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血液検査でわかる“認知症が20 年以内に発症するリスク”

血液検査でわかる“認知症が20 年以内に発症するリスク”(イメージ図)

血液検査でわかる“認知症が20 年以内に発症するリスク”(イメージ図)

 NECグループのNECソリューションイノベータ株式会社が100%出資するフォーネスライフ株式会社(本社・東京都中央区)は、デジタルヘルスケアサービス「フォーネスビジュアス(Fones Visuas)」を展開している。フォーネスビジュアスとは、検査対象者から採取した少量の血液から約7,000種類のタンパク質を一度に測定・解析し、心筋梗塞・脳卒中や肺がんなどの発症リスクを予測して示し、生活習慣の改善を促すサービス。そのリスク予測を可能にするのが、米国SomaLogic(ソマロジック)社の解析技術とNECグループのAI技術だ。

 フォーネスライフ社は10月26日、フォーネスビジュアスに、検査日から20年以内に認知症が発症するリスクを予測する検査項目を新たに追加し、取り扱い医療機関で順次提供を開始することを発表した。超少子高齢化社会を迎え、今後認知症患者が増加することが危惧されるため、認知症の早期発見に資するサービスは大きな意義を持つ。事業展開についてフォーネスライフ代表取締役CEO江川尚人氏に話を聞いた。

血中タンパク質のパターンを分析

 フォーネスビジュアスは、一度の検査で約7,000種類のタンパク質を解析し、心筋梗塞、脳卒中、一過性脳虚血発作、入院を伴う心不全について4年以内の発症リスクを示すことができ、さらに同じ検査の中で5年以内の肺がんの発症リスクを示すことができる。今回ここに、認知症発症リスクの項目が加わった。

「将来の疾患予測(認知症発症リスク)」と「現在の体の状態」の検査結果報告書イメージサンプル(フォーネスライフ提供)
「将来の疾患予測(認知症発症リスク)」と「現在の体の状態」の検査結果報告書イメージサンプル(フォーネスライフ提供)

 江川氏は約7,000種類のタンパク質のうち 25 種類の血中タンパク質のパターンを解析することで、“認知症が 20 年以内に発症するリスク”を判定することに成功したと説明した。フォーネスライフは、タンパク質の解析技術を持つ米国SomaLogic社に出資しており、日本ではフォーネスライフだけがその解析技術を利用できる。

 実際にフォーネスビジュアスを利用するには、フォーネスライフのオンラインマーケットで申し込む方法と、取り扱い医療機関に直接申し込む方法の2通りがある。現在Makuakeでクラウドファンディングを実施中で(1月10日まで)、心筋梗塞・脳卒中/肺がんのリスク予測を含むフォーネスビジュアスのサービスを数量限定特別価格で購入することも可能だ。検査を受けると、次のようなデータが示される(見本例)。

 認知症は、発症の 20 年以上も前からゆっくりと病状が悪化していくとされているため、現時点では「20年以内の発症リスク」という形で提供していると江川氏は話した。

 受診者は、検査の結果を受けて、保健師の資格を持つコンシェルジュの面談を無料で受けることができる。また、NECソリューションイノベータで開発したスマートフォン向け専用アプリ「生活習慣フォロー・改善アプリ」も提供され、日々の生活習慣改善の取り組みが支援される。

「通常の健康診断の結果と、フォーネスビジュアスの検査結果を見ながら、弊社のコンシェルジュと、生活習慣の見直しについて、ご自身の状態と嗜好に合わせてどういうものがいいのかと相談しながら、生活習慣改善メニューを作るようなイメージです」

自治体での利用も

「将来の疾患予測(認知症発症リスク)」と「現在の体の状態」の検査結果報告書イメージサンプル(フォーネスライフ提供)
フォーネスライフ代表取締役CEO江川尚人氏(フォーネスライフ提供)

 江川氏は、フォーネスビジュアスによる認知症などのリスク予測には、各自治体からも大きな興味が寄せられていると語った。例えば高齢化率36.23%の熊本県荒尾市では、保健・介護事業へフォーネスビジュアスの導入準備を進めている。平成30年版高齢社会白書(内閣府)によれば、高齢者が要介護になる原因のトップは認知症であり、要介護者を少しでも減らすことは自治体の大きな課題だ。荒尾市ではフォーネスビジュアスの検査によってあぶり出されたハイリスクな人に、生活習慣改善のサポートを自治体ぐるみで行っていく予定だ。

 江川氏に今後の課題と展望を聞いた。課題としては、現在は米国にあるSomaLogic社に検体を送る必要があり、検査を受けてから結果が出るまでに1カ月近く時間がかかることだ。それに対しては、現在東京・新木場にラボを建設中であり、2週間程度に短縮できるようになるということだ。

 江川氏はフォーネスライフの展望を次のように語った。

「 (人は)ならなくていい病気にはならない方がいいと思うのです。自治体との取り組みや、企業の健保などとの取り組みを通じ、多くの方にこの仕組みを活用してもらいたいです。そして、将来のリスクを見ることで自分自身の考え方を変え、生活習慣の改善に取り組んでいただければ。また、今後に向けては製薬会社との連携など予防的投薬、先制医療なども含め、(多くの人に)元気に自分の人生を全うしていただけるよう事業を進めたいと思っております」

 そして、さらなる事業展開については、資金調達の必要性も感じている。

「サポートの質や検査できる病気の数を増やすため、増資も含めて資金調達はしっかり行っていく予定です」

あえてNECブランドにこだわらず

 江川氏はこれまでも、NECグループの経営企画部門で、さまざまな事業の立ち上げに関わってきた。今回、フォーネスビジュアスを展開するにあたって、なぜ「NEC」のブランドで事業をせずに、別会社を立ち上げたのだろうか。

 一時期は、NEC内でNECブランドを使って事業を進めることも考えたという、「しかし、いろいろ見てみると外に出た方が、圧倒的にスピードが速いと考えたのです」

「(人材を集める際にも)NECグループに就職してもらうというより、こういう世の中を作りたいというビジョンを示し、新しい会社として立ち上げた方が、いろんな人材が集まっていただけるというのがありました」

 最後に江川氏は先進企業との連携について、垣根を問わずやっていきたいと述べ、「この記事をお読みになった方で、(われわれの事業に)共感いただけるようなものがあれば、ぜひ一緒にコラボレーションさせていただきたいです」と語った。

関連リンク(プレスリリース)

デジタルヘルスケアサービス「フォーネスビジュアス」に5年以内の認知症発症リスク予測など検査項目追加(2023年8月28日)

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ライター、著者。有限会社ガーデンシティ・プランニング代表取締役。ICT関連から起業、中小企業支援、地方創生などをテーマに執筆活動を展開。著書に「マンガでわかる人工知能 (インプレス)」など。