つ目になります。4つ目は、トークンからトークンに変えただけでも毎回課税されるんです。暗号資産やトークンはいろいろ持ったり変えたりするわけなので、トークンからトークに変えただけで、課税されないようにして、法定通貨に変えた段階で評価をして税金がかかる仕組みにしようということです。この4つを、私が座長を務めている自由民主党のweb3PTで提案をさせていただいたということです。
奥井:私もNewspicksの番組で、web3関連のゲストを呼んで話したんですけど、渡辺創太さんもOasys社のCEOも全員がシンガポール住まいだったんですよ。ほとんど日本ではweb3スタートアップの会社はやっていないっていう状況が、私もすごくもったいないなと思っていて、税制に関することはすごく気になっていました。
伊藤穰一(以下、伊藤):税制調査会の感触はどんな感じだったんですか?
平:結論から言うと、ひとつめの自社発行で自社保有のガバナンストークンの時価評価課税。これは時価評価から外れそうな感じです。多分外すことができるだろうと現時点では、見通しています。これは経産省や金融庁も一緒に戦い、一緒に取り組んだので、これはとれるんじゃないかなと思ってます。一方で2つ目、3つ目、4つ目は厳しいと。実現しない見通しになっているという感じです。
伊藤:それもしかすると、来年までにはいろいろ議論して来年度は可能性があるという感じですか。
平:今(議論しているのは)まさに来年度、来年の4月から始まる税制を議論ですね。
1つ目の課題と2つ目の課題は車の両輪なので、それを両方やらないといわゆるエコシステムが回らないです。いわゆる”渡辺創太問題”というのは、「渡辺創太さんのこと」だけ解決すればいいわけではなくて、「投資をする側」もちゃんと解決しないと、その果実を得るのは税制的に優遇されている外国の投資家になってしまうわけです。ですから、その辺はかなり強く主張したんですけども、税調の「インナー」というベテランの自民党のいわゆる税の専門家と言われている政治家の人たちは、ちょっとこれはまだ早いんじゃないかと。
ガバナンストークンの方は、会計基準が整えられてなかったので、運用でいけるという話があるんです。一方で、ファンドや投資家がトークンを買うということが、決済手段として会計上整理されているので、税と会計の不一致がおこるという問題があるんです。ただ、web3の世界は動きが速いので、普通の世界の10年が1年ぐらいで起きてしまうので、税の方は「やる」と意思表示して、会計の基準の方に働きかけていくというのがあるべき姿だと思って、いろいろプレゼンもし、いろんな人に説明して歩きました。けれども、ここはちょっと理解が得られなかったですね。
奥井:個人の暗号資産取引に関する課税はどうなる予定でしょうか。
平:そこはもう本当にほとんど議論のテーブルにも載せることができなかったということです。
奥井:今後は、税制改革というのはどういうステップで進められるんですか。
平:今、大体議論が終わりましたので、税制大綱という形で最終的に出てきます。今、私が言った話がそのままなのか、多少改善をされているのか、そこでそれが確認をできると。で、これが終わるとですね。また、1年後ということになります。
伊藤:はい、お疲れ様でした。
平:はい、いや、非常に大変でした。まず、「web3って何なんですかね?」というところから、理解をしてもらわなければいけないし、いわゆる”税調のひな壇”と言われているインナーの(議員の)人たちはガラケー使っている人たちなので。web3以前に「Web2.0って何なの?」みたいなところからやらなければいけないわけです。
税収が減るとなると財政当局が反対をするんですが、これは税収が減る話じゃないんですよね。例えばトークンの時価評価を外すというのは、この税制改正しないと「日本では起業しない」「日本で投資しない」ということなので。税制改正した方が税収も上がるし、国内に雇用が生まれますよね。会計基準と税の不一致ということはあるけれども、大きな文脈では反対する理由はほぼない。web3やブロックチェーンがもたらすインパクトに対するイマジネーションが、その政治家にあるかないかという、かなり深刻な問題が露呈したと思いますね。
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番組では、ステーブルコインやCBDCに関する取り組みや、今話題のGPT-3に関する話題なども取り上げた。詳しくは、JOI ITO’S PODCASTでお楽しみいただきたい。
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【編集ノート】
伊藤穰一からのメッセージや、スタッフによる制作レポート、そして番組に登場した難解な単語などはこちら。
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