Waffleが手掛けたイベントに参加する生徒ら(2023年1月27日提供、資料写真)。(c)特定非営利活動法人Waffle
【AFP=時事】「女子は文系。男子は理系」──。日本の女子中高生の間で、そんなステレオタイプを乗り越えようとする動きが広がっている。
世界の女子およびジェンダーマイノリティーの中高生を対象にしたアプリ開発コンペティション「テクノベーション・ガールズ(Technovation Girls)」。日本からの応募者は今年、昨年の2倍近い約220人に達した。
このイベントは2010年、米国で始まった。テクノロジーを活用して社会が抱える課題を解決するアプリ開発を競う。日本では特定非営利活動法人「Waffle(ワッフル)」が日本公式アンバサダーとして、毎年参加者を支援している。今年はパソコンやWi-Fi(ワイファイ)機器を無料で貸し出す。
昨年は24都道府県から120人が参加。今年はこれまでで最大の34都道府県から219人がエントリーした。コンテストのプロジェクトマネジャー、古瀬麻衣子氏(38)は、「大きな飛躍」と歓迎する。
8月の最終審査「World Summit」に向けて、参加者を対象としたプログラミング講座が年明けから始まった。日本からはこれまで、子ども食堂と農家、配達員の三者をつなぎ、規格外品や余剰野菜などの食材を活用するアプリや、生徒の意見を校則に反映させるアプリなどが出品されており、テーマは幅広い。「自分たちの人生の中で選択肢はたくさんあって、自由に選んでいいということをより伝えられるようなプロジェクトにしたい」と、古瀬氏は言う。
岡山県の高校3年生、小野さん(18)は昨年、コンペに参加。チームで環境に優しいエシカル(倫理的な)コスメをテーマに、検索やレビュー機能を搭載したアプリを制作した。
文系でプログラミング初心者だった小野さん。情報科学に興味はあったが、文系から進学できる自分の興味にあった理系の大学学部はないと諦めていた。それが今や、コンペ参加を弾みに、海外のコンピューターサイエンス学部への進学を目指している。「誰かに左右されるのではなくて、『自分のしたいようにしなさい』というイベントだった。自分の選択、人生の選択の主導権は自分で握っていると思ったので、海外の大学で理系を選ぶという選択肢ができた」
Waffle広報の辻田健作氏(42)は、日本における理工系のジェンダーギャップが依然、大きいと感じている。その背景として、学校教育における男女の役割分担の刷り込みが挙げられると言う。「例えば、理科の授業でアルコールランプとか危険な実験をするのは男子で、それを記録するのは女子。部活でも競技によって女子は記録係。それを教育(の場)で受けていると次の世代に再生産していく。そういう隠れたカリキュラムも問題」と指摘する。
経済協力開発機構(OECD)によると、2019年に高等教育機関に入学した女子学生のうち、加盟国平均で52%が自然科学、26%が工学を選んだ。日本は27%が自然科学、16%が工学と、比較可能な36か国中、最低だった。
数学・物理分野におけるジェンダー問題を研究している、東京大学の横山広美教授は、「日本の理系の女性は極めて少ない」と警鐘を鳴らす。
主な要因として、算数・数学は生まれながらにして男子の方ができるという間違った認識である「数学ステレオタイプ」があり、日本ではこの影響が強い。数学ステレオタイプは5歳頃から芽生え始め、女子生徒は理科や数学を中学で嫌いになる傾向がある。横山氏は「数学ステレオタイプは強く、これを否定して、勉強を継続するように促すことが大事」と言う。「特に女子生徒の場合は、最初からSTEM(科学・技術・工学・数学)分野を勉強することを応援されない雰囲気がある。自分の意思で決定していると思っているが、社会的に方向付けられている壁はたくさんある」
IT分野に関しては、変化が見られるという。横山氏の研究では、親が娘の進学先希望として理系分野で挙げたのは一番目が薬学、二番目が情報科学だった。「親御さんたちは、ビッグデータ時代、AIでどんどん仕事ができる時代には、データサイエンティストが活躍できるし稼げるということをよくご存じ。極めて心強い」
政府も、理系のジェンダーギャップ解消に向けて動き出した。昨年5月、岸田文雄(Fumio Kishida)首相を議長とする「教育未来創造会議」が、理工農系を専攻する女子学生の増加を目指すことなどを盛り込んだ第一次提言を発表した。
具体的には、女子学生の割合が少ない分野の大学入学者選抜で、女子枠の確保などに積極的に取り組む大学を対象に、運営費交付金や私学助成を通じた支援を強化する案が示された。
テクノベーション・ガールズが「人生の転換点」になったという小野さん。後輩たちにもエールを送った。「参加者の中でもアプリを本当にリリースしている人がいて、本当に(世界を)変えられる。うちの学校とか後輩からも、そういう人が出てほしいと思う」
コンペ参加者は2月から3か月間、アプリを制作する。まずは4月末予定の国内報告会、その後行われる全世界からの参加者を対象とした一次審査の通過を目指す。【翻訳編集】 AFPBB News|使用条件